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#ガザ 病院爆発の「真相」と、より大きな問題とは? #イスラエル #ウクライナ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
現地発表では、ガザの病院での爆発で多数が死傷したとされている(提供:ロイター/アフロ)

 パレスチナ自治区ガザで、今月17日、ガザ市内のアル・アハリ病院が爆発し、敷地内に避難していた人々が多数死傷した問題は、現在も情報が錯そうしています。パレスチナ側やアラブ系メディアは、「イスラエル軍の空爆によるもの」と批難したのに対し、イスラエル側は「(現地武装勢力の)イスラム聖戦が撃ったロケット弾が病院に落ちた」と主張しており、これに米国も同調しています(イスラム聖戦側は否定)。これについては、志葉もYahoo!ニュースで記事を書きましたが、その後、当初の報道と異なる状況が報じられており、改めてこの問題を取り上げたいと思います。

*本記事は、TheLetter に掲載した記事を転載したものです。

https://reishiva.theletter.jp

〇現地武装勢力による誤射?

 今月18日に志葉が配信した記事は、

  1. ガザ保険省によれば「500人」が死亡、病院の建物が崩れ、多数の人々が生き埋めになっている等、ロケット弾にしては威力が大きすぎるのではないか? 
  2. これまでもイスラエルは避難所や病院を攻撃してきた 

として、イスラエル軍の空爆を疑うものでした。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ee8b66fb6816282e2f0bc7d0865d257c01cf2345

 ただ、その後、英BBC放送の現地記者の取材等の映像を見ると、着弾点は病院の駐車場で、見たところ、病院の建物が大きく崩れたような形跡は無く、着弾跡と見られる地面のクレーターは直径1メートル程とのことでした。また、死亡者数についても、当初のガザ保健省の「500人以上」という数字は過大ではないか、実際は数十人程度(それでも痛ましい犠牲であることには変わりませんが)ではないかと指摘する報道がいくつかありました。

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67153781

 これらについて、イスラエル軍は、同軍の戦闘機によるミサイル攻撃にしては、着弾跡が小さいこと、「ハマス戦闘員のもの」とされる盗聴情報から、イスラム聖戦のロケット弾がエンジン不良を起こし、病院に落ちたとの主張を繰り返しています。確かに、ガザ保険省などの当初の発表の信憑性、正確さについては、検証されるべきものがあるようです。また、これまでもガザの武装勢力のロケット弾がガザ内に落ちたことも確率としてはそれなりにあるようです(イスラエル軍は、ロケット弾の「3割」がエンジン不良を起こしていると主張)。

〇イスラエル側のドローン/砲弾によるものか?

 ただし、着弾跡が小さいからと言って、それが即、ガザ側の武装勢力によるロケット弾だとは限りません。例えば、イスラエル軍のドローン(無人攻撃機)から発射される小型ミサイル(米国製のヘルファイア、イスラエル製のスパイク等)は、同軍の戦闘機(米国製のF15、F16、F35 等)から発射される各種ミサイルよりは威力は小さいものの、これまで幾度もガザの人々の命を奪ってきました。特に酷いケースは、2014年のガザ攻撃で、一時停戦中に外で遊んでいた子ども達を、イスラエル軍のドローンが小型ミサイルで攻撃したものです。これにより、3歳から12歳の子ども達4人が殺され、さらに4人が負傷しました。

イスラエルのドローンが発射した小型ミサイルで負傷した少年(左)。一緒に遊んでいた友達はバラバラになってしまった。2014年7月、ガザにて筆者撮影
イスラエルのドローンが発射した小型ミサイルで負傷した少年(左)。一緒に遊んでいた友達はバラバラになってしまった。2014年7月、ガザにて筆者撮影

