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日本に「難民ほとんどいない」は本当か?齋藤法相が心酔する「難民を助ける会」名誉会長に重大疑惑

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
2021年に国会答弁する柳瀬氏 肩書は当時 衆議院インターネット審議中継から

 現在、政府与党が今国会での成立を目指す、入管法改定案*1。その中で大きな論点となっているのが、難民認定申請を3回、行った人を強制送還の対象とすることだ。法務省および出入国在留管理庁(入管)は「難民認定制度を濫用し、送還を拒否する者を速やかに送還するため」と、説明する。だが、入管法改定案の根拠とされた国会質疑で、「(難民認定)申請者の中に、難民はほとんどいない」との発言した柳瀬房子氏(難民審査参与員/難民を助ける会名誉会長)*2に重大な疑いが持ち上がった。今月15日、全国難民弁護団連絡会議が緊急の会見を開いた。

〇発言内容は虚偽?会見で明かされた調査結果

 柳瀬氏は、2021年4月21日に国会(衆議院法務委員会)で参考人として、

「参与員制度が始まったのは2005年からですので、私は既に17年間、参与員の任にあります。その間に担当した案件は2000件以上になります。…(中略)…私自身、参与員が、入管として見落としている難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません」「したがって、難民の認定率が低いというのは、分母である申請者の中に難民がほとんどいないということを、皆様、是非御理解ください」

と発言。この発言は立法資料でも「難民認定申請の実態」として引用され、与野党議員に配布された。

 難民審査参与員は、入管の難民認定審査で不認定とされ、不服を申し立てた人々の審査を行い、難民認定すべきかを、法務大臣に助言することを主な役割としている。その難民認定審査参与員である柳瀬氏が上記のように発言したことについて、齋藤健法務大臣は「重く受け止めないといけない」「日本の難民認定制度を長年にわたって見てきているので、(柳瀬氏の発言は実態を)的確に表しているのではないか」と述べるなど、絶大な信頼を置いている様子だ。

 ところが、その柳瀬氏の言動が「虚偽ではないか」との疑いの声が上がっているのだ。上述の2021年の国会での発言の後、今年4月の朝日新聞のインタビューに対し、柳瀬氏は自身が審査した件数を「約4000件」としている。つまり2021年から今年の2年間で約2000件、1年あたりで1000件を審査したということになる。だが、全国難民弁護団連絡会議(全難連)が、難民審査参与員らに行ったアンケート調査によれば、難民審査参与員の平均的な審査件数は、「年間で36件」。アンケートに回答した参与員達からは柳瀬氏の年1000件に対し、「信じられない」「対面でなく書類審査だけでも、とても無理」「殆ど記録を読んでいない。もしくは調査官が作成した『事案概要』に記載されている事実及び意見に従って判断しているのではないかと思われる」と、その信頼性を疑う回答が次々と寄せられたというのだ。

全難連の記者会見 筆者撮影
全難連の記者会見 筆者撮影

 また、柳瀬氏の発言が難民審査参与員の代表のように、法務省および入管が引用し、入管法改定案の根拠としていることについても、「仮に、そのような割り当てをされてそのような処理をしているとしたら、かなり偏った参与員だと思うので、そういう方の意見を参与員の意見として採り上げるのはいかがなものかと思う」と疑問の声が上がっているのだ。

 15日の会見で、長年、難民認定申請者の支援に携わってきた渡邉彰悟弁護士は「本当に許せないと柳瀬氏や法務省/入管に対する不信感を露わにした。「難民はいるんです。私もミャンマーのケースをたくさん抱えていますが、ロヒンギャや少数民族の人たちが参与員にかかっているわけです。それにもかかわらずほとんどが、ずっと認定されてこなかった。そういう発言を一部だけ取り上げて、入管が自分たちの主張を通すための一方的なもので到底公正で客観的なものではありません」(同)。

ミャンマーで虐殺されている少数勢力のロヒンギャであるミョーさん(写真中央)は、過去3回、難民認定申請して認定されなかった。先月21日、国会前での入管法改悪反対の集会で筆者撮影
ミャンマーで虐殺されている少数勢力のロヒンギャであるミョーさん(写真中央)は、過去3回、難民認定申請して認定されなかった。先月21日、国会前での入管法改悪反対の集会で筆者撮影

〇齋藤法相「柳瀬氏の審査件数のデータはない」

 この会見に先立つ先週12日、筆者は法務大臣会見で、柳瀬氏の審査件数について、齋藤法相に質問した。齋藤法相は「データの件ですけれども、お尋ねのデータについては、統計を取っているものではない」「我々のほうで特定の難民審査参与員の事件処理件数等については、統計を取っていないため、お答えすることは困難」と述べた。

齋藤法務大臣 筆者撮影
齋藤法務大臣 筆者撮影

 つまり、柳瀬氏の発言については、本人が主張していることを、根拠となるデータもなく信頼しているというのだ。だが、上述の参与員達へのアンケートで、柳瀬発言に対する疑いの声がいくつも上がっている中、政府与党や法務省、入管は、徹底的な事実の確認をする責任があるのではないか。

(了)

*1 今回の法案は「改正ではなく、むしろ改悪」との批判も高まっているため、本稿では「入管法改定案」と表記する。

*2 難民を助ける会は、そのウェブサイトで、柳瀬発言について「当会とは関係ない」と釈明しているが、同会のウェブサイトの柳瀬氏プロフィールに「2005年から法務省難民審査参与員」と明記している。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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