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ベテランドラマ制作部員が証言「コロナでノウハウが途絶え、ドラマが作れなくなるかも」

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
フリーランスでドラマの制作部をしている木村義明さん(筆者撮影)

現場は危機的だが…危機感がないスタッフも多い

新型コロナウイルスの影響で、現在テレビドラマや映画の撮影はほぼ全面的に停止している。大半がフリーランスだという制作現場のスタッフの収入はゼロ。そして制作のノウハウが途絶えてしまうかもと現役スタッフが証言する。しかし、現場にはまだまだ危機感のないスタッフも多いという。それは一体どういうことなのか?

3月中はあった仕事が、4月に入って急に無くなった

今回証言をしてくれたのは木村義明さん(51)。20代後半から一貫してテレビドラマの制作部(ドラマ撮影の準備全般を担当する仕事)の仕事をしてきたベテランである。フジテレビの「天体観測」(2002年)やテレビ東京「記憶捜査~新宿東署事件ファイル~」(2019年)、読売テレビ「CHEAT チート 〜詐欺師の皆さん、ご注意ください〜」(2019年)など、数多くのテレビドラマに携わってきたキャリアほぼ30年のベテランフリーランスだ。

木村さんはこう話す。「現在仕事はゼロです。私の場合は2月にひとつ現場が終わり、3月半ばに始まる予定の仕事がどんどん延期になっていき、そして年間スケジュールが全て消えていきました。」

テレビドラマの仕事は非常に拘束時間が長く、木村さんはいつも「24時間拘束のつもりでいる」という。撮影にトラブルはつきもの。その解決に当たらなければならない制作部は多忙を極め、とても仕事を掛け持ちすることはできない。「1本仕事が終われば、次の仕事を受ける。」というのがテレビドラマのスタッフたちの働き方だという。先々の仕事を決めることが難しく、副業をすることもなかなか出来ない。

3月中は現場は動いていたというが、それが4月に入って急にストップしたという。そのため、現場にはまだ危機感が薄いスタッフが多いのだという。

「リーマンショックの時もそうだったのですが、ピンときていない人が現場には多いのです。3月までは仕事がありましたから、そこまではみんな生活ができていました。しかし今、ドラマの現場はほぼ全て止まりました。動いているところも、スタッフが怖がっています。地方のフィルムコミッションから『東京から来ないでくれ』と言われるケースも増えています。ドラマの制作部や演出のスタッフは99%フリーランスですから、みんな収入が無くなってしまうと思います。」

「映画の仕事はギャンブル」「テレビは堅い」と思っていた

テレビドラマや映画のスタッフは、いわばフリーランスの職人の集団だ。監督であれば「監督協会」などの団体はあるものの、フリーランスの「職人」たちには守ってくれる団体はないと言っていいという。木村さんはこう語る。

「入ってくる人は好きで入ってくる人が多いですから、いわばその『気持ち』を利用している世界だと思います。助監督や美術スタッフなどで、月収5万円なんていう人もいるくらいです。苦しくても、体力があって耐え抜ける人が残るような業界です。」

木村さんによると、そんな職人たちにとってテレビドラマの仕事はまさに「生活を支える柱」だった。小さな映画やインターネット動画の仕事はギャラが安すぎて、「家族を養ってはいけないレベル」なのだという。そして、映画の仕事は「ギャンブル」だと木村さんは思っているという。

「映画は、突然撮影が飛んだり、会社が消えたりすることが良くあります。いわばギャンブルで、お金がもらえないことも多い。スタッフもそういった事情をある程度織り込み済みの部分があります。しかし、テレビドラマの撮影は堅い仕事で、信頼していた。細かい揉め事はあっても、いくらかのお金は必ずもらえるし、テレビの仕事は『放送枠』が決まっていますから、飛ぶということがないと思っていました。」

今回は「制作会社の倒産」すら心配な危機的状態

木村さんは「安全性を担保する為、一旦全てを止め、方針を立て直すという放送局や撮影所の決定は支持する立場」だという。制作会社が資金繰りに詰まって倒産する可能性も高いと危惧される状況の中、フリーランスの職人たちを助ける余裕はないのではないか、と考えているのだ。

「今回ばかりは誰にも明日の見通しが立たない事態ですので、一企業であるテレビ局、ましてや街場の制作会社に我々の身請けは望めません。むしろ制作会社も淘汰される可能性があります。しかしフリーである事で私たちは行政の支援の傘から大きく外れています。基本的に助成金や給付金は企業が手続きし従業員に渡すという仕組みだからです。」

このままで行けば、テレビドラマや映画の現場を支えているフリーランスの職人たちの多くが「田舎に帰って家業を継ぐとか、全然違う職種に転職せざるを得なくなるのではないか」という。しかし、そうなれば今後テレビドラマや映画の制作は、難しくなってしまう可能性が高い。

「末端の職人たちが鞍替えしてしまえば、役者や監督がいくらいても、下支えするスタッフが集まらなくなります。そうすると、いくら新しい人が入ってもノウハウが途切れてしまうのです。そして、手に職があるベテランたちはまだしばらく持ちこたえることが出来るかもしれませんが、あまり手に職のない若手たちはひとたまりもありません。ゴッソリ若手がいなくなってしまう危険性もあるのです。それに、特に4月は制作会社に新入社員が入ってくる時期です。彼ら社員スタッフたちも仕事が3ヶ月もなければ雇用が維持されるのか?辞めていってしまいはしないか?とても不安です。」

ギャラは50年前のまま。「予算」がさらに減る危険性も

筆者はある制作会社のプロデューサーから、「テレビ番組の制作予算はリーマンショックの時に減らされて、その時以来回復していない。『安くても作れるじゃないか』ということでテレビ局がカットした予算を元に戻してくれないのだ。」という話を聞いたことがある。

木村さんは、テレビドラマに関わる人たちのギャラについて、こんな心配をしている。

「テレビドラマは今でも厳しい予算で制作されています。昔、ベテランのプロデューサーと話して知ったのですが、我々ドラマのスタッフのギャラは50年前から、つまり私が生まれた頃からあまり変わっていません。新型コロナがきっかけで、さらに予算が一層下げられてしまったらと思うととても恐ろしいです。」

危機感のない仲間に、ぜひ危機感を持って欲しい。「抜け駆けをして、安い値段で仕事を請け負うようなことも、みんなが困るので絶対にやめて欲しい。」という気持ちが強いという。

止むに止まれずひとりで「オンライン署名」を始めた

そして、世間の人にも、この窮状を知って欲しいという思いから、オンライン署名を集める活動をたった一人で始めたという。

「リーマンショックの時も、広告宣伝費が削られて、ドラマがたくさん無くなりました。社会が立ち直って、お金が回らないとドラマは復活しませんでした。ドラマなどのコンテンツは、世の中に余剰なお金があるのが大前提です。今回はリーマンショックの時よりやばい、って気がしてます。どうか政府に助けて欲しいのです。」

一度消えた文化の火はなかなか、再び灯すことは難しい。世界にも、今回のコロナ危機の中、文化支援策を打ち出した国も多い。日本のテレビドラマ・映画の窮状も、このまま放置しておいては取り返しのつかないことになってしまうかもしれないのだ。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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