 また、イスラエル軍の砲撃が病院に避難していた人々を直撃したのではないかとの指摘もあります。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジに拠点を置き、人権侵害についての調査を行っているフォレンジック・アーキテクチャーは現地人権団体「Al-Haq」等と共に、報道等による公開映像の分析を行い、上述の「イスラム聖戦のロケット」が原因とするイスラエル軍の主張に疑問を投げかけています。それによると、着弾跡の形状等や病院爆発の映像音声分析から、ガザ境界線のイスラエル側の方向から飛来した砲弾によるものではないかと指摘。より詳細な調査のため、現場や着弾した物体の破片の調査することや、目撃者のインタビューが必要だとしています。

 アル・アハリ病院爆発については、国際連合人道問題調整事務所のマーティン・グリフィス次長も、「国連はできるだけ早く独自の調査をしたいと考えている」と述べているように、独立した第三者的な、かつ専門的な調査が必要でしょう。

〇イスラエル軍が医療施設を攻撃していることには変わらない

 ただ、アル・アハリ病院爆発の真相がどうであれ、既に国際社会の分断は深刻なものになっています。確かに病院爆発が中東・イスラム圏の国々の人々の怒りに火をつけたところはあるものの、それはきっかけにすぎません。イスラエル軍がガザの一般市民を空爆で殺し続けていること、さらにはイスラエルのパレスチナ占領やそれを擁護し、支えている米国等の姿勢そのものが、そもそもの怒りの原因なのです。

 仮に、アル・アハリ病院爆発がイスラム聖戦側の誤射であったとしても、イスラエル軍がガザの他の病院や救急車、国連管理の避難所まで攻撃し、一般市民や国連職員まで殺している事実は変わりありません。こうしたイスラエル軍の国際人道法違反を、国際社会は今すぐやめさせるべきです。

〇「私達を非人間化するな!」米国テレビ記者に罵声

 また、そうしたイスラエル側を米国が一方的に支持し、欧州の国々もそれに近い態度を取っていることも、また事実です。エジプトとガザの境界で取材をしていた米CNNの記者に食ってかかった女性が言っていたように、「あなた方(欧米側)は私達(中東・イスラム圏の)を非人間化している」というのは、パレスチナ問題の始まりである1948年から現在にいたるまで、中東・イスラム圏の人々が抱え続けている怒りなのです。

 深刻なのは、この分断を利用しようとする動きがあることです。ロシアのプーチン大統領は、自分がウクライナを侵攻していながら、イスラエルについて「民間人の犠牲が出ないようにするべきだ」と批難しています。これに対し、ドイツのショルツ首相は「これ以上の皮肉は無い」と批判したと報じられていますが(関連情報)、そのショルツ首相やドイツ政府自体もイスラエル寄りすぎるのではないかと内外からの批判があります。つまり、ロシアのウクライナ侵攻を批判していた欧米も、結局は自分達の友好国か否か、或いは利害関係などで、そのスタンスをとっており、より普遍的な国連憲章や国際法、国際人道法などの「法の支配」に基づいたものではないことが露呈してしまっています。それは、ロシアの主張する「欧米の帝国主義」に一定の説得力を持たせてしまい、とりわけ中東やアフリカ、中南米といった地域の国々が、欧米との距離を取り、ウクライナ危機での国際社会の結束も危うくしかねないのです。侵略戦争を否定することで、国際社会が結束できなければ、国際秩序はますます危ういものになってしまいます。

 国際的な人権団体ヒューマンライツ・ウォッチは、「もし欧米側が、価値観や人権、国際法について言ってきたことを他の国々に信じてもらいたいなら、ウクライナにおけるロシアの残虐行為、イスラエルにおけるハマスの残虐行為に関する普遍的な原則を、ガザにおけるイスラエルの残虐行為にも適用しなければならない」と指摘していますが、正にその通りだと言えるでしょう。

 ハマス等の蛮行は許されるものではなく、裁かれるべきものですが、だからと言ってイスラエルが何をしてもいいという免罪符にはなりません。「民間人は殺してはならない」「医療施設や医療従事者は攻撃してはならない」という国際人道法の原則は、それがどんな国、勢力であれ厳守することを求められているし、利害関係ではなく、普遍的な「法の支配」によって国際秩序が保たれるよう、各国は尽力しなくてはならないのです。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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