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新型コロナで報道以外ほとんどの番組制作が止まる可能性…苦悩するテレビの制作現場

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

2日、TBSが今月4~19日の約2週間、ドラマやバラエティ番組のロケやスタジオ収録を見合わせると発表した。

筆者は現役のテレビプロデューサーであるが、このニュースを聞き、「無理もない」と思うとともに、むしろ少しホッとした。そして、TBSの今回の決断は英断であると感じた。今、そう感じざるを得ないほど、番組制作現場は窮地に追い込まれている。筆者が知る番組制作現場の生の声をお伝えする。

完全に停止した海外ロケ番組とドラマ

まず、完全に大打撃を受けたのが海外ロケ番組である。当然のことながら現状では出入国すら難しく、各国の取材ビザもまず発給されない。こうした中、一部の番組は一旦「国内ネタ」に内容を差し替えて制作を続行しようとしたが、外出自粛が進む中、それすら難しくなっている。

ついに新撮を全て中止し、総集編で乗り切ることを決断する海外ロケ番組が出てきているのだ。

また、ドラマは関係するスタッフや出演者の数も多く、撮影時間や待機時間も長時間にわたるため、最も感染防止策が取りにくく、各局とも真っ先に撮影中止を決める場合が多かったのはご承知の通りだ。

困難を極めるスタジオ収録

そして、ほぼ全てのバラエティ番組関係者を苦しめているのが、「スタジオ収録」の困難さである。感染防止のために「ソーシャルディスタンス(他人との距離を1.8m以上取ること)」をスタジオでも守ることが求められ始めているのだが、これは日本の番組制作現場においてかなり解決するのが難しい問題となっている。

欧米などと違い、日本のテレビ番組はそれほど広くないスタジオで収録されることが多く、また、多くのバラエティ番組では「ひな壇」などを使って多数のタレントを出演させているため、とてもではないが全ての出演者の間を1.8m開けられないケースが多いのだ。

仮に、ソーシャルディスタンスのためにセットを変更しようとすれば、多額の予算が必要な上に時間もかかる。といって出演者の数を減らそうとすればそもそも企画として成立しなくなってしまう番組も多い。人が密集した状態で出演者に新型コロナウイルス感染が起きてしまうと大変な責任問題になってしまう。

国内ロケも次第に困難に

さらに、国内でのロケも次第に困難になってきている。まずは、当然のことであるがロケ先に撮影を断られるケースがここのところ急に増えてきたのは言うまでもない。

ロケの移動手段も確保が難しくなってきている。ロケの主要移動手段である「ロケバス」を使用することが躊躇われるようになってきたのだ。「ロケバス」はワゴン車やマイクロバスなど小型の車両が多く、長時間の移動になりがちなので、車内の感染防止対策を取ることが難しい。そうするとスタッフや出演者の安全が保証できなくなってくるのだ。

責任をどう取るか?困惑する現場

このように、ロケも難しく、スタジオ収録も難しいという状況の中、現在はなんとか制作を継続している番組も多いわけだが、現場を苦しませているのが、責任問題と「どのように対策を取ればいいのか」ということである。

通常、番組制作に伴って出演者やスタッフに何か万が一のことが発生した場合に備えて、制作会社もテレビ局も「ロケ保険」などの保険に加入しているケースがほとんどだ。しかし、今回新型コロナウイルスは規約上、何かあってもほぼ保険の支払いの対象外になるのではないかと言われている。

しかも、番組でどのような感染予防対策を取ればいいのかについて、放送局からの指示に具体性があまりないため「どのようにすればいいのか」と頭を抱えている制作会社の現場責任者もいる。撮影現場でマスクや消毒用エタノールなどを準備しようにも確保できず、局や制作会社にも在庫がない場合も多い。

筆者は「長年お世話になっている大御所のタレントさんにもし私が新型コロナウイルスを感染させてしまったら…と思うと、本当に怖くなります」と中堅ディレクターが話すのも聞いた。著名人の感染情報が連日伝えられる中、無理もないことだと思う。

このままでは、多分近日中に多くの番組の制作が一旦停止し、総集編や再放送で放送枠を埋めることが多くなるだろう。

しかし、それで良いのではないだろうか。報道機関としてニュース番組などは伝え続ける義務がある。しかしそれ以外の番組の制作に関しては、危機的な状況を回避し、安全に現場が仕事を続けられるために一旦番組の制作を止めてでもきちんとした安全策を講じ、態勢を立て直す必要があると思うのだ。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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