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日本のテレビが触れないタブー、#イスラエル#ハマス を支援してきた!― #ガザ 攻撃の闇

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
イスラエルのネタニヤフ首相 米国のバイデン大統領の会談時(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 パレスチナ自治区ガザの状況は、イスラエル軍による猛空爆の死傷者が凄まじい勢いで増え、本当に痛ましい状況です。今回のイスラエル軍のガザ攻撃は、御存知の通り、ガザに拠点を置くハマス等の武装勢力による、イスラエル側への襲撃、特に民間人殺害と拉致が発端となっていますが、そのハマスについて、日本のテレビ報道の中で語られていない重要な問題があります。それは、イスラエルのネタニヤフ首相ら同国の右派政治家達が、ハマスを利用し支援してきたことです。この問題は、現在のガザ攻撃にも大きく関係しているのです。

*本記事は、TheLetter に掲載した記事を転載したものです。

https://reishiva.theletter.jp

〇ハマスへの資金移送を容認してきたネタニヤフ首相

 ある意味、ネタニヤフ首相は、ハマスにとって最大の「支援者」の一人だとも言えるのかもしれません。ハマスにとって最も重要なスポンサーは、中東の石油・ガス産出国の一角、カタールです。このカタールからのハマスへの送金を見逃してきた、いや、むしろ庇ってきたのは、あろうことか、イスラエルの首相であるネタニヤフ氏であることが、現地紙「エルサレルム・ポスト」「タイムズ・オブ・イスラエル」等、複数のメディアで暴露されているのです。これらの報道によれば、2019年にネタニヤフ首相は与党の会議の中で、「パレスチナ国家に反対する人々はガザへの資金移送を支持すべきだ」と語ったとされています。また現地紙「ハアレツ」は「ネタニヤフ氏は過去14年、ハマスの権力を強化させ続けてきた」と批判しています(2023年10月20日付のコラム)。

 なぜ、ネタニヤフ氏はハマスを支援するようなことをしてきたのでしょうか?それは、現地報道で暴露された発言などからもうかがい知れる、ネタニヤフ氏含むイスラエルの右派政治家の中東和平に対するスタンスがあります。

 1993年、米国の仲介でまとまったオスロ合意による中東和平で核となるのが、パレスチナが将来、国家として独立しイスラエルと平和的に共存する、いわゆる「二国家共存」です。しかし、ネタニヤフ氏ら、イスラエルの右派政治家達は、当時から「二国家共存」に反対してきました。それは彼らが、オスロ合意に沿ってパレスチナ国家となるはずのヨルダン川西岸までイスラエルの領土だとする「大イスラエル主義」に固執しているからです。オスロ合意後、パレスチナ自治政府が発足しましたが、その主流派のファタハのライバル関係にあるのが、ハマスなのです。つまり、ネタニヤフ氏らイスラエル右派政治家達にとって、イスラエルとの衝突を続けるハマスが勢力を強め、対イスラエル穏健派のファタハと対立していた方が、中東和平による「二国家共存」の実現阻止という点で都合が良いのです。

 実は、ハマスが穏健化する機会がオスロ合意後の流れの中で幾度かあったのですが、それをことごとく拒んできたのが、イスラエルの右派政権でした。中でも、衝撃的だったのは、2004年3月、ハマスの創設者で精神的指導者であったヤシン師が、イスラエル軍の攻撃ヘリによるミサイル攻撃で殺害されたことです。ハマス側は当然、激怒。イスラエルに全面戦争を宣言することになりますが、生前、ヤシン師はその態度を軟化させ、イスラエルとの停戦を主張していたのでした。つまり、中東和平を支持していたヤシン師を殺害することでハマスを過激化させることにより、当時のイスラエルのシャロン政権は「二国家共存」への道を頓挫させたのです。

〇中東和平を阻止してきたネタニヤフ首相

 1996年から現在に至るまで、実に6度もイスラエルの首相となっているネタニヤフ氏も、中東和平の枠組みを揺るがし続けてきました。ネタニヤフ政権が続く中で、激増したのがヨルダン川西岸のユダヤ人入植地です。入植地の人口は、2000年代には20万人程度であったのが、現在は約50万人にも倍増しています。こうした入植地はパレスチナ人の家々を破壊し、土地を奪って建設される上、入植者の中には武装して近隣のパレスチナ人の村々を襲うテロリストの様な過激派も少なからずいます。例えば、意図的にパレスチナ人を車で轢いたり、民家に放火したり、オリーブ畑を荒らしたり等、テロ行為とも言えるような蛮行を、入植者達は繰り返しています。その入植者達を護るためイスラエル軍も来るので、入植地建設は、イスラエルによるパレスチナ占領を固定化し、拡大させていくものです。入植地の拡大から、ヨルダン川西岸やエルサレム周辺でも、パレスチナ側とイスラエル側の衝突は続いてきましたが、こうした衝突を利用し、「強いリーダー」をアピールしてきたことが、ネタニヤフ氏が権力を維持し続けてきた要因でもあるのです。しかし、入植地の建設は、ヨルダン川西岸の住民達だけでなく、ハマスも強く憤ってきました。今回の大規模襲撃についてのハマスの声明の中でも入植地について言及しているのです。

