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ひと味違う「挑戦者、村田諒太」

林壮一ノンフィクションライター
撮影:山口裕朗

 「今回の村田は、目の色がまったく違う。非常にいい姿勢で取り組んでいますよ」

 帝拳ジム、本田明彦会長は、練習前にそう語った。

 実際、村田諒太がリングに上がり、ミット打ちを始めると、その言葉の意味が分かった。

 本田会長はニヤリとして続けた。

 「前回と180度違う村田を見せられれば、ブラントは驚くでしょうね」

 

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 初防衛戦、2度目の防衛戦の頃とは比較にならない程、村田の手数が多い。また、膝の使い方を意識して重心を下げていた。

 ミット打ちは合計で5ラウンド。必ず4発以上のコンビネーションを放ち、素早く相手にプレッシャーをかけるイメージも忘れなかった。追い足、バックステップを含めて、かつてよりも激しくリングを動きながらパンチを繰り出した。

 この日、ミットを持ったカルロス・リナレスは話した。

 「村田と僕のサイズが同じくらいだから、今回ミットを持っています。前回までは、一発、一発、強く打つスタイルだったけど、沢山動いて、沢山手を出すトレーニングをしています。大丈夫、彼なら出来るよ!」

 村田がロブ・ブラントに敗れた10月20日、会場には元WBOヘビー級王者のシャノン・ブリッグスがいた。ブリッグスは、「ムラタは世界王座にもう一度就けるだけのモノを持っている。でも、もっとBUSYに動かないと」と語った。

 前WBAミドル級チャンピオンは、そのBUSYな動きを課題とし、リターンマッチに臨もうとしている。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 王座を失った一戦の映像を見直した村田は、次のように反省点を挙げた。

 「自分のガードの上を打たせて疲れさせて、その後を打つという、グータラなボクシングをしました。それで結局、相手にリズムに乗られて、逆にこっちが打たれ疲れて負けるという最悪なパターンでした。まずはそうならないこと、その最低限のことを守ること。自分から手を出せるバランスをテーマとしています。そこからは発想に頼っていきたいと思います」

 カムバックを決めた際、村田は言ったものだ。「ブラント戦をボクサー生活の最後とするのは納得できない」

 その通りだ。トップボクサーとは、誰もが自身の生き方をファンに見せる。

 己のプライドを懸け、新たな村田諒太を築こうと鋭い視線で汗を流す様は、敢えて述べれば藤の花のような優美さがある。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 挑戦者、村田諒太の闘いを見届けたい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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