無敗を誇ったポーランド人世界ヘビー級ランカーがKO負け
20戦全勝15KO、WBAヘビー級4位。
そんな肩書以上に印象に残るのはタプタプと揺れる腹の贅肉であった。
FOX TVの目に留まり、この試合に勝てば世界挑戦という青写真が描かれつつあったポーランドの星、アダム・カナッキはファーストラウンドから精彩が無い。パンチを放っても強弱がなく、前後の動きも単調だ。身長で9cm、リーチで8cm優る対戦者、WBA7位のロバート・ヘレニウスの懐に入れない。
第4ラウンド29秒、ヘレニウスが右ストレート、左フックを見せる。その2つ目を浴びたカナッキは腰からダウン。直ぐに起き上がるが、ヘレニウスはチャンスを逃さなかった。20秒の間に、右フックを中心としたおよそ30発の連打を見舞いレフェリーストップを呼び込んだ。
ブルックリン在住のカナッキが、この試合の会場となったバークレイズセンターで試合をするのは10度目。ファンの前でいい仕事をしたかったであろうが、完膚なきまでに叩きのめされた。
試合後、カナッキは言った。
「これもボクシングです。難しいスポーツですよ。自分のやろうとしたことが出来なかった…。次に向けて、いい経験を積んだと思いたいです。ヘレニウスはいいパンチを持っていました。自分に失望しています。どう戦うべきかを理解していた筈なのに」
ボクシング界では、毎日のように世界中のどこかで「自分に勝てない男が、相手に勝てるか?」という言葉が飛び交っている。「どう戦うべきかを理解していた筈」なのであれば、彼は、己の体を作ってリングに上がるべきではなかったか。あるいは、デブデブでも20戦全勝なのだから、これが自分の理想の体型だという慢心があったか。
一方、フィンランドからやって来て、敵地で金星を挙げたヘレニウスは、
「この試合を実現してくれた全ての人にお礼を言いたい。カナッキはタフな選手。だからこそ、ハードな練習を積んだ。強打を持続させることをテーマにファイトした。自分のパンチでカナッキがダメージを負っているのが分かった。それでもカナッキは前に出て来たよね。いい選手だよ」
とコメントし、敗者への労わりを忘れなかった。
2018年10月。私はラスベガスの大手ホテルの幹部と会食する機会に恵まれた。その際、彼は言った。
「このところ、ボクシングの興行をなかなか打てない。マイク・タイソン、ジョージ・フォアマン、イベンダー・ホリフィールドなどがいた頃は、ヘビー級タイトル戦を組めば街全体が潤った。本当にビッグイベントだったよ。その後もオスカー・デラホーヤやマニー・パッキャオが盛り上げたけれど、今はビジネスとして厳しい。ボクシングが低迷しており、UFCの方が客を呼べる傾向にある」
デオンテイ・ワイルダーvs.タイソン・フィーリーIIで久しぶりに活気づいた最重量級だが、カナッキとヘレニウスによる<WBAヘビー級タイトル王座決定戦>も、内容はお寒かった。
時代が違うと言えばそれまでだが、毎月のようにラスベガスで熱戦が繰り広げられたあの頃のような"熱さ"が懐かしい。そういう意味でも、井上尚弥に期待したい。