ユダヤ人入植地の警護にあたるイスラエル兵達 2018年パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ヘブロンにて筆者撮影
ユダヤ人入植地の警護にあたるイスラエル兵達 2018年パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ヘブロンにて筆者撮影

〇ガザでの「草刈り戦略」

 紛争を「適度なもの」にコントロールしながら、政権運営や外交安全保障政策に利用する―そうした戦略はガザにも適用されていきました。イスラエルは、ガザに対し、2008年末から2009年1月、2012年、2014年、2021年、2022年と大規模な攻撃を行いました。これはハマス等のガザの武装勢力を生かさず殺さずにする、つまり、現地武装勢力が或る程度力を蓄えてきたら打撃を与えるということを数年おきに繰り返すもので、伸びてきた草を刈るというイメージから「草刈り戦略」とも呼ばれています。米国の軍事シンクタンク「ランド研究所」が2017年にまとめた報告書は、イスラエルはハマスを殲滅することはできるが、権力の空白でのガザの混乱に対する責任を取ることを嫌い、またより過激な組織が台頭する可能性から、ハマスを殲滅することはしなかったと分析しています。つまり、ネタニヤフ氏らイスラエルにとってハマスは、いわば、利用するのにちょうど良い程度の脅威だったのです。

 しかし、イスラエル側の「草刈り」は、ガザ側にとっては、ハマス等のみならず、一般市民も甚大な被害を被ってきました。2008年末から2009年1月の攻撃では、ガザ北部の住宅地が瓦礫の山にされましたし、農場を経営していたサムニ家は、イスラエル軍兵士によって農場を占拠され、一族120人の内、29人が殺されまるなど、民間人が多数死傷しました。

破壊され尽くしたガザ北部の住宅地 2009年1月 筆者撮影
破壊され尽くしたガザ北部の住宅地 2009年1月 筆者撮影

 2014年の攻撃は特に規模が大きく、約2250人が殺され、その6割以上が一般市民で全体の4割近くが女性や子どもでした。これらのガザ攻撃では、救急車が攻撃されたり、一般市民の避難所となっている国連管理の学校まで攻撃されたり、発電所などのインフラや農地も破壊されました。

 また「ハマスの脅威」を口実に、ガザは封鎖され、人や物資の出入りが厳しく制限されたことで、経済は破綻、住民の3分の2が貧困あるいは極度の貧困に喘ぐ状況に陥り、それが16年も続いているのです。他方、これまでのガザ攻撃でのイスラエル側の被害はガザのそれにくらべれば、10~30分の1程度と少なく、ネタニヤフ首相らイスラエルの右派政治家達は、「紛争をコントロールできている」と考えていたようです。それが過信であったことを示したのが、今回のハマス等によるイスラエル側への襲撃だったのでした。

〇ネタニヤフ首相の責任を追及しない日本のメディア

 ハマスを利用することで、中東和平に背を向けてきたネタニヤフ首相の戦略が、今回のハマス等による大規模襲撃を招いたとの指摘は、イスラエルの各メディアで指摘されていることです。しかし、日本のメディア、特にテレビでは、「いつ地上軍が侵攻するのか」と表面的な解説ばかりで、この間のイスラエルの右派政権の対パレスチナ政策の問題を批判的に分析するというような解説はほとんどありません。日本の報道、特にテレビ報道によくある問題なのですが、ごく短期的なスパンでの分析はしても、中長期的なスパンで構造的な問題を取り上げることは、あまりやらないという傾向があります。わかりやすく「答え」を視聴者に示すことを優先しているのかもしれませんが、それによって、かえって物事を理解する上の妨げになっている面もあります。また、今回はハマス等の襲撃で、イスラエルの民間人も多数死傷していることや人質とされている人々がいること、イスラエル政府関係者らも非常に神経質になっていることなどを配慮して、あまりにストレートにイスラエルを批判することは避けているのかも知れません。確かに、ハマスの蛮行は許されるものではないし、裁かれるべきものではありますが、今回の大規模襲撃の動機として、ハマスがその声明で「イスラエルによる入植地建設やガザ封鎖への怒り」をあげていることも事実です(関連情報)。

 本稿執筆時点で、イスラエルによる空爆でのガザでの被害が5000人を超え、その内、子どもの犠牲者は2300人以上という恐ろしい状況の中、最優先されるべきは停戦なのでしょう。しかし、それと同時に、なぜこのような事態にまで発展してしまったのか、イスラエル右派政権の問題、特に長年にわたりハマスを支援し利用してきたネタニヤフ首相の自作自演的な戦略を追及する報道も、やはり、必要なのではないかと思われます。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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