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アルゼンチン人コーチが語る「ブラジル戦の審判は酷かった。しかし…」

林壮一ノンフィクションライター
コパ・アメリカの準決勝で宿命のライバルブラジルに敗れたアルゼンチンだが…(写真:ロイター/アフロ)

 実兄のピチは、あのディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は現在、京都サンガ所属のエスクデロ競飛王。自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。今、エスクデロは、埼玉県に発足したクラブチームFC Futureで指揮を執っている。

 その彼が、コパ・アメリカ準決勝でブラジルに敗れた母国の試合を振り返った。

撮影:著者
撮影:著者

 コパ・アメリカの準決勝でアルゼンチンがブラジルに0-2で敗れました。でも、内容は良かったです。負けはしましたが、ボール支配率で上回り、シュートの数も多かった。特に目についたのはメッシですね。

 ブラジルワールドカップで準優勝した際、「メッシは歩いてばかりだ」「ディフェンスをまったくしない」「闘志が足りない」「彼の体に流れる血を全てマラドーナと入れ替えねばダメだ」等、散々叩かれました。ロシアW杯もベスト16で終わっちゃった。2015、2016のコパ・アメリカも2位です。ずっとエースであるメッシの決定力が嘆かれて来ました。まぁ、それだけ期待されているからですが…。

 でも、昨日のブラジル戦でのメッシはスライディングを見せたし、ボールを取られても相手を必死に追いかけていました。ディフェンスもよくやりました。試合前から国歌を歌って“闘う気持ち”を見せていましたね。今までに見たことのないリオネル・メッシを見せたんですよ。その姿にアルゼンチン国民は胸を熱くさせたんです。

 右サイドを突破したダニエウ・アウベスが、ロベルト・フィルミーノへ送ったパスを折り返されて前半19分に失点。そこでブラジルが優位に立った訳ですが、アウベスのプレーの前にファールがあったんです。アウベスは、アルゼンチンの22番、ラウタロ・マルティネスのユニフォームを引っ張っていました。間違いなくファールです。VARで確認していれば、あの得点は生まれませんでした。

 他にも、セルヒオ・アグエロがブラジルのゴール前でクロスボールを待っていた時に、ダニエウ・アウベスが足を出しており、本来ならPKが与えられていた筈なんです。それについてもVARでの確認がなされませんでした。

 主審がブラジルの反則を2つも見逃し、プレイオンと判断したんですね。アルゼンチンサッカー協会は、南米サッカー連盟に抗議したようですが、やはり開催国であるブラジルに優位となる主審の動きだったことは間違いありません。アルゼンチン国民は、皆、それを分かっていますよ。

 アルゼンチン国民は、今回のブラジル戦の敗北に対してそれほどショックを受けていません。まずは不可解なレフェリーによって負けたこと、メッシを筆頭に選手たちが頑張っていたこと、そして若手の台頭が感じられたことで、イエローカードが7枚も出る激しいゲームで見応えがあった、そんな理由である程度納得できているんですね。

 メッシはナショナルチームで68ゴールしている選手です。きっと100ゴールを超えられるでしょう。格の違いを見せられる男です。左足はもちろん、右足でも頭でもゴールを決められる。2位であるガブリエル・バティストゥータの54を大きく引き離しています。

 あんなに燃えるメッシを見られたことが、アルゼンチン国民の哀しみを半減させたんです。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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