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中国に逆ギレ、原発推進の結果の事故から何も学ばない日本政府、東電、メディア #処理水 #海洋放出

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
原発事故直後の福島県双葉町 筆者撮影

 福島第一原発に溜まった放射性物質に汚染された大量の水を、ALPS(多核種除去設備)で処理し、トリチウム以外の放射性物質の含有量を下げ、さらに海水で希釈して海に捨てる―いわゆる「処理水」(本稿では「ALPS処理汚染水」と表記)の海洋放出をめぐり、中国は日本産の海産物の輸入を全面停止するなど、非常に強い措置をとった。これに対する、日本の政治家達、メディア関係者らの言動は、正に「逆ギレ」「開き直り」と言うべき、中国批判、そして政府・東電擁護のものとなっている。確かに、中国の対応は、威圧的と言えるが、そもそも、原発事故を起こしたのは東電だ。流れ込む地下水の対策をせず、汚染水を貯めこんだのも東電、海洋放出以外の代替案を無視し、「薄めれば大丈夫」とトリチウムだけでなくプルトニウムやストロンチウムも含む膨大なALPS処理汚染水を今後、数十年の長期にわたり、海洋放出するのも東電で、それにゴーサインを出したのは岸田政権である。こうした問題点を問う事なく、ただただ中国に対し逆ギレする。最早、日本の政治・メディアは集団ヒステリー状態だと言えなくはないか。その根底にあるのは、あくまで原発推進のエネルギー政策を維持するため、福島第一原発事故を人々の記憶から消し去ろう、あれはそれほど大したものではなかったんだと思わせようとする、政府や東電の思惑があるのではないか。また、あくまで東電の言い分のみを支持してきた政府の姿勢こそ、汚染水問題やそもそもの原発事故を招いたという反省がないまま、岸田政権が「温暖化対策」と称して、これまで以上の原発推進のエネルギー政策を進めていくことは、極めて危険だと言えよう。

〇政治的、営利的につかわれる「科学的根拠」

 「科学的根拠」「環境や人体に影響はない」―ALPS処理汚染水の海洋放出について、こうした言葉を、政府や東電、そしてその太鼓持ち的なメディアは多用する。だが、果たして、ALPS処理汚染水の海洋放出は、「科学的根拠」に基づいていると言えるのか。「環境や人体に影響はない」と言い切って良いのか?むしろ、これは壮大な実験だ。その実験台となるのは、海の生物であり、それらを食べる生物、つまり人間も含まれる。今月23日の時点で約128万トンという膨大なALPS処理汚染水の中に、総量としてどれだけの放射性物質が含まれているのか、東電も政府も明らかにしていない。ALPS処理汚染水の中には、例えば、プルトニウム239、ストロンチウム90、ヨウ素129など、極めて危険なものや、人体に入り込み内部被ばくするもの、半減期が「半永久的」と言える程に長いものが含まれている。トリチウムについても、政府や東電は「人体に蓄積されず害は小さい」としているが、これについても科学者の間で意見が分かれている。「環境や人体に影響はない」と断言するだけの「科学的根拠」とは何か。それは、ALPS処理汚染水128万トンの中に含まれる全ての放射性物質の種類及び総量、それを数十年にわたり海洋放出し続けた場合、どのようなかたちで放射性物質が拡散、或いは蓄積されるのかのシミュレーションと実際の観測、そして、それがどう人体に影響しうるのかしないのかまでを具体的なデータが公開され、かつそれが様々な研究者らによって、科学的な検証を経たものであろう。そのような意味で、政府や東電、そしてメディアが多用する「科学的根拠」とは、真に科学的というよりは、むしろ「政治的」「営利的」な主張と見なされるべきなのではないか。

〇日中両政府のプロレス

 ALPS処理汚染水の海洋放出に対する、中国側の過剰で威圧的とも言える対応は、権力が使い古してきた手法―政治の失敗における為政者の責任から矛先をそらすため、内外の「敵」に民衆の怒りを向けさせる―である面が大きいのではないか。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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