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アルゼンチン人コーチが語る「ベスト16で消えた祖国、そして日本代表」

林壮一ノンフィクションライター
2-0から逆転された日本代表。選手たちの胸に刻まれたものとは…(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 アルゼンチン出身。兄は1979年ワールドユース東京大会でマラドーナと共に世界一となったピチ・エスクデロ。息子は現京都サンガの背番号10、エスクデロ競飛王。

 自身はアルゼンチン、スペインでプロとしてキャリアを積み、アルゼンチンユース代表、ビーチサッカーアルゼンチン代表に選出された。引退後は、柏レイソル青梅、レッズ・ユース、埼玉栄高校、エルサルバドルのプロチームでの指導者を経て、現在は、埼玉県に発足したクラブチームFC Futureで指揮を執るセルヒオ・エスクデロ。

 彼に日本代表、そして、アルゼンチン代表について訊いた。

写真:本人提供
写真:本人提供

 日本代表は良く頑張りました。正直、試合前は5-0くらいでベルギーにやられてしまうんじゃないかと予想していました。でも、まったく集中力を切らさずに前半を0-0で折り返した。あそこまでは、五分五分の展開と言って良かったです。

 エースストライカーのロメル・ルカクを吉田麻也が巧みに封じましたね。吉田は、プレミアリーグでキャリアを積んだ姿を見せてくれましたよ。

 前半40分に柴崎岳がイエローカードをもらいましたが、「戦うんだ!」という、あの気持ちが大事なんです。 

 

 でも、日本代表は2-0になって少し気が緩みました。「これなら行ける!」と、選手たちもスタッフも、そして会場のサポーターも皆が勝利を確信したのでしょう。それが、慢心に繋がったと僕は見ています。そういったメンタルが、ベスト8に進めるか否かを分ける。今後の日本代表の課題になると感じました。

 確かに日本代表が負けたのは残念ですが、次に繋がる戦いでしたよ。ベスト8まで“あと一歩”だったことは間違いありません。ベルギーは格下の日本に先制され、0-2にされた訳ですから、決していい状態ではありませんでした。それでも、後半20分に2人の選手を投入し、試合をひっくり返せるだけの底力があるんです。そこに日本との差がありました。

 僕が疑問に感じているのは、3試合目のポーランド戦のメンバーです。主力を休ませたかったのは理解できますが、あの面子で勝てる訳がありません。酒井高徳、宇佐美貴史、槙野智章では仕事になりませんでした。

 コロンビア戦、セネガル戦といい流れで来ていたのに、ポーランド戦で止まってしまった。せめて本田圭佑を使ってほしかったですね。

 もし、ポーランドに勝って予選リーグを1位通過していたら……そして、昨日の戦い方なら…タラレバですが、もっといい結果を出せたように思います。3戦目のスタメンには、本当にガッカリしました。

 さて、日本と同じようにベスト16で敗退した我がアルゼンチンについても話しましょう。

 フランスに3-4での敗北。試合自体は素晴らしかったです。でも、ホルヘ・サンパオリ監督は、完全に采配を誤りました。勝たねばならない試合で、本来のストライカーを出さず、<センターフォワード無し>という布陣を選択しました。ゴンサロ・イグアイン、セルヒオ・アグエロという点取り屋がいるにも拘わらず、メッシに頼る策を取ったのです。あれについては、どうしても理解できません…。

 フランスには、キリアン・エムバペという19歳の傑出した選手がいます。サッカーファンなら誰もが、今回、エムバぺの名を覚えたでしょう。アルゼンチン代表は、エムバぺを止められませんでした。でも、3得点したということは、勝つチャンスもあったんですよ。

 サンパオリ監督は、イグアインとアグエロと同時にピッチに立たせることはしません。メッシと、ユベントスの10番で期待の若手である、パウロ・ディバラも共存させようとしませんでした。この辺りに、勝ち抜けなかった原因があります。

 ベスト16。日本代表は良くやったと言えるでしょう。でも、ワールドカップで2度優勝しているアルゼンチンは、この成績では誰一人納得できません。非常に恥かしいことなんです。

 日本もアルゼンチンも、また新たなチームで再出発ですね。悔しさを糧としなければいけません。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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