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何人死なせたか覚えてない上川法相、「全然重く受け止めてない!」立憲・階議員が叱る

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
上川陽子法務大臣(中央) 国会中継より

 名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)が、先月、死亡した問題(関連記事)で国会が揺れている。ウィシュマさんは、体重が20キロも減り、吐血・嘔吐を繰り返すなど、著しい健康状態の悪化を訴え外部の病院に入院することを求めていたにもかかわらず、入管側が十分な治療もなく収容を続けたことが、彼女を死なせてしまうことになったのでは、と野党議員達が追及(関連記事)。今月28日の衆院法務委員会では、階猛衆議院議員(立憲民主党)の質疑が、口先では「再発防止」を述べる上川陽子法務大臣の危うさを暴いた。

○在任中の入管内の死亡者数を答えられず

 「入管の(収容)施設は大切な命を預る施設」-上川法相が国会質疑で述べたように、オーバーステイ等で出入国在留管理庁(入管)の収容施設に収容された外国人の人々の健康を維持することは、入管の責務だ。だが、全国難民弁護団連絡会議の調べでは確認できただけで、過去24人が入管の収容施設内か送還中に死亡している。それらの死亡事案にはウィシュマさんのように、適切な医療を受けられなかったために、死亡したと見られるものも多い。

名古屋入管で死亡したウィシュマさん 遺族提供
名古屋入管で死亡したウィシュマさん 遺族提供

 今月28日の衆院法務委員会で上川法相は「(被収容者の)死亡事案が生じた理由についても、個々の事案の具体的内容を踏まえて、しっかりと把握する必要がある」と述べた。また、ウィシュマさんの死亡について「大変重く受け止めている」「過去の事案についても、その都度対応しているが、今回の事案に対しても、可能な限り調査をする」と述べた。

 だが、階議員が「大臣、これまで何度も法務大臣をやってこられて、自分が在任中に、入管の施設で病気とか自殺とかで何人が亡くなられたか、把握されていますか?」と質問すると、上川法相は「今ただちにお答えできない」としか答弁できなかったのだ。階議員は「おかしい、おかしいでしょ」と憤る。

「なんですか、その答弁は?その都度対応してきて、重く受け止めてきた、ご自身が大臣の在任中を聞いているわけですよ。ご自身の在任中ですよ。全部を言えと言ってませんよ。なんでそんなことも答えられないのですか?全然重く受け止めていないじゃないですか。反省も教訓も活かされないから、こういうこと(=ウィシュマさん死亡)が起きるんでしょう。責任感じませんか?」(階議員)

「実は大臣が、過去の法務大臣の在任中も含め、4人亡くなっていますね。4人も亡くなっているんですよ。今回のスリランカ人女性を含めて」(同)

 階議員が指摘したように、ウィシュマさんと同じく名古屋入管でインドネシア人男性が昨年10月に亡くなっており(死因の詳細は「不明」)、過去には第2次安倍改造内閣時の法相として上川氏が在任中の2014年11月に、東京入管でスリランカ人男性が亡くなっている。収容施設での医療体制改善の必要性が指摘され続けてきた中で、3人が「病死」。ウィシュマさん一人だけでも十分アウトだが、正に「スリーアウト」だ。そして、第4次安倍内閣時での上川氏が法相在任中にも、2018年4月に東日本入国管理センターでインド人男性が自殺している。つまり、上川法相の下で4人が亡くなっているのである。

 上川法相が自身の在任中に入管で亡くなった人々のことを即座に思い出し答えることができなかったのは、驚くべきことだ。インドネシア人男性の死亡事案は昨年秋と直近のことであるし、ウィシュマさんの死亡の際に法務省での会見で記者から指摘されていた。 

 2014年のスリランカ人男性ニクラス・フェルナンドさん(享年57歳)は激しい胸の痛みを訴えたが、連れて行かれたのは病院ではなく、隔離のための独房だった。そこで数時間放置された挙げ句、彼は亡くなってしまったのである。その経緯についてはロイター通信が詳細なリポートを行っており、それは現在もネット上で読むことができる。何より、法務省内で調査や改善策の論議が行われる程、深刻な事案だった(関連情報)。

 2018年のインド人男性ディーパク・クマールさん(享年32歳)が自殺した件も、遺族が「日本の入管に殺された」としてインド外務省を通じて抗議、現地メディアの他、AFP通信も取り上げるなど、国際問題に発展した。また、ディーパクさんを死なせてしまったことへの抗議として、彼が収容されていた東日本入国管理センターでは、100人以上の被収容者達がハンガーストライキを行い、日本のメディアでも注目された

 いずれも忘れることができるようなケースではないにもかかわらず、しかも、ウィシュマさんの非業の死によって、入管の収容施設での人権侵害が、今国会で審議されている入管法「改正」案の争点となっている中においても、上川法相は階議員の問いへ答えられなかったし、その場で確認しようともしなかったのだ。

○命を軽んじているのではないか?

 ウィシュマさんら入管施設での死亡事案は、ブラックボックスの中で被収容者の収容や仮放免について決定され、その決定の是非について、裁判所など第三者機関の速やかなチェック機能が働きにくい、という現在の入管行政の「国際人権規約違反」の制度に起因するのだろう。

 だが、階議員の質問に対する上川法相の答弁に表れているように、そもそも法務省や入管は、被収容者の健康や命を軽んじている傾向があるのではないか。現在国会審議されている入管法「改正」案は、難民認定申請者を強制送還できないとする難民条約や現行法上の規定に例外を設けること、送還を拒む人に対し刑事罰を加えるなど、入管にこれまで以上に強大な権限を与える内容だ。だが、上川法相や入管の国会での答弁を聞いていると入管法「改正」が、さらなる人権侵害につながるのではないかとの疑念を拭えない。

 あくまで「人権に配慮している」「徹底的な調査を行う」と上川法相や入管が主張するのならば、ウィシュマさんがなぜ非業の死を遂げなくてはならなかったのか、徹底的な調査が必要だ。上川法相と入管は、ウィシュマさん死亡前後の監視カメラの映像を国会に資料提出することを頑なに拒んでいるが、野党側の求めに応じるべきだろう。

(了) 

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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