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報ステが痛烈ツッコミ、お粗末すぎるイスラエル軍の主張-自民・佐藤議員も引用、批判相次ぐ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
イスラエル軍公開の動画より

 パレスチナ自治区ガザに猛攻撃しているイスラエル軍。ガザ各地の病院を攻撃し、「ハマスが病院を拠点にしている証拠」と主張する映像も公開している。だが、これらのイスラエル側の主張には、信頼性に欠ける情報も多々ある。今月14日放送の「報道ステーション」(テレビ朝日系列)は、イスラエル軍が公開した映像の、あまりにお粗末な誤りを指摘。同映像は、佐藤正久参議院議員(自民)もイスラエル側の主張に沿うかたちで自身の旧ツイッター(X)で映像を引用したが、これに対し専門家からも苦言が呈された。

〇イスラエル側の「証拠映像」のお粗末さ

 イスラエル側が公開した映像の中では、同国軍の報道官が占拠したガザの「ランティシ子ども病院」の壁に張ってあった紙に書かれたアラビア語の文字を指さして「これは人質を見張るハマスの戦闘員のシフト表だ。名前が書いてある」と主張した。日本のいくつかのニュース番組も、この映像で主張されていることが事実かどうかも検証せずにそのまま放送したが、「報道ステーション」は違った。そこに書かれていたのは、人名ではなく、ただの曜日であったことを指摘したのだ。つまり、イスラエル軍の報道官が「ハマスが病院を拠点としていた証拠」の一つとして主張した「証拠」は、ハマスのシフト表ではなく、ただのカレンダーである可能性が高い。

 このイスラエル軍の「証拠映像」を、参議院議員で自民党国防議連事務局長の佐藤正久氏も自身の旧ツイッター(X)で引用。「昨日のプライムニュース*でも指摘したが、これからガザ地区の病院や難民キャンプ施設等でハマスが軍事利用している映像や証拠がドンドン出てくるだろう」とコメントした。

*BSフジLIVE プライムニュース

 この佐藤議員の投稿には批判が相次ぎ、イスラム政治思想に詳しい池内恵教授(東京大学先端科学技術研究センター)も、「テロリストの見張り当番表だと大々的に映し出されるシーンが曜日と日を手書きで書いたカレンダーであるなど、プロパガンダかつ杜撰であることが広く周知されています」と指摘。さらに、「このような稚拙な映像で日本の与党の外交安全保障に関する有力議員を騙すことができると周知されることは日本の安全保障の脆弱さを露呈する由々しき事態であると考えています」と苦言を呈した。

 また、イスラエル軍の公開した別の「証拠映像」には、ランティシ病院内で「ハマスの地下拠点の入口」とされるものや、「ハマスの武器」として数丁の古びたカラシニコフ自動小銃などが写っていたが、こちらも「証拠」とするには、控えめに言ってもお粗末なものだ。「ハマスの地下拠点への入口」とされたものは、単なる病院のエレベーターだとの指摘されている。

 「病院内で発見された」とするカラシニコフ自動小銃についても、これらがハマスのものである確証はない。ガザ含め、中東では広く普及しており、警備員が持っていたり、一般家庭でも護身用に所持されていたりするなど、ありふれた銃だ。

 そもそも、これらの銃自体、イスラエル軍が持ち込んだ可能性も全くないとは言えない。実際、イラク戦争では、米軍兵士が民間人を誤射などで殺してしまった際、その民間人を「現地武装勢力」とするためにカラシニコフ銃を現場に置くということが、半ば慣例化していたという元米兵達の証言もある。*

『冬の兵士―イラク・アフガン帰還兵が語る戦場の真実』(岩波書店)など。

〇「シファ病院=ハマスの拠点」説にも疑問

 現在、イスラエル軍が突入し世界の注目を集めているガザ最大級の医療機関であるシファ病院も、イスラエル側は「病院内にハマスの司令部がある」等と主張しているが、これもプロパガンダの可能性があるものとして注意すべき主張である。シファ病院には、筆者も何度も取材に行ったが、同病院は世界の各メディアの記者達がたむろする、いわばプレスセンターの様な状況であり、国連関係者やNGO関係者も常に出入りしている。ハマスが「秘密の拠点」とする場所としては、人目があり過ぎるのだ。

シファ病院敷地内 筆者撮影
シファ病院敷地内 筆者撮影

 シファ病院で最近まで約16年間、医療活動を行ったノルウェイ人医師マッズ・ギルバード氏も、「ハマスがシファ病院を拠点としているような様子はなかったし、私は病院内のどこでも行け、立ち入り禁止の場所などはなかった」「もし、シファ病院が本当にハマスの拠点だと言うなら、証拠を示せ」と語っている。

〇検証なしにイスラエル側の主張を鵜呑みにする危うさ

 「戦争で最初に犠牲になるのは真実」との格言があるように、戦争においては、その正当性を訴えるための情報戦が行われる。当然、イスラエル軍もそうした情報戦を行っていると見るべきだ。「ハマスが病院を拠点にしている」*とのイスラエル側の主張には、学者・研究者の中にもそれをそのまま鵜呑みにしている人々もいる。例えば、上述のBSフジLIVE プライムニュースで、佐藤議員だけでなく、鈴木一人教授(東京大学公共政策大学院)も「ハマスは病院を基地にすればイスラエルは必ず病院を攻撃するだろうと考え、病院での悲惨な状況を世界に振り撒いて同情を得ようとしている」と断言していた。だが、上述したようにイスラエル側の発表には、明らかな誤りか、あるいは信憑性に乏しいものが、少なからずある。メディアも、国会議員も、学者も、検証もなしにイスラエル側の主張を鵜呑みにすることは非常に危ういと意識すべきではないだろうか。

(了)

*そもそも、病院は例え戦争中であっても攻撃してはならないとして国際人道法で保護されており、仮にイスラエル側の主張するように、そこにハマスがいたとしても、病院が機能しなくなるような攻撃の仕方は、国際人道法違反であり、戦争犯罪である。イスラエルの攻撃と電力・燃料等の供給停止で、ガザ全体の医療環境が危機的な状況にあり、これは国際法で禁じられている「集団的懲罰」にあたることが、「国境なき医師団」等からも指摘されている。

https://www.msf.or.jp/news/press/detail/pse20231013st.html

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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