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2冠チャンプ田口良一が語る「侍 八重樫東」

林壮一ノンフィクションライター
撮影:山口裕朗 その闘志がどんな時もファンの心を打つ

 八重樫東、36歳。毎試合、激しく相手と打ち合う、炎のファイター。23日にIBFフライ級王座に挑み、9Rにレフェリーストップで敗れた。大橋秀行会長が「壊れてしまうんじゃないかという位の練習量をこなしています。こちらが驚く程ですよ」と語る練習の虫だ。

 そこまでの覚悟で自分を苛め抜いて迎えた2年7ヶ月ぶりの世界戦。序盤は軽快に足を使い、アウトボクシングでポイントを稼いだように見えたが、8R、9Rと王者、モルティ・ムザラネの連打を浴び、試合は終了した。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 しかし、どんな時もファンを熱くさせる魂のファイトは、この日も健在だった。リングを去る八重樫の背には万雷の拍手が贈られた。

撮影:著者
撮影:著者

 さて、先日引退した田口良一もまた、侍と呼べる熱いファイターであった。https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20191219-00155275/八重樫と田口は何度もスパーリングを重ねている。今回は、その田口にムラザネvs.八重樫戦について語ってもらった。https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20191220-00155272/

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 八重樫さんは、僕がプロデビューした時、既に東洋太平洋王者でしたし、憧れの人でした。「あんなチャンピオンになりたいな」という気持ちで見ていましたね。

 自分と八重樫さんは50R近くスパーリングを重ねました。僕の世界挑戦の前にもやっています。八重樫さんはパンチの回転も、動き自体も滅茶苦茶速いんですよ。相手を翻弄してしまうファイターです。

 でもライバルとは、とても思えなかったですね。僕が4回戦の頃から第一線で活躍されていましたから、遥か上の存在として見ていました。

 僕が井上尚弥くんと戦った後も、「いい試合だった。良かったよ」なんて言葉をかけて下さったんです。八重樫さんは井上くんと同じジムに所属する先輩なのに、僕のことも気遣ってくれたんです。ああ、この人は優しさが滲み出ているな、と感じましたし、すごく励まされました。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 今回の試合は途中まで「上手く戦っているな」「流石に八重樫さんは経験を生かしている。頭も使っていて強い!」と感じました。モルティ・ムザラネは中間距離を得意としていますよね。その距離にならないように、巧みに足を使いました。ボディへの攻撃も良かったです。いい流れだな、と思って見ていました。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 ただ、3〜4Rはムザラネが距離を支配しましたね。そこで八重樫さんは5Rに気持ちを前面に出して流れを変え、良い戦いが出来始めていました。でも、パンチを食らってしまった。ムザラネはしっかりパンチを打ち込んで来ましたから、見栄え以上に重いパンチだったのかなという印象です。

 1発のパンチ力はチャンピオンの方があったのかな、と。その差が明暗を分けたように感じます。個人的には、ストップが早かったような気もしましたが‥‥。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 今回、八重樫さんが敗れたのは、パンチをもらってしまったからです。耐久力の問題ですね。でも、動きが衰えたとは思いません。

 僕は「やり切った」という思いで引退を決めましたが、本人が戦いたいのなら、周囲が何を言おうと、自分の気持ちに忠実にやって頂きたいです。心が死んでいないのなら、八重樫さんは戦えますよ。素晴らしいファイターですし、気持ちが折れていないのなら、やったらいいと思います。僕は心底、応援します。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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