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200年に一人の天才ボクサーが語る「田中恒成vs.田口良一」

林壮一ノンフィクションライター
撮影:福田直樹

 現役時代、所属していた協栄ジム会長、故金平正紀に「具志堅用高を超える逸材。200年に1人の天才」と絶賛された元WBAジュニアウエルター級1位、日本同級&日本ウエルター級王者の亀田昭雄。

 本シリーズでお馴染みの彼が、3月16日NBAに催されたWBOフライ級タイトルマッチについて語った。

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 田中恒成のスピードが、田口良一を上回っていましたね。スピードの差が明暗を分けました。3ラウンドの後半に田口がボディブローを喰らったことも響いたように思います。あれで、田中にペースを握られました。田口の動きがカクっと落ちましたよ。いいファイトでしたが、ワンサイドの展開になってしまいましたね。

 

撮影:福田直樹
撮影:福田直樹

 いつも田口は、後半に相手を追い込んで行きます。が、田中の方がリズムに乗っていきました。田口が失速していく中で、王者はエンジンが掛かったんですね。

 正直、僕はいつ田口が田中を追いつめるのかな、という気持ちで見ていました。8~9ラウンドで仕掛けるだろうと。でも、それが出来ませんでしたね。あまり言いたくないけれど、9歳の年齢差を感じざるを得ませんでした。

 ただ、昨年の5月のヘッキー・ブドラー戦より、田口のコンディションは良かったですよ。確かに重心が低くなりました。今回、ボクシングの形は問題なかったんですよ。でも、攻撃が単調になってしまった。また、劣勢の局面では、やはり腰が高くなってしまった…。

 田中は勘のいい選手です。そういうタイプはフェイントに弱いんです。ですから田口は、もっとフェイントを使えば良かった。僕が挑んだアーロン・プライアーが、クルクルと拳を回し、こちらが「何だ?」と思った瞬間にスーッと右をクリーンヒットしたような駆け引き。あるいは目のフェイントなんかを使ってほしかったですね。

撮影:福田直樹
撮影:福田直樹

 田口がとても真面目な男だというのは、戦いぶりを見れば分かります。必死で調整を重ねて来たことも伝わって来ました。WBAライトフライ級タイトルを7度も防衛した男ですから、素晴らしいハートを持っています。再起するなら、フェイントを覚えてほしいですね。

 もし、引退を選ぶとしても、彼は努力家ですから、きっと次の道で成功するでしょう。田口良一は、人生の壁を乗り越える術を体で理解している人間だと僕は思っています。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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