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「選挙の開票特番はもういらないのでは」という印象だけが残った各局の参院選特番

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
筆者撮影

おそらく今回の参院選ほど、各局が苦労した選挙特番はないだろう。投票日の前々日に突然起きた安倍元首相殺害事件。数ヶ月かけて準備してきた特番の内容が、直前にスポーンと入れ替えになってしまったわけだから、スタッフのみなさんは想像を絶する大変さだったはずだ。

そんな中各局とも、頑張ったのだとは思う。どの番組も非常に苦心の跡が見えた。興味深い内容のVTRも多かった。しかし、残念ながら全体的には「もう開票特番はいらないのではないか」という印象だけが残ってしまったような気がする。

・急遽差し替えの「テレ東の投票前日特番」は差し替えになって良かった

筆者はテレビ東京が社長会見で発表した投票前日特番『Are you ready?池上彰の参院選直前SP』(7月9日(土) 13時28分~14時23分放送)に非常に期待していた。「若い人に選挙に行ってもらうため」に投票日の前日に特番を放送することを決断したということで、素晴らしい取り組みだと思ったからだ。

しかし、残念ながら放送前日に発生した安倍元首相殺害事件の特集番組に差し替えられることとなった。判断としてはやむを得まい。元々予定していた「若い人に選挙に行ってもらうための特番」はTVerなど、ネットでのみ配信されることに。

なので、早速配信を見てみたが、正直言って内容は期待外れだった。池上彰さんが引率して国会見学をして、いろいろな「国会トリビア」を紹介するだけの内容だった。いろいろ「へえー」と思うような豆知識は満載されていたが、あれを見て若い人が選挙に行きたくなるとは残念ながら思えない。差し替えになって良かったのかも、と思ってしまった。

もっと「各党はどのような政策をしている」とか「各党がどんな公約を掲げていて、若者としてはどの党に投票するといいのか」とか、投票の参考になる情報を放送してくれるのかと思ったら、そういう内容はほぼなく、画面全面に各党から寄せられた文章が書かれたテロップが2枚、全部読めないほどの速さで紹介されただけで、「これをメモってください」ということだった。

若者に選挙に関心を持ってもらうというコンセプトは良かったので、次回以降にぜひ期待したい。

・各局頑張っていたが「選挙前に見たかったもの」ばかり

さて、続いて各局の開票特番だ。いろいろな批評がすでにあちこちで出ているので細かくは避けるが、各局ともさまざまなトライをしていて内容としては面白い部分もあった。

NHK「参院選開票速報 2022」は、選挙結果が非常に分かりやすかった。結局わかりやすさでは、NHKに勝るものはなく、視聴率的にも最も高かったのが納得のいく内容だった。そして分かりやすさと見やすさでは日本テレビ「zero選挙2022」が続いたと思う。

そして個人的に目にしたものでいうと、フジテレビ「Live選挙サンデー」の郵便局長会を取材したVTRや、テレビ朝日「選挙ステーション2022」の維新密着VTRなど面白い取材VTRもあった。TBS「選挙の日2022」はメタバースの企画など、特集は残念ながら上滑り気味だった気もするが、太田光さんの質問はなかなか独自感を出していて良かったと思う。テレビ東京「池上彰の参院選ライブ」は、いろいろ言われてはいるものの、やはり池上さんのツッコミぶりは面白かったと思う。公明党の山口代表に女性議員のことで仕掛けた論戦などは、なかなかのものだった。

ただ、残念ながら総じてどの局も「このVTRを投票前に見たかったな」というものばかりで、「これを今見せられても遅い」という感じがしてしまった。そして、結果的には開票速報がよく分からず「何のためにこの番組を見てるんだっけ」という疑問符が浮かんできてしまった。

・注目の結果は結局番組に入らず…果たして特番は必要なのか

今回、安倍元首相が亡くなったことが追い風となって、選挙結果としては自民党の圧倒的勝利となったこともあってか、それほどハラハラするような展開はなかったと思う。そんな中唯一の注目点が「さまざまな話題の候補者たちの当落」にあったと思うのだが、残念ながらその多くが各局の開票特番の時間内には結果が出なかった。

そうするとなんとなく「20時頃からひたすら長く続くこの時間はなんなんだろう」という気がしてきてしまう。そういう意味でも「今のような形での開票特番は果たして本当に必要なのだろうか」という印象だけが強く残ってしまった感じだ。

投票前に流してほしいような特集は、投票前に特番を編成してそこで放送してほしい。その方が誰に投票するか決める上で役に立つ。

そして、開票速報はもっとコンパクトに、20時に各局が議席数予想などを出したら、しばらく他の番組をやって、深夜にもう一度「結果こうなりました」という内容をやってくれればそれで済むのでは、という気もする。

それに実は、各党代表などの番組出演時間があまりに細かく決められすぎていて、結局そちらに縛られてしまってうまく地域ごとの開票状況が伝わらない、という声も業界内ではよく聞かれる。

地方局からすると、自分達の地域の開票速報を伝えたいのに、その時間に「〇〇党代表の中継の時間」などが重なってしまってタイムリーに伝えられない…だったら全国の特番はいらないから、自分達でローカルの短い開票特番をやればいいのでは、という声も上がっている。

そろそろ、開票特番の必要性について、見直す時期が来ているのかもしれない。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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