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メガソーラーより全然良い!福島の少年が見た日本再生の切り札とは

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
吉田幸希さん(左)と小山田大和さん ソーラーシェアリングの現場を見学 筆者撮影

 大規模な水害や熱波など異常気象が国内外で次々に発生するなど、地球温暖化の脅威はいよいよ現実のものとして人々を襲っており、最早「気候危機」と呼ばれる状況だ。温暖化の原因となるCO2を排出しない脱炭素社会の実現は急務。対策の要は、やはり再生可能エネルギー。中でも、大きな可能性を秘めているのがソーラーシェアリングだ。神奈川県小田原市での先駆的な事例を、原発事故を経験した福島の若者が見学した。

○原発事故のイメージを再エネで塗り替えたい

 福島県郡山市出身の吉田幸希さん(18歳)が、東京電力の福島第一原発事故に直面したのは、小学2年生の時だった。事故後、母親と弟との3人で、岡山県へ移り、3年間そこで避難生活をおくったが、深刻ないじめや嫌がらせに遭ってしまう。「悔しかったのは、"福島なんて人の住むところじゃない"と言われたことです。原発事故という福島のイメージを塗り替えたい。再生可能エネルギーで地方創生ができたら、と思うようになりました」(幸希さん)。

 幸希さんが今後の参考として、見学に訪れたのが神奈川県小田原市に拠点を置く合同会社「小田原かなごてファーム」が行っているソーラーシェアリング事業だ。ソーラシェアリングとは、農地の上に屋根状にソーラーパネルを設置し、農業を行いながら発電も行うもので、「営農型発電」とも言われる。そのポテンシャルは極めて大きく、環境省の調査によると、日本の農地全体では年間の発電量は最大で2兆8000億キロワット時となり、これは2019年時点の日本の年間総発電量(約1兆2224億キロワット時)の約2.3倍という規模なのだ。無論、場所によって設置時のコストや発電効率も違ってくるだろうが、事業採算性を重視した試算でも、太陽光発電と風力発電だけで、日本の電力需要は十分まかなえるという。

 大きな可能性を持つソーラーシェアリングだが、現時点では普及が進んでいるとは言い難い。そんな中、「小田原かなごてファーム」は全国的にも先駆的な取り組みを続けてきた。同ファームの代表社員の小山田大和さんとネット番組で共演したことをきっかけに、幸希さんは小田原市でのソーラーシェアリングを訪れることとなり、筆者も同行した。

○農業と発電を両立、収入もアップ

 見学では、「小田原かなごてファーム」の運営する3つのソーラーシェアリングのうち、二ヶ所、現場を訪れた。一つは、桑原ソーラーシェアリング(2号機)で、休耕地を再生させた約1090平方メートルの水田に、2018年に竣工した。もう一つは、今年完成したばかりの市曽比ソーラーシェアリング(3号機)で、広さは約1700平方メートル。いずれも、支柱の上に太陽光パネルが設置され、水田/畑を覆うようなかたちとなっているが、パネルとパネルの間から日光が入るため、強い日光を必要とする作物でない限り生育には問題ないとのこと。支柱の上に設置するため、地上に据え置く従来の形式よりは建設時のコストがかかるが、ランニングコストでは優れているのだと言う。「地面から離れているので、太陽光パネルの効率を落とす熱が逃げやすいため、むしろ据え置き型より発電効率は高いのです」(小山田さん)。

ソーラーシェアリングは農地に支柱を立て、その上に太陽光パネルを設置する 筆者撮影
ソーラーシェアリングは農地に支柱を立て、その上に太陽光パネルを設置する 筆者撮影

 ソーラーシェアリングの優れている点は、農業と発電を両立でき、農家の収入を大幅に増やしうることだ。「農業の収入に加え、売電の収入が得られることは大きいです。うちの農地では、売電利益の方が多いくらいですからね。今、地方は経済が縮小し、どこも商店街がシャッター通りとなってしまっていますが、ソーラーシェアリングは地域の農業や経済を再生させるため有効だと思います」(小山田さん)。「小田原かなごてファーム」は、2号機のある水田からの米を、県下の老舗、井上酒造と協力して日本酒を製造・販売している。米をそのまま売るのではなく、ブランド化した加工品にすることで付加価値を高めるというわけだ。

