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ネット騒然、自民・宮崎議員がTBS番組で難民への偏見発言―東京新聞・望月記者も「不勉強すぎる」と批判

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
宮崎正久衆議院議員 衆議院インターネット国会中継より

 現在、国会で審議されている入管法改定案*1に関連して問題となっているのが、日本の「難民鎖国」ぶりである。日本の難民認定率は、諸外国に比べて桁違いに低い。これについて弁明した、衆院法務委員会与党実務担当者である宮崎政久衆議院議員(自民)の発言へ、SNS上で批判が相次いでいる。

〇番組スタジオでもSNSでも論破、批判される

 入管法改定案では、難民認定申請を3回行った人を強制送還できるようにするとしているが、おおよそ1%前後という日本の難民認定率の低さから、本来、難民として保護すべき人を難民として認定せず、迫害の恐れのある母国へ強制送還してしまうことが国連等からも懸念されている(関連情報)。今月2日放送のBS-TBSの報道番組「報道1930」でも、この難民認定率の低さが指摘されたのであるが、同番組に出演した宮崎議員の弁明は、入管法改定案を審議する法務委員会の実務担当者としては、あまりにお粗末なものだった。

 宮崎議員は、日本の難民認定率の低さの理由として、「(難民としてくる人々の)分母の少なさ」をあげ、「日本は島国であるから、航空機に乗ってこないといけない」「地続きとなっているヨーロッパ諸国、例えば、歩いて避難している皆さんの映像がニュースとかで出てくるが、そういうところと違いがあることは理解して欲しい」と述べたのである。

 だが、宮崎議員と共に番組に出演した指宿昭一弁護士は「飛行機に乗ってくる人は難民ではないというのは、ただのイメージ。実際には、政治難民として、その国にいられなくなって飛行機等で来る人は大勢いる」と指摘した。

 さらに番組では、各国の難民認定率(2021年、一次審査)を紹介。日本は1.1%だが、やはり海で隔てられ、紛争地から遠いオーストラリアでも、認定率は13.7%、米国も28.8%、イギリスは67.2%だ。「島国だから、日本に、難民として来る人が少ない」という宮崎議員の主張は完全に論破されたかたちだ。

 番組を見ていた視聴者達も、宮崎議員の主張には強い違和感を感じたらしい。ツイッター等のSNSで、批判が相次いだ。

難民や移民をとりまく日本の状況について1ミリグラムほどでも考えることがあったら公に発するわけがない考えよね……

着の身着のままで陸で隣国に来るのが難民で、飛行機でチケットを取って来たら難民じゃないって、全然意味がわからん。

こんな知識すら持たない人が、法務委員会の理事で法案を提出して、人の命を奪おうとしてる。

難民とは国境を陸路かボートピープルのように越えてくる存在云々という自民党宮崎議員の難民観、要するにベトナム戦争やカンボジア内戦のそれから、アップデートされていないという印象を受けました。

などなど。東京新聞の望月衣塑子記者も、

衆院法務委員会の与党・筆頭理事の宮崎政久議員の難民についての理解がこの程度とは。驚愕である

だからあのような改悪法案を堂々と通せるのか。あまりにも不勉強すぎる。衆院法務委員会を一からやり直してほしい。酷い話だ

と憤慨。

 フォトジャーナリストの安田菜津紀さんも、

多くの人々が保護されているカナダも、地続きではない、紛争地などから"遠い国"。誤った"難民らしさ"の押しつけでは誰も救われない。

https://twitter.com/NatsukiYasuda/status/1653372234122280960

とツイートした。

 こうした批判の声を気にしたのか、宮崎議員は、

キャスター氏は「飛行機に乗ってきたら難民じゃないのか」と聞くので、そう言ってるのではなくて、難民申請の多い国と近接してない関係性を飛行機に乗ってくると言っているのであって、日本の近隣で何かあれば海から流れ着いてくる避難民が多く出ることは予想されること

https://twitter.com/Miyazaki_kirin/status/1653555896784678913

等と弁明のツイートをし、「テレビの特徴も改めて勉強出来ました」と、あたかも番組側に責任転嫁するかのようなことも書いているが、上述のように、「日本に難民として来る人の母数が少ない」と主張し、その理由として「島国」「飛行機」を強調したのは、宮崎議員自身である。

ミャンマーで虐殺されている少数勢力のロヒンギャであるミョーさん(写真中央)は、過去3回、難民認定申請して認定されなかった。先月21日、国会前での入管法改悪反対の集会で筆者撮影
ミャンマーで虐殺されている少数勢力のロヒンギャであるミョーさん(写真中央)は、過去3回、難民認定申請して認定されなかった。先月21日、国会前での入管法改悪反対の集会で筆者撮影

〇入管庁の「バカの一つ覚え」を鵜呑みにするな

 問われているのは、宮崎議員の、法務委員会の与党実務担当者としての資質だけではなく、出入国在留管理庁(入管庁)の姿勢である。「大勢が難民となるような国から日本は遠い」というようなことを、難民認定率の低さの理由にするのは、入管庁がこの間、その問題を指摘されながらも、くり返してきた屁理屈、いわば「バカの一つ覚え」だ。最近でも、福島瑞穂参議院議員(社民)や本村伸子衆議院議員(共産)の国会質疑に対し、西山卓爾入管庁次長が、

「我が国の難民認定をめぐっては、多くの難民が発生する地域と近接しているかなど、諸外国とは前提となる事情が異なっている」

と答弁。福島議員は

「トルコ出身者(の難民認定率は)、2019年で、カナダ97.5%、イギリス72.5%、スイス75.1%、アメリカは86.2%、日本は0%」

 だとして、同じ国から逃げてきた難民認定申請者でも、日本でも異常に認定率が低いことを指摘したが、西山次長は上述の「バカの一つ覚え」をくり返した。

 本村議員の追及に対しても、西山次長の答弁は全く同じもの。最早、ロジックとしては破綻しているにもかかわらず、日本の難民認定率が低いこと、それが制度や入管庁の姿勢にあることを認めようとしないのだ。

 要するに、宮崎議員の主張も、入管庁の「バカの一つ覚え」をなぞったものであるが、入管の主張の歪みをただすことなく鵜呑みにして、難民認定申請者の強制送還を可能とする等から、国連人権理事会の作業部会などからも「国際法違反」が指摘されている入管法改定案を国会で通してしまって良いのか。宮崎議員も、入管庁を所管する法務省の齋藤健大臣も、真剣に問い直すべきだろう。

(了)

*1 今回の法案は「改正ではなく、むしろ改悪」との批判も高まっているため、本稿では「入管法改定案」と表記する。

*2 宮崎議員は自身のツイッターで、"「観光、留学など正規ビザで入国した後で本来の目的から外れた難民申請するケースが多い」という難民審査参与員の言葉にも表れていることなどご説明しました"とも説明しているが、その発言をした難民審査参与員も非常に問題のある人物である(関連情報 https://d4p.world/news/20779/ )。また、宮崎議員は"日本の難民認定と人道的庇護の合計率は29.8%でアメリカ、フランスなどと同程度"としているが、それは難民認定数、および人道的庇護が例外的に多かった2022年についてであり、その内訳においても、本来は人道的庇護にカウントすべきではないものも含まれているなど(関連情報 http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=8311 )、入管庁の詭弁をなぞっている。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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