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報ステの解説が酷い!岸田首相「化石」演説、COP26 で「火力ゼロエミ化」強調

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
COP26で演説する岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 「日本だけでなくアジア全体で、化石燃料と同様に水素とアンモニアを燃料としてゼロ・エミッション(排出ゼロ)化を推し進める」―イギリスのグラスゴー市で開催中の温暖化対策の国際会議COP26で、今月2日、岸田文雄首相は、温室効果ガス排出削減での日本の取り組みや国際社会での貢献をアピールした…のだが。岸田首相の演説は、温暖化対策に後ろ向きであるとして、国際NGO「気候行動ネットワーク」から不名誉な賞である「化石賞」に選ばれてしまった。その一方で、テレビ朝日の報道番組「報道ステーション」は、岸田首相のCOP26での演説やその背景を解説。その内容がまた酷いものであった。

○「火力のゼロエミ化」という詭弁を垂れ流し

 温室効果ガスであるCO2を大量に排出してしまう火力発電。そのゼロ・エミッション化は、一見、良いことのように思える読者の方々もいるだろう。この「火力のゼロエミ化」を、報ステが取り上げ、テレ朝のYouTubeチャンネルにも、"「旗色が悪い印象?」COP26総理演説を記者解説(2021年11月2日)"として、動画を公開した。これらは、岸田首相の演説の言う「火力のゼロエミ化」について「火力発電した時に発生したCO2を回収して地中に埋めたり、燃やしてもCO2を排出しないアンモニアを石炭に混ぜて燃やすことで、発電所が排出するCO2を削減する取り組み」「地中に埋めることは、すでに取り組みを始めているが、アンモニアについては、実証実験の段階」と解説している。

 だが、「気候行動ネットワーク」が見抜いたように、岸田首相の演説は欺瞞に満ちたものであった。火力発電所からのCO2を地中に埋めるCCS(二酸化炭素回収・貯留)は、まだ日本国内では技術が確立されておらず、世界的にも火力発電所からの排出に対応できるCCSの事例はない。報ステの解説では、日本政府がCCSについて「すでに取り組みを始めている」としていたが、控えめに言っても誤解を招く表現だ。石炭にアンモニアを混ぜての混焼も、多少減少するとは言え、CO2が大量に発生すること自体は変わらないのでゼロエミ(排出ゼロ)ではないし、仮に火力発電施設でアンモニアのみの専焼を行ったとしても、強力な温室効果ガスであるN2O(一酸化二窒素)が発生する。仮に、N2O発生を抑える技術が確立したとしても、そもそもアンモニアを化石燃料からつくる際にCO2が発生する。再生可能エネルギーを使って生産した「グリーンアンモニア」を専焼するならともかく、石炭を混ぜたらゼロエミとは言えない。水素とLNG(液化天然ガス)の混焼については番組中では触れていなかったが、問題の構図は、N2O発生以外はアンモニアと石炭の混焼とほぼ同じものだ。

○脱石炭しない日本政府を擁護

 「火力のゼロエミ」という欺瞞を代弁するだけにはとどまらず、ご丁寧にも、報ステは「日本が石炭火力発電から脱却できない理由」まで、日本政府を擁護している。火力発電の中でも、特にCO2排出が多い石炭火力発電の全廃は、温暖化対策の中でも最優先に行われるべきことで、実際、COP26開催国イギリスのジョンソン首相も脱石炭声明を呼びかけ、今月3日の発表時点で、欧州各国や韓国、インドネシアなど46の国と、米国の一部の州等が賛同したが、日本はこれに加わっていない

 日本の脱石炭への後ろ向きぶりについて、上述の報ステの解説では、テレビ朝日政治部・官邸キャップの山本志門記者が「今後、地理的な制約を考えますと、一気に、再生可能エネルギーに舵を切るわけにはいかない」と、日本政府関係者の話として語った。この解説の中で「地理的な制約」とは何かは語られなかったが、これは、日本の再エネ普及が遅れていることへの弁明で経産省や大手電力等がよく使う詭弁である。つまり、「日本は平地の面積が狭く、太陽光パネルを置く場所がない」というものであるが、これは明らかな誤りだ。環境省の報告書(令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書)によれば、農地と共存し耕作放棄地を活用する太陽光発電、いわゆるソーラーシェアリングは、理論上、日本の総電力需要に対応するポテンシャルがあるとされている。

 それ以外にも陸上・洋上風力のポテンシャルも極めて大きい。再エネの不安定さも大規模蓄電施設や、余剰電力を活用したグリーン水素の生産とその活用で補える。「地理的な制約」どころか、日本は再生可能エネルギー大国になり得るのだ。むしろ、既存の化石燃料を使った火力発電施設に固執する大手電力やプラントメーカーへの配慮こそが、日本政府が石炭火力発電から脱却できない理由であろう。

○人類存亡の危機とメディアの役割

 政権の詭弁を見抜き批判するのが、本来、報道に求められているチェック機能なのであるが、報ステの解説は、政府の詭弁を拡散する「広報」になってしまっている。これらの論点について、筆者はテレ朝広報部に問い合わせた。だが、テレ朝側は

「ご指摘の放送はいずれも取材に基づいた解説であり、個別のご質問には、回答は差し控えさせていただきます」

 とのFAXを送ってきただけだった。

 今回の報ステの解説及び質問への回答には失望させられたが、筆者としてはテレ朝や報ステを叩くことは目的ではない。人類の存亡すらも左右しうる危機にまで発展しつつある地球温暖化(=気候危機)について、もっとまともな報道が増えてほしいだけである。問題ある報道は、テレ朝のみならず、他のキー局も「地理的な制約」だの、「火力発電の高効率化」だの、政府や大手電力の詭弁を、批判的分析もないままに垂れ流している。Yahoo!ニュースも、専門的視点を欠いたスポーツ紙の「こたつ記事」*1を掲載するなど、フェイク拡散に加担してしまっている*2。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)によれば、地球温暖化の破局的な影響を防ぐためには、あと10年以内に世界の温室効果ガスを半減させることが必要であり、温暖化対策は時間とのたたかいだ。メディア関係者の意識も変革が必要なのである。

(了)

*1 こたつ記事とは、専門的な知見や実体験もなく、ろくに取材や調査、事実確認もしないまま、インターネットやテレビなどでの情報のみを元に書かれる記事。「こたつに入ったまま書ける」という皮肉が語源。

*2 今回は批判もしたが、一方でYahoo!ニュースでは筆者も自由に書かせてもらっており、その点は大いに感謝している。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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