NBA新星の魅力
2016年のNBAドラフトにおいて1巡目1位でフィラデルフィア・76ersに入団したベン・シモンズ。オーストラリア、メルボルンで産声を上げたシモンズは、祖国でプロバスケットボール選手だった父の影響から、この競技に魅せられる。
ルイジアナ州立大学で1シーズンを過ごした後、シモンズはNBA入りを表明。”ドライチ”として鳴り物入りで76ersの一員となったものの、昨年度は開幕前に右足第五中足骨を骨折し、デビューはお預けとされた。
ルイジアナ州立大学時代、シモンズは大学ナンバーワン選手に贈られるウッデン賞を受賞できなかった。最低基準であるGPA(評定平均)2.0を下回っていたため、選考の対象外とされたからだ。学生は本業を大事にせよというアメリカらしい考え方である。
元NBA選手(13シーズンプレー)のアドナル・フォイルは、セカンドキャリアに繋がる学業の重要性を説き、「NBA選手はおよそ60%が、引退から5年以内に全財産を失ってしまう」と警笛を鳴らす。
2017年12月28日、76ersはトレイルブレイザーズとの試合のため、敵地ポートランドを訪れた。
私もAWAYチームのドレッシングルームに足を運んだ。この新星のプレーを目にすると共に、私はシモンズに直接フォイルの言葉をぶつけてみたかったのだ。
NBAでもMLBでもドレッシングルームのロッカーは、スター選手が端を使う傾向にある。ポートランド・トレイルブレイザーズは、チームの顔であるダミアン・リラードが、入口のドアを背に左奥のスペースを使用していた。76ersのAWAY用控室で、同じ場所を使っていたのがルーキーのシモンズであった。
トレイルブレイザーズ戦前のドレッシングルームで、シモンズに話掛けると、彼は屈託のない笑顔で応じた。
「教育は非常に大事なものだと思っている。でも、7歳の頃からNBA選手を目指してきたんだ。出来ることを最大限にやってきた。学業は引退後でもやり直せるよね? 大学にはいずれ必ず入り直してビジネスを学ぼうと思っている。NBA選手のおよそ60%が、引退から5年以内に全財産を失ってしまうというのは事実だろう…。貯金せずに散財してしまう人もいるからさ(笑)」
ーー念願のNBA選手になれ、今や76ersの主力となりましたが?
「調子が良くて結果を出せる時もあれば、悪い時もある。メディアに叩かれる時だってある。どんな時もブレずに懸命にトレーニングすることが、成功の秘訣だと感じているよ」
この日、110-114で76ersはトレイルブレイザーズに逆転負けを喫した。シモンズは、17得点8アシスト、4リバウンドであった。派手なプレーはしないが、サウスポーの力強いドリブルから堅実にチームを牽引した。
先手を取ったのは、76ersで、1st Q終了時に30-27、3rd Q終了時には85-72でリードしていた。しかし、トレイルブレイザーズは粘り強かった。エース、ダミアン・リラードを怪我で欠きながらも、背番号3のガード、CJ・マックラム、FWのマウリス・ハークレスがここぞという場面で3Pointを決めた。ホームの大声援を受けたトレイルブレイザーズは、最終Qだけで42得点を挙げ、76ersを振り切った。
試合後、CJ・マックラムは言った。
「バスケ選手にとって最も大事なのはメンタルタフネス。今夜の勝因もそれだよ」。
マウリス・ハークレスも話した。
「確かに序盤は劣勢だった。ゲーム中にアジェストできたのが良かったね。ミスをしても繰り返さないように、切り換えて闘った。俺がいい3P決めれたのは、チームメイトが最高の形でパスをくれたからさ」
若い76ersには、崩れた時にチームを建て直す精神的なリーダーが見られなかった。その役割をシモンズが担うには、時間が掛かりそうだ。かつて、このチームの大黒柱だったアレン・アイバーソンに域に達するには、まだ数年を要するであろう。
身長208センチと恵まれた体躯でオールラウンダーでもある背番号25、シモンズ。まだまだ未知数な存在だがNBAを担う次世代の逸材であることは間違いない。彼ならば、アイバーソンのような存在になれるような気もする。そんな期待を抱かせる男だ。
シモンズは笑顔が印象的だった。どこまで成長できるか、楽しみな21歳である。