名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が著しい健康状態の悪化にもかかわらず、適切な医療を受けられないまま、今年3月に死亡した問題で、法務省/出入国在留管理庁(入管庁)は今月10日に調査報告書をまとめた。さらに、同20日には、ウィシュマさん死亡を受けての入管庁の改革チームが設置されたという。だが、数ヶ月に及ぶ調査期間にもかかわらず、調査報告書はウィシュマさんの死因すら特定せず、他の調査内容にも不審な点が多い。だが、ウィシュマさんが亡くなるまでの経緯の中で、幾度も彼女の命を助けるチャンスがあった。本稿では、ウィシュマさん死亡事件をこの間取材し続けた筆者が、調査報告書について、検証を行う。

○死因を特定しなかったのは、処分を軽くするためか

 今回の調査報告の最大の問題点は、ウィシュマさんが何故亡くなったかの死因すら特定できなかったことであろう。入管庁の調査チームには有識者として2名の内科医が加わっており、さらにこの2名より紹介を受けた専門医(内分泌内科医師と総合診療医師)に聴取を行ったのだという。しかし、本件が「刑事事件として捜査が行なわれており、司法解剖の鑑定書の入手、解剖医からの聴取はできなかった」など、最も重要な情報にアクセスしていない、断片的な調査なのである。そもそも、本件を追及してきた野党議員らやウィシュマさんの遺族の代理人弁護士等は、法務省/入管庁による調査ではなく、完全に独立した第三者による調査を求めてきた。「殺人の容疑者が自身が被告となっている裁判の裁判長を行う」ことはあり得ないが、ウィシュマさんを死なせたことで、刑事事件で被告になるかもしれない法務省/入管庁が主体となって調査を行うこと自体が間違いであり、そのために必要な情報にアクセスできず、死因を特定できなかったことは、極めて大きな問題である。しかも、死因を特定できなかったことを口実に、名古屋入管の職員らの処分が極めて軽いものとなっている。当時の名古屋入管局長及び次長は「訓告」、警備監理官、処遇部門の首席入国警備官は「厳重注意」と、いずれも国家公務員法での処分に該当しない上級監督者からの部下職員に対する指導にすぎないものなのである。本件は、業務上過失致死、あるいは保護責任者遺棄致死罪が該当するのではと、報道番組にコメントした専門家、遺族代理人の弁護士などから指摘されているレベルの事案である。ウィシュマさんが死因を完全に特定できないまでも、死亡の経緯や状況証拠から、より厳しい追及や処分が行なわれるべきだったのではないか。むしろ、本件の調査報告書は、真実を明らかにするというより、「死因がわからないから処分しようがない」という様に、名古屋入管及び法務省/入管庁の責任をうやむやにするためのものだったのではと疑わざるを得ないのだ。

法務省/入管庁がまとめたウィシュマさん死亡の経緯
法務省/入管庁がまとめたウィシュマさん死亡の経緯

○飢餓・脱水状態を放置した入管の責任

 全く不十分な入管庁調査チームによるウィシュマさんの死因についての分析ではあるが、それでもコメントを求められた外部専門医は、今年2月15日の尿検査の結果を問題視している。同検査の数値は通常の健康な成人ではあり得ないもので、ウィシュマさんが飢餓・脱水状態にあり、腎臓の機能も悪化していたことを示している。それにもかかわらず、追加の医学的検査や、点滴を行うなどの具体的な対応は行なわれなかった。検査を行った名古屋入管の看護師は、ウィシュマさんを診察していた非常勤の内科医に、尿検査の結果を伝えたとしているが、TBS「報道特集」の問い合わせに対し、その内科医は「検査結果を受け取ったかは覚えていない」としており、今年2月18日、ウィシュマさんの外部病院での受診先を内科ではなく、精神科に指定している。