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古舘氏「脱炭素にかなりのウソ」「グレタさんの後ろにウォール街」、その真偽は?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
イギリスのテレビ番組に出演する環境活動家グレタ・トゥンベリさん(写真:REX/アフロ)

 元「報道ステーション」キャスターで、現在はフリーアナウンサーの古舘伊知郎氏の発言が注目を浴びている。今月27日放送の「そこまで言って委員会」(読売テレビ)で、古舘氏は地球温暖化対策に関連して「脱炭素と言っている綺麗ごとはかなりのウソがあると思う。脱炭素というのはビジネスになるから」「(環境活動家の)グレタ・トゥンベリさんの後ろにも何百社と金融関係、ウォール街がついている」と発言。これを東スポのウェブ版が記事として配信、Yahoo!ニュースのコメント急上昇ランキングでも、一時、上位50番内に入った。ただし、古舘氏の発言には参考にすべき点もあるが、雑で視聴者をミスリードさせる点もある。番組中の古舘氏の発言と、関連するテーマについて解説する。

◯電気自動車に異論

 今月27日放送の「そこまで言って委員会」は国際条約をテーマに出演者がコメントしていくというもので、その中の一つとして、地球温暖化対策の全世界的な取り組みである「パリ協定」にも出演者らがコメントした。古舘氏は温暖化を防止しなければいけないというのが自身のスタンスだと前置きした上で、「脱炭素と言っている綺麗ごとはかなりのウソがあると思ってるんです。脱炭素というのはビジネスになるから」とコメントした。また古舘氏は脱炭素の要の一つである電気自動車についても、その課題を指摘した。

「(電気自動車のバッテリーの素材となる)リチウム取るんだって、チリとかペルーとかの塩湖とかで、リチウムを乾燥させるという工程の中で、現地の人々が、どれだけ水を取られ、環境破壊が起きているかということを考えたら、電気自動車が全て素晴らしくてガソリン車がダメということではないんですよ」(古舘氏)。

 確かに、リチウムの生産過程については、先住民族の水資源や生態系を脅かしていることが、アムネスティ・インターナショナルやグリーンピース等のNGOから指摘されている。これらのNGOが求めているのは、リチウムイオン電池のサプライチェーンの中で環境や人権への配慮を徹底することだ。自動車業界でも、よりエコなリチウムを求める動きがある。ドイツ自動車大手BMWは、「責任ある鉱業の認証イニシアティブ」(IRMA)に基づくリチウム生産を目指しており、同グループが契約したライベント社は、リチウムの生産過程で水を蒸発させたり、汚染することなく、環境中に戻す独自技術を持っているという。

*石油もその採掘で原油が海などに流出したり、地下水を汚染したり、先住民の権利を侵害したり、戦争の要因となったりと、CO2排出だけではなく、以下に述べるLCA上の問題がある。

南米のアルゼンチン、チリ、ボリビアは「リチウムトライアングル」 と呼ばれ、リチウム資源が豊富
南米のアルゼンチン、チリ、ボリビアは「リチウムトライアングル」 と呼ばれ、リチウム資源が豊富写真:ロイター/アフロ

◯原料の調達からリサイクルまでをエコに

 重要なのは、原料の調達から製造、流通、使用、廃棄、そしてリサイクルといったLCA(ライフサイクル・アセスメント)を、限りなくエコにしていくことであろう。個別の企業が「ちょっといいことやっています」程度のものではなく、ビジネスのあり方全体が環境・人権の配慮と両立していることが当たり前の世界を目指していくことが大切であり、実際、欧米社会を中心に、そうした流れになりつつある(まだまだ不十分ではあるとは言え)。無論、それが本当に環境や人権に配慮されたものであるか、厳しく監視されなくてはならないものの、古舘氏のコメントにみられるような「ビジネスだからウソだらけ」という考え方は、ナイーブなものとなっていくのではないか、と筆者は感じる。また、古舘氏に対してではなく、日本のメディアやネット上での論調について言えることだが、「環境への配慮なんて、結局はウソだらけ」とのシニシズム的な主張は、往々にして現状を肯定する「何もしないための口実」にすぎないことが多いように思われる。

◯グレタさんの後ろにウォール街?

 古舘氏のコメントについて言えば、「グレタ・トゥンベリさんの後ろにも何百社と金融関係、ウォール街がついている」との発言も誤解を招き不適切だろう。グレタさんの後ろにいるのは、世界各地で「気候危機」への対策を求める数百万人の若者達だ。

 グレタさんをめぐる陰謀論では、著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏とグレタさんとのツーショット写真を根拠に「グレタさんと国際金融のつながり」といった主張もあるが、そもそも、バフェット氏とのツーショット写真が雑な加工画像であり、海外メディアのファクトチェックで否定されているものだ。ただし、近年は海外の政府系金融機関や機関投資家が脱炭素に大きく舵を切っていることは事実だ。その要因と大きなものを一つあげるとすれば、環境系シンクタンク「カーボントラッカー」が提唱した「座礁資産」、つまり、温暖化防止の観点から石油や石炭等の化石燃料への投資は、今後、多大な損失となるリスクだとの見方が広がっていることがあるだろう。また350.org等の環境NGOが化石燃料事業からのダイベストメント(投資引き上げ)を呼びかけていることもあるだろう。

◯国策にも忖度しなかった古舘氏

 一方で、番組中での古舘氏のCCS(二酸化炭素回収・貯留)の問題点についての指摘は、筆者としても大いに評価したい。CCSは火力発電所等から放出される大量のCO2を地中や海底に封じ込めることであるが、技術的に確立されておらず、貯留していたCO2が漏れ出るリスクもある。古舘氏も番組中、「(貯留していたCO2が)海中に染み出した時の海の酸性化」*を指摘していた。CCSは日本政府や大手電力会社等が推進しているが、上述の問題や、太陽光や風力等の再生可能エネルギーへの移行を遅らせる要因になることが懸念される。環境省の調査報告によれば、日本における太陽光・風力等の再生可能エネルギーは、電力総需要を優に上回るポテンシャルがあり、商業的にも成り立つという。いつまでも、石炭や石油、天然ガスに依存するのではなく、社会や経済の変革を急ぐべきである。

*海の酸性化の進行は、植物プランクトンやサンゴ礁への脅威となり、海の生態系全体にとっても多大なリスクとなりうる。

◯メディアの報じ方が問われている

 ごく短い時間で複数の出演者がコメントするという今回の番組の構成上、説明不足になるのは必然で、好意的に解釈すれば、もっとまとまった時間があれば、古舘氏のコメントも、より的確で有意義なものとなったのかもしれない。ただ今回、雑な番組構成の中での雑なコメントが、雑なネット記事にまとめられ、国内最大級のポータルサイトでの配信によって拡散されたことで、温暖化対策や環境問題への理解を深めるというより、シニシズムと「何もしないための口実」を補強することになってしまったのではないか。地球環境の保全は、最早エコ志向の人々の慈善的なものではなく、人類の存亡をも左右する全世界的な課題だ。メディアも、そのような重大テーマを扱うことの責任を自覚して報道のあり方を見直すべきだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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