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国連に逆ギレの上川法務大臣、問われる資質―「拷問、虐待」「国際法違反」特別報告者ら入管を批判

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
人権擁護も法務大臣の職責であるはずだ 会見する上川陽子法務大臣 筆者撮影

 この人が法務大臣で大丈夫なのか―会見での上川陽子法相のコメントの稚拙さ、不誠実さに、そう懸念せざるを得ない。法務省/出入国在留管理庁(以下「入管」)が今国会に提出した入管法「改正」案に対し、「国際法違反」であるとして、国連の人権の専門家である特別報告者3人と、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会が共同書簡を日本政府に送付、さらにオンライン上に公開した。これに対し、上川法相は「一方的」「抗議せざるを得ない」とコメントしたのである。しかし、法務省/入管が、難民その他帰国できない事情を持つ外国人に在留資格を与えず、その収容施設に長期収容している問題について、国連の人権関連の各委員会は再三、懸念を表明してきた。また法務大臣の私的諮問機関の専門家達も、問題を指摘してきたのである。そうした経緯を踏まえず、ただ反発するだけの上川法相は、人権擁護も法務省の責務であることを忘れているかのようだ。

○国連専門家らが入管法「改正」案を批判

 法務省/入管が今国会に提出した入管法「改正」案は、難民認定申請者を強制送還できるよう例外規定を設けることや、送還を拒む外国人に対し刑事罰を加えることなどが盛り込まれている。この入管法「改正」案について、フェリペ・ゴンサレス・モラレス氏(移住者の人権に関する特別報告者)、アフメド・シャヒード氏(宗教または信条の自由に関する特別報告者)、ニルス・メルツァー氏(拷問に関する特別報告者)の3人と国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会(以下、国連WG)は、厳しく批判。

・迫害の恐れのあるところへ難民申請者を強制送還すること

・そもそも出入国管理における収容は「最後の手段」としてのみ行われるべきなのに在留資格を得ていない外国人を一律に収容することが前提であること

・収容期間の上限がないこと

・裁判所による判断なしに入管の決定のみで収容が可能なこと

等が、国際人権規約等に反すると指摘したのだ。

 これに対し、上川法相は6日の会見で「長期収容などの諸問題を解決するため、国際法学者、弁護士等による有識者会議における様々な指摘等を踏まえ立案したもの」として入管法「改正」案を正当化したが、これは不誠実極まりない詭弁である。

○排除された専門家の意見・提言

 上川法相の言う有識者会議とは、2019年10月から2020年6月にかけて行われた「収容と送還に関する専門部会」のことだ。この専門部会において、当時委員であった宮崎真弁護士は、難民認定申請者を強制送還できるよう例外規定を設けることについて、

「難民認定率が国際水準と乖離している中では時期尚早」「難民認定審査が適正に行われることが極めて重要」

と強調してきた。また、送還を拒む外国人に対し刑事罰を加えることについても

「『正当な理由なく』国外退去に応じない者に対し罰を科すとしているが、何が『正当な理由なく』なのかが抽象的」「送還忌避者とされる人々の国外退去が困難である事情は様々で一律に罰則が適用される制度は適当ではない」「罰を科しても、刑務所と入管収容施設を行き来する状況を作り出すだけ」

と強く反対してきた。同じく、専門部会の委員であった国際法学者の川村真理・杏林大学教授も「収容全体期間の上限の設定を検討すること」「収容の合理的必要性および相当性判断において司法審査を検討すること」を提言している。だが、これらの反対意見や提言は、入管法「改正」案に取り入れられなかった。

 上述のように入管法「改正」案についての特別報告者や国連WGからの指摘に対し、上川法相は「国際法学者、弁護士等による有識者会議における指摘等を踏まえ立案した」と反発しているが、実際には法案から排除した専門部会の委員達の反対意見や提言を、批判を逸らすための「盾」として利用することは極めて不誠実であろう。

○国際機関の再三の指摘に背を向ける

 また、上川法相は「事前に説明の機会もなく、一方的に見解を公表されたことについては抗議をせざるを得ない」と特別報告者と国連WGの共同書簡に反発。だが、上述の特別報告者や作業部会が問題視する点が入管法「改正案」でクリアできていないことは、否定できない客観的な事実である。また、昨日今日突然に国連で日本の入管のあり方が問題視されたのではなく、度重なる指摘を無視してきたのは、法務省/入管の側だ。昨年9月にまとめられた国連WGの意見書では、

・2007年に拷問禁止委員会は、日本における難民認定申請者に対する司法審査の欠如、収容が長期にわたり無期限であることを懸念。

・2013年にも拷問禁止委員会は、前回の懸念を再度表明、日本における出入国管理において収容が最後の手段としてのみ使用されるよう勧告。

・2014年、人権委員会は、収容決定について適切な理由が与えられず、司法などの独立した審査が行われないまま収容が長期化していることに懸念を表明。

・2018年、人種差別撤廃委員会は、難民認定率が非常に低いことに懸念を表明した。また、同委員会は、収容が期限を定められておらず無期限に続くことに対しても懸念。

といった経緯を列挙、「10 年にわたる条約機関の懸念を繰り返している」と断じている。

○人権擁護、国際条約遵守の職責を放棄なら辞職を

令和2年度版「人権の擁護」(法務省)より
令和2年度版「人権の擁護」(法務省)より

 法務大臣とは、法務省全体に対する責任を負う役職だ。法務省の重要な役割には、人権擁護や国際条約遵守の徹底も含まれるのだ。法務省の外局である入管が、国連の各機関から再三にわたり、人権や国際条約上の問題を指摘されているにもかかわらず、法務大臣が入管ばかりを擁護し、人権擁護、国際条約遵守の職務をおろそかにしているのは許されることなのか。その職責を全うできないのであれば、上川法相は辞職すべきであろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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