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ネットで殺害予告されて被害届を提出したら…犯人は逮捕されたがヒドい目に遭った話

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

ネット上で「殺す」と殺害予告を受けたので、警察と相談して被害届を提出した。すると殺害予告した男は逮捕されたが、驚くべきことにその男に自分の住所が明らかになってしまった。…にわかには信じ難いことではあるが、これは実は自分自身の体験談である。

最近、ネット上での誹謗中傷と、それに対して法的措置を取る人たちが多く、話題になっている。ネット上での誹謗中傷から身を守ることは、ネットやSNSも含めて、様々なメディアで顔や実名を晒して表現活動をする人々にとってとても大切なことになっていると思う。

なので、一体なぜこのようなことが起きてしまったのかについて、自分の体験をご紹介しておきたいと思う。

「反日番組を作るな殺すぞ」と殺害予告

私が脅迫を受けたのは昨年2月のこと。テレビプロデューサーを職業としている私が、担当している番組で、外国人男性と恋愛をした経験のある女性の話題を取り上げたことについて、脅迫を受けた。番組のブログやネットの掲示板などに「このような日本人男性に対する許されない不快で気持ち悪い反日売国番組を作るな殺すぞ」などの文言とともに、私や同僚の女性プロデューサー、番組関係の女性ディレクターの実名などを挙げられ、「殺されたいんだよな?」「スタッフ顔割れてるからな覚悟しとけよ」などと、殺害予告をされたのだ。

私は自宅でブログ宛の脅迫メッセージを発見、すぐさま同僚の女性プロデューサーに連絡した。自宅にいた女性プロデューサーは私の連絡で脅迫されていることを確認した。そしてその後2人で放送局とも相談し、警視庁に被害届を提出。その後順調に捜査は進み、脅迫を行った男は逮捕された。その男は引きこもりに近い状況にあり、私たちの他にも出版社やコンテンツ関係の会社にも脅迫を繰り返していた。外国人男性について扱ったコンテンツを見つけると「反日だ」などとして激昂、脅迫メッセージを送っていたようだ。

起訴状に「我々の住所」が書かれ、男に送付

我々に殺害予告を行った男は、脅迫で起訴された。事前に先方の弁護士から謝罪したいのと示談交渉をお願いしたいという連絡があり、我々はそれに応じていたが、結局脅迫を行った男が「やはりどうしても謝罪することはできない」と謝罪を拒んでいるということだったので、示談には至らなかった。

しかし、いよいよ裁判直前になってから、我々は非常に驚くことになった。今年2月、私と同僚の女性プロデューサーはいきなり東京地検に呼び出された。そして、検察官に「あることを説明したい」と言われた。

なんと、私の自宅と女性プロデューサーの自宅の住所が、「被害者が犯行を知った場所」として、起訴状に記載され、それが犯人の男の元に送付された、というのである。その後その検事は起訴状から私と女性プロデューサーの住所を消して、「都内某所」に変更し、再び送り直して前の起訴状は回収した、というのだが、それにしても一定期間、我々2人の住所が書かれた起訴状が男の手元にあったことになる。コピーなりメモなりしていれば、男は今でも我々の住所を知っているはずだ。

「何かあったら連絡ください」と名刺を

「何かあったら連絡してください。我々が責任を持って対応します。」と検察官は言い、我々に名刺を差し出した。しかし、よく考えてみれば、何かあってからでは遅いし、何かあったら捜査機関が責任を持って対応するのは、どんなケースの場合でも当然のことだろう。

結局今年2月、東京地裁で男に「懲役2年、執行猶予3年」の執行猶予付き判決が下された。男は現在実家で生活しているものとみられる。我々は、男に内容証明を送付し謝罪などを要求したが、結局今まで男から一言の謝罪もないままだ。

我々は、女性スタッフたちが多い番組で、彼女たちの身の安全を守るためと、自分たちの身の安全を守るため、そして「番組作りを殺害予告という不当な脅迫によって妨げられないため」に、つまりは言論の自由を守るために声を上げたつもりだ。警察とのやりとりや、捜査への協力、その後の弁護士などとのやりとりは非常に煩雑で、手間をとられた。

結果「住所をバラされただけ」で良いのか?

しかし、その結果「自分たちの住所を犯人の男に明かされる」ことになり、男は反省の言葉ひとつ述べず、実家で暮らしている。私にも同居する家族がいるし、同僚の女性プロデューサーに至っては女性1人で暮らしていて、非常に恐怖を感じていると思う。

仮に民事で損害賠償請求のため訴訟を起こしたとしても、非常にお金も手間もかかる。相場から言うと、我々が訴訟費用として支払うお金を上回る額が先方から支払われる可能性は低いとみられる。

きっと私たちのケースは、犯人が逮捕され、執行猶予付きとはいえ有罪判決を受けただけでも、まだ良い方だ。こんなことで、果たして表現の自由は守られるのだろうか?SNSやweb、その他のメディアで発言をする人の身の安全はどこまで守られるのだろうか?

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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