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NBAオールスターゲームで勝利を決定づけたポイントガードの礎

林壮一ノンフィクションライター
8本の3ポイントを成功させ、32得点を挙げたデイミアン・リラード(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 2021年のNBAオールスターゲームは、デイミアン・リラードの40フィートに及ぶロングシュートが決まったところでチーム・レブロンの得点数が170となり、20点差でチーム・デュラントを下し、ゲームセットとなった。

 この日のリラードは20分56秒間プレーした。試合を決定付けたゴール等8本の3ポイントを含む32得点を挙げた。

 スターティングのポイントガードはステフィン・カリーに譲り、1Q残り5分54秒にコートに入る。まずは2本の3ポイントを放つが共に外れ、ステップバックしながらのシュートも失敗、加えてターンオーバーと立ち上がりは悪かった。

ライバルであるステフィン・カリーと同じチームで出場
ライバルであるステフィン・カリーと同じチームで出場写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 それでも私は、リラードが何かを見せると感じていた。今季、ポートランド・トレイルブレイザーズのホームゲームのほとんどを記者席から見詰めているが、彼がいかにリーダーとしてチームの為に闘っているかは分かっている。派手さよりも献身力が彼の魅力だ。

 ブレイザーズで唯一オールスターに選出されたリラードは、ゲーム開始7時間前に行われたオンライン会見で、「去年のオールスターはケガで欠場してしまったので、その分、喜びを感じてプレーしたい」と語った。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 リラードは2012年にNBA選手となって以来、ブレイザーズ一筋でプレーしている。BIGクラブとは呼べず、チャンピオンを目指すのは厳しい環境であることを受け入れながらチーム、そしてポートランドを愛し、労を厭わずに闘う様に何度も目を奪われた。

 昨年、ミネソタ州ミネアポリスで46歳の黒人男性が白人警官に命を奪われた際、リラードはブラックの人権を守ろうと、11日後にポートランドで行われた抗議デモの一員となっている。Black Lives Matterにも積極的に参加している。そんな彼がチームを引っ張るからこそ、現在ブレイザーズはプレイオフ進出を果たせそうな順位にいる。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 "KING"レブロン・ジェームズやカーメロ・アンソニーなど、昨今、ブラックであることの意味を把捉し、行動に移すNBA選手の姿が印象的だが、それに加えてリラードは、自主トレーニングにボクシングを取り入れている。黒人アスリートとして、あのモハメド・アリの影響を受けているに違いない、と思っていた。

 https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210308-00225564/

 私はオンライン会見で、リラードに質問した。

ーーー1971年3月8日の「世紀の一戦」ジョー・フレージャーvs.モハメド・アリから50周年の日に催されるオールスターで、あなたは何を見せますか? 

 リラードは答えた。

 「僕はボクシングが好きで、ちょうど昨日もあの試合を見たところです。アリの試合の映像は何度も繰り返し見ています……。まぁ、とにかく今年は楽しみたいと考えています」

ーーーアリとフレージャーの闘いから、何を学びましたか?

 「自分にとって、モハメド・アリは最も愛すべきアスリートです。リングの中だけでなく、外でも闘い続けましたよね。歴史に詳しい訳ではありませんが、NBAにも多大な影響を与えた人です。人間がどう生きるべきか、何を信じるべきなのかを示した偉大なアスリートですよね」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 今年のオールスターは、19分12秒の出場で、放った16本のシュートを全て決め、35得点したヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)がMVPを獲得した。また、同じチーム・レブロンで30分47秒ガードとして出場したクリス・ポール(フィニックス・サンズ)は16アシストをマークし、11度目の出場にして総アシスト数128でオールスター記録を塗り替えた。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 が、2Qの残り10分24秒に最初の3ポイントシュートを成功させてから、徐々に自分のリズムを掴み、16本中半分の3ポイントを決めたリラードの働きも宴を十二分に盛り上げた。

 会場となったのはアトランタ・ホークスのアリーナである。1996年のアトランタ五輪で、最終聖火ランナーを務めたのはモハメド・アリだ。

写真:ロイター/アフロ

 競技は違うが、今後、リラードが黒人のトップアスリートとして、いかにアリから受け継いだものを見せて行くかーーーにも注目したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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