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岸田首相「ウクライナ支援」の罠-高笑いするのはイスラエル?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ゼレンスキー大統領(右)と岸田首相 第78回国連総会 安保理(写真:ロイター/アフロ)

 岸田政権が、兵器輸出の運用ルールである「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定し、ミサイルや弾薬など殺傷能力のある兵器輸出を解禁しました。報道では、ミサイルを迎撃する地対空ミサイル「パトリオット」を米国に輸出することで「間接的にウクライナへの防空システムの支援になる」と説明されています。ただ、そうした政府側の意向に沿った報道を鵜呑みにして良いのか、疑問も残ります。

*本稿は、theLetterに掲載の記事を加筆したものです。

〇これはウクライナ支援なのか?

 今月22日、岸田政権は閣議で防衛装備移転三原則の運用指針を改定し、殺傷力のある兵器の輸出を大幅緩和しました。これまでは、外国企業から技術を導入し国内で製造する「ライセンス生産」の装備品の輸出について、部品のみに限定していたものを、完成品の輸出も認めるとしたのです。

 運用指針改定を受け、岸田政権は早速、米国へパトリオットを輸出すると発表しました。現在、ウクライナでは、ミサイルやドローン等を迎撃する防空システムの消耗が激しく、中でも地対空ミサイルが枯渇するのではないかと懸念されています。これまでウクライナへの軍事支援の中心を担ってきた米国ですが、ウクライナ支援のための追加予算の議会承認が共和党の抵抗で滞っています。

 そのため、日本がパトリオットを輸出することで、米国のパトリオットの在庫に余剰が生まれ、その余ったパトリオットを米国からウクライナへ供与するということが可能となる―そうした岸田政権の思惑を、各メディアが報じています。

 確かに、ウクライナの人々が防空システムの支援を求めていることは事実です。ウクライナ現地取材で志葉がお世話になった同国東部にいる友人からも、「連日、空襲警報が鳴り響き、ロシアがミサイルで攻撃してくる。日本からも防空システムの支援をしてくれないか?」との訴えがありました。他方、日本がパトリオットを輸出するのは、あくまで米国なので、日本からの輸出で生じたパトリオットの余剰分をどう使うかは、米国次第であり、日本には決定権はありません。

ロシア軍のミサイルで被害を受けた集合住宅 ウクライナ東部クラマトルスクにて 筆者撮影
ロシア軍のミサイルで被害を受けた集合住宅 ウクライナ東部クラマトルスクにて 筆者撮影

〇むしろイスラエル支援にならないか?

 気になるのは、「ウクライナへの間接支援」を大義名分とする日本からの米国へのパトリオットの輸出ですが、実際には、パレスチナ自治区ガザへ猛攻撃を行っているイスラエルへの間接的な支援にならないか、ということです。

 イスラエルがガザ攻撃を開始した今年10月以降、イラクやシリアにある米軍基地に対する攻撃が増加しています。イスラエルと敵対するイランが支援する武装勢力によるものと観られていますが、いずれにしてもガザ攻撃が中東の米軍基地のリスクとなっていることは明らかです。それは、これまで米国がイスラエルを常に支持・支援してきたこと、バイデン政権もイスラエルのガザ攻撃を外交及び軍事で支持・支援しているからです。

 中東の米軍基地への攻撃増加に対応するため、米国政府は中東の基地へのパトリオット配備を進めています。さらに、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道では、イランからの弾道ミサイルなどへの警戒を念頭に、パトリオットをアラブ首長国連邦、イラク、カタール、クウェート、サウジアラビア、ヨルダンといった中東の国々に送るとのことです(関連情報)。

 人口密集地への猛爆撃などのイスラエルの攻撃によって、既に2万人以上のガザの人々が殺され、その7割が女性や子どもです。こうした攻撃に加え、イスラエルがガザへの援助物資の搬入を制限しているため、ガザの全人口の220万人の半分が飢餓状態にあり、病院も機能しなくなるなど、事態はイスラエルによるガザへのジェノサイドというべき極めて深刻なものとなっています。こうした中、国連安全保障理事会では、即時停戦を求める決議が米国の反対で採択できないという状況が続いています。ガザの人道危機において、イスラエルのみならず米国の責任も極めて大きいのです。

志葉講演資料より
志葉講演資料より

 ガザに対するジェノサイド、それを支持支援する米国に対する中東全体の強い反発を背景にした米軍基地への攻撃は、いわば米国の「身から出た錆」、「自業自得」です。イスラエルへの軍事的・外交的支援を米国が見直すこともせず、パトリオット配備でやり過ごそうとする中で、日本が米国にパトリオットを輸出することは、ウクライナへの間接支援ではなく、イスラエルへの間接支援(つまり、ジェノサイドに加担)になりかねないのではないでしょうか。また、イスラエルの防空システムにもパトリオットは使われており、今後、米国がパトリオットをイスラエルに供与する可能性も否定できません。

〇著しい国会軽視は民主主義に反する

 本稿で前述した通り、ロシアのミサイル攻撃に脅かされているウクライナが、防空システムの支援を切実に必要としていることは、厳然たる事実です。ウクライナ現地での被害を取材で目の当たりにした志葉としては、日本から米国へのパトリオット輸出が間接的なイスラエル支援になるくらいなら、ウクライナに日本から直接パトリオットを供与した方がまだマシだと思います。この場合、紛争当事国に兵器を移転できないとする防衛装備移転三原則に反しますが、それを言うなら、常に紛争地に米軍を派遣しており、実際に軍事作戦も行っている米国に兵器を移転すること自体がおかしいとも言えます。

 そのような意味においても、防衛装備移転三原則の運用指針改定が、国会の審議を避け、与党のごく一部の密室会談でまとめられたことは問題です。防衛装備移転三原則の運用指針の改定は、ロシアによるウクライナ侵攻開始から間もないの2022年4月の時点で、自民党安全保障調査会が提言案として浮上していました。また、今年7月には防衛装備移転三原則の緩和が自民・公明両党によって論点整理されています。

 つまり、国会で審議する十分な時間はありましたし、例えば、ウクライナに対し、あくまでミサイル迎撃に限定したかたちでの例外的な支援を行うことを、国会で与野党が協議することも出来たはずです。しかし、実際には、殺傷力のある兵器の輸出が与党のみでの密室での協議の挙句、閣議決定されたのです。つまり、国民から理解を得やすい「ウクライナ支援」を隠れ蓑に、日本の防衛産業が「死の商人」化するような運用指針の変更を、国会を通さずに内閣だけで決めたと観るべきでしょう。憲法に基づく平和国家としての日本の在り方を根底から揺るがしかねない政策の大転換が、国会を介さず行われること自体、日本の議会制民主主義の危機だとも言えます。

〇ウクライナを利用するな

 防衛費の倍増もそうですが、憲法に抵触する恐れがあり、国民の反発されそうな政策において、岸田政権はウクライナを利用しています。しかし、今回の防衛装備移転三原則の改定が本当にウクライナのためになるのか、むしろガザの人道危機を長引かせることにつながるのではないか。年明けからの通常国会での与野党論戦で大いに追及がなされることが必要かと思われます。

(了)

 *本稿は、theLetterに掲載の記事を加筆したものです。

https://reishiva.theletter.jp/

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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