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日本だけがイラク戦争の反省ナシ―米国ではイラク戦争開戦決議を取り消し

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
参院予算委員会での岸田首相(写真:つのだよしお/アフロ)

 今年でイラク戦争の開戦から20年。日本での報道、とりわけテレビでの報道では、イラク戦争20年の節目についての報道は極めて少ない状況だが、海外では、イラク戦争のことを大きく取り上げているメディアも少なくない。それは、イラク戦争が歴史的な過ちであったことに加え、米国自体の内政・外交や、中東情勢に大きな影響を今も与え、ウクライナ侵攻でロシアのプーチン大統領が具体的に言及、侵攻を正当化する上で利用するなどといったことがあるのだろう。今月2日と同23日の参議院予算委員会で、山本太郎・参議院議員が、日本政府のイラク戦争の支持について岸田文雄首相を追及。これに対し、岸田首相は「日本が判断する立場にない」「(当時の判断の)妥当性は変わらない」と全く血の通っていない答弁を行った。他方、イラク戦争の当事国である米国では、対イラク攻撃の権限を大統領に付与したことを撤回する法案が、同国議会上院で、今月29日に可決した。

〇「イラク戦争は正しい戦争でしたか?」山本議員の追及

 今月2日の参院予算委で、山本議員は、米国の世界戦略や自衛隊の米軍との一体化を問う質疑の流れの中で、「イラク戦争はどうだったと思われます?イラク戦争は間違いでしたか?正しい戦争でしたか?教えてください、総理」と問いただした。また、同月23日もイラク戦争の口実とされた「イラクが隠し持つ大量破壊兵器」について、現地で査察を行ったUNMOVIC(国連監視検証査察委員会)の委員長であったハンス・ブリクス氏が、イラクで700回の査察を行ない、大量破壊兵器はなかったと発言していることや、イラク戦争に参戦したイギリスは、2016年に検証結果を公表し、イラク戦争の様々な問題点をあげ、この戦争が誤りであったことを認め、同じく参戦国であったオランダの独立調査委員会も「イラク戦争への参戦は国際法違反である」と結論づけたことを列挙し、改めて「イラク戦争は正義の戦争だったと思うか?」と岸田首相のスタンスを問いただした。だが、岸田首相は、上述の様に、「(当時の対応の)妥当性は失われない」との答弁をくり返すだけであった。

 イラク戦争を開始した米国でも、早くから「イラクの大量破壊兵器情報」は誤りだと認めていた。米議会上院の情報特別委員会は2004年7月9日、情報の収集や分析作業に数多くの誤りがあったと指摘し、「イラク戦争は欠陥情報に基づいて始められた」と断定している。2009年に米国大統領となったバラク・オバマ氏は、イラク戦争開戦当初から、戦争に反対していたし、2008年の大統領選でも、繰り返し「誤った戦争だった」と主張。そのオバマ氏が大統領となったことは、米国の有権者の大多数もイラク戦争は誤りだったということを認めたということに等しい。戦争を始めた当の本人であるジョージ・W・ブッシュ元大統領ですら、大量破壊兵器に関する情報については、誤りであったことを2005年12月14日の演説の中で認めている。それにもかかわらず、大量破壊兵器情報の誤り等も含めイラク戦争に関する一切の反省の弁も述べず、ただただ「(当時の判断の)妥当性は失われない」とだけ主張する岸田首相のスタンスはあまりに不誠実である。

 問題は、岸田首相のみならず、メディアの側にもある。イラク戦争支持の姿勢を固持する日本政府に対する批判があまりに弱い。上述の今月2日と23日の、山本議員と岸田首相とのやり取りを報じた報道は皆無だった。イラク戦争20年という節目であるのに、メディアとしての役割を担えていないのではないか。

〇米国ではイラク開戦決議を撤回へ

 他方、5000人近くの自国兵士を犠牲にしたという当事国であるためか、米国の政治において、イラク戦争は20年経った今も重いと言える。最近の動きでは、米上院で、今月29日、イラクとの開戦を認める決議を撤廃する法案が、賛成多数で可決された。武力行使容認決議は英語の頭文字からAUMFと呼ばれ、

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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