 また発電事業としては比較的導入コストが高くないため、参入しやすいこともソーラーシェアリングの利点だ。「大型の風力発電施設とかだと何億円もかかりますから、大手企業でないと難しいのでしょうが、ソーラーシェアリングは、個人レベルでも頑張れば始められます。3号機を設置した農地は地中が石だらけだったので、その除去もあり、建設費は約1885万円と、当初の想定よりコストがかかってしまいましたが、環境省からの助成金に加え、城南信用金庫と県の信用保証協会から半分ずつ融資を受けられたので、完成させることができました。融資のための交渉は大変でしたが、自治体の信用保証協会がソーラーシェアリングへ融資を行った実例を作れたことは良かったと思います。他の地域でも真似してもらえれば嬉しいですね」(小山田さん)。

特に強い光を必要とする作物でない限り、太陽光パネルの隙間からの日光で問題なく生育するという。支柱をしっかり設置すれば、台風などの暴風にも耐えられる 筆者撮影
特に強い光を必要とする作物でない限り、太陽光パネルの隙間からの日光で問題なく生育するという。支柱をしっかり設置すれば、台風などの暴風にも耐えられる 筆者撮影

○FIT後を見据えた挑戦

 3号機からの電気の活用の仕方は、ユニークだ。あえてFIT(固定価格買取制度)を適用せず、自己託送で新電力会社を絡ませ「小田原かなごてファーム」が運営するカフェで自家消費しているのだ。FITは再生可能エネルギーの普及のため、再エネ事業者が安定して利益を得られる価格での電気の買取を電力会社に義務付けるものであるが、2012年に制度が開始された当時に比べ、買取価格は引き下げられる一方。その背景には、買取価格が再エネ賦課金として電気料金に上乗せされ、最終的に消費者負担とされることが、電力業界や一部の報道等による再エネ叩きの口実にされてきたことがあるが、この種の批判は、石炭や石油等の化石燃料、原発にも多額の公的資金が投じられ続けていることから、フェアなものとは言い難い。「日本の再エネ事業はFIT制度がなくなれば終わりという見方もありますが、だからこそ、FITに依存しないで、化石燃料や原発に頼らない脱炭素社会の実現に向けた事業のあり方を模索しました」(小山田さん)。

ソーラーシェアリング3号機が発電した電気は、自己託送で新電力会社を絡ませ「小田原かなごてファーム」が運営するカフェでの自家消費 筆者撮影
ソーラーシェアリング3号機が発電した電気は、自己託送で新電力会社を絡ませ「小田原かなごてファーム」が運営するカフェでの自家消費 筆者撮影

 小山田さんの取り組みに、幸希さんは大いに感銘を受けた様だ。「僕も近い将来、福島で再生可能エネルギー事業を始められたら、と思います。福島は果物が豊かなので、ソーラーシェアリングをしている畑から取れた果物でお酒をつくるのもいいのかもしれませんね」(幸希さん)。今後も、幸希さんは小山田さんを師と仰ぎ、学んでいくつもりだという。

○本当にエコな再エネを推進すべき

 経産省が今月12日に発表した2030年時点の電源別の発電コストの試算では、太陽光発電は大量導入や技術革新により、原発を抜き、もっとも競争力のある電源となるとされている。

 一方で、太陽光発電事業の中には、心無い業者が山林を破壊しメガソーラーを建設しているケースもあり各地で問題となっているが、自然破壊を伴うやり方ではなく、地域と共存し、利益をもたらすソーラーシェアリングこそ推進されるべきだろう。そのためには、大手電力の利権にメスを入れることも大事だ。「太陽光発電施設からの電気を系統(送配電網)につなぐためのコストが高いんですよね。系統の使用料である託送料金も高い」(小山田さん)。系統は各大手電力グループ企業が所有しているが、電気料金を支払っているのは消費者であり、公共財だとも言える。こうした利権構造の見直しや、ソーラーシェアリングを支援する政策や規制緩和を行い、幸希さんのような意欲的な若者達が全国各地で次々に事業に参入できるような状況をつくることが大切だろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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