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WBA/WBC/IBFスーパーウエルター級チャンプが統一戦の3日前に訪れた場所

林壮一ノンフィクションライター
Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME

 WBA/WBC/IBFスーパーウエルター級チャンピオンとして、同級WBO王者のブライアン・カルロス・カスターノと戦ったジャーメル・チャーロは試合の3日前、ある施設を訪れ、25名以上の少年少女と対面した。

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 統一スーパーウエルター級タイトルマッチが開催されたテキサス州サンアントニオをフランチャイズとするNBAチーム、スパーズのマスコットである「ザ・コヨーテ」に促され、会場に姿を見せたジャーメル・チャーロ。

 同じテキサス州民であるチャンピオンは、81年の伝統を誇る[The Boys & Girls Clubs]に属する若者たちに、人生の切り拓き方を説き、励ましの言葉を伝えた。

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 [The Boys & Girls Clubs]に集う若者たちは、リスクのある環境での生活を強いられる10代が主なメンバーである。同施設には数年前にボクシング・リングが造られ、何名かはチャーロ兄弟に憧れ、今日も汗を流している。

 他にもフラッグ・フットボールの競技場、バスケットボールコート、ベースボール場、スイミングプールが設置されている。放課後にこの場所を訪れる中高生たちが、様々なプログラムを通じて教養を身に付け、人間性を磨き、健康的な生活を送る手助けをするのが、同組織の狙いだ。

 このほどジャーメル・チャーロは、「努力を続けることの重要さを語ってやってほしい」というオーダーに応じたのだ。

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME

 「俺がこの場所にやって来ることに意味があると思った。様々なバックグラウンドを持つ少年少女に、夢を追いかけることの尊さを感じてほしかった。自分がボクシングをスタートしたばかりの頃、故郷のジムでイベンダー・ホリフィールドと出会う機会があった。彼に励まされ、勇気付けられたからこそ、世界チャンピオンになれた気がする。

 だから俺も、ホリフィールドから受け取った勇気を、次世代の子たちに渡さねばと考えた。俺の言葉を耳にして奮い立つ子がいたら嬉しいよ。必死に努力して、何者かになってほしい、という願いを込めて話した。子供たちの笑顔を目にして、美しい時間を過ごせた実感がある。彼らも幸福な時間だったと思ってくれるなら、これ以上の喜びはない」

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 17日の、WBA/WBC/IBF/WBOスーパーウエルター級タイトルマッチは引き分けに終わり、チャーロは4団体を束ねられなかった。しかし、自らの立場を弁え、チャンピオンとして若者にメッセージを与えた姿には頭が下がる。

 彼がタフなエリアに生きる子供たちに対して行ったのは、紛れもない「コーチング」だ。

 恵まれない環境で過ごす少年少女は、なかなか人を信じられない。そして簡単に犯罪に手を染めてしまう。チャーロの言葉は、少なからず彼らの胸に刺さったであろう。

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 このエピソードを知った私が思うのは、狭い日本に生きる10代のアスリートが、罵声を浴びながら、あるいは鉄拳を喰らいながら、甲子園や全国大会を目指している現実である。

 哀しいかな日本には、いかなるタイミングで、どのような言葉を掛ければ選手のモチベーションが上がるのか、人間として成長できるかをまるで理解していないスポーツの指導者が多い。※この問題の解決策や参考例について詳しく知りたい方は、拙著『ほめて伸ばすコーチング』(講談社)をご覧ください。

 日本でも、チャーロの[The Boys & Girls Clubs]訪問のような行為が増えることを祈りたい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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