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上川法相の厚顔無恥、法務省が国際法無視―日本の信用破壊を改める難民保護の野党対案とは?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
上川法相のツイッターより

 帰国すれば最悪の場合は命をも奪われかねない難民申請者を、国際法の原則に反して強制送還できる例外規定を設ける。帰国を拒めば、刑罰を科す―先だって菅政権が閣議決定した入管法の「改正」案に対し、全国の弁護士会やNGO、人権団体、そして新聞各紙の社説等による批判が高まっている。法務省・入管庁側は「庇護すべき者を適切迅速に判別する仕組み」をつくるとしているが、国連の人権関連の各委員会から繰り返し改善を勧告されるなど、そもそも法務省・入管庁に難民認定審査をする資格や能力、姿勢があるのかが大いに疑問だ。野党が共同でまとめた対案では、独立した組織が難民認定審査を行うとしているが、法務省・入管庁から難民認定審査を切り離す時期に来ているのかもしれない。

○上川法相SNS投稿の厚顔無恥/国連からの批判

 上川陽子・法務大臣は入管法「改正」案について、自身のツイッターで「共生社会の実現につながるものと考えています」と書いていたが、控えめに言っても厚顔無恥も甚だしい。まずは日本の難民認定審査のこれまでについて、真摯な反省が必要であろう。日本の難民認定率の異常な低さは国際社会からも厳しい視線を向けられている。他の先進国では、2割前後から5割強の割合の難民認定率は、日本では10年近く0.5%を上回ることがなく、文字通り、桁違いに少ない。日本は「難民認定率が低い国」として、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からも、その年次報告書で名指しされる有様だ。

 昨年9月には、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会(以下、国連作業部会)が、日本で難民認定申請したが長期収容された2名からの訴えから、彼らに対する法務省・入管庁側の対処が「国際人権規約に反する」との見解を示した。この国連作業部会の日本の法務省・入管庁への指摘は極めて厳しいもので、

2014年、自由権規約委員会は、難民認定申請に関する否定的な決定に対し、それを猶予する効果を持つ独立した不服申立てメカニズムがないことに懸念

2018年、人種差別撤廃委員会は、締約国による難民認定申請の認定率が非常に低いと報告されていること(11,000件の申請のうち19件)に懸念

など日本の難民認定審査のあり方について、国連の人権関連の各委員会から度重なる懸念が表明されていることを列挙し、「日本においては庇護申請をしている個人に対して差別的な対応をとることが常態化」していると断じた。さらに、国連作業部会は

庇護を求めることは犯罪行為ではなく、それどころか、庇護を求めることは、世界人権宣言第14 条に明記された普遍的な人権であることを改めて表明する

と念押しまでもしている。これは、迫害から逃れたい一心の人々が「不認定」とされても幾度も難民認定申請を行わざるを得ない、異常に狭き門である日本の難民認定審査の実態を棚に上げ、彼らを「難民認定制度の濫用者」とレッテル貼りしている法務省・入管庁への痛烈な批判であろう。

 「自由権規約の下で負う義務との整合性を確保するため、出入国管理及び難民認定法を見直す」ことなど含め、国連作業部会からの日本政府への要請について、どう対応するのか。会見で、上川法相に筆者が質問すると「検討中」とのことだった。だが、難民申請を複数回行っている者を強制送還できる例外規定を設けるとする入管法「改正」案は、上述の国連作業部会の要請や、難民を迫害が予想される地域に追いやってはならないという国際法上の原則(ノンルフールマン原則)及び難民条約に真っ向から反しているものだ。

○自浄能力なしの法務省に野党が対案

 法務省・入管庁の姿勢は、国連の人権関連の各委員会からの度重なる厳しい指摘や、国際法上の原則を、ひたすら無視していくスタイルを貫くもののように見え、最早、自浄能力はないのかもしれない。そこで注目したいのが、先日、野党が共同でまとめた入管法「改正」への対案だ(関連情報)。その内容は多岐にわたり、人権擁護や国際社会のグローバルスタンダードに対応するなどの点で充実したものであるが、本稿のテーマに合致したものに絞ると、独立行政委員会として「難民等保護委員会」を新設し、難民等認定の主体を現行法の法務大臣からこの難民等保護委員会へと移すというものがある。すなわち、外国人の出入国管理を担う入管当局が行っており、「保護」ではなく「管理」の観点で行われている難民認定審査を、専門性の高い公平・中立な第三者機関に委ねるというものだ。

野党対案の難民等保護委員会についての概要図 立憲民主党のウェブサイトより
野党対案の難民等保護委員会についての概要図 立憲民主党のウェブサイトより

 また、上述の野党案では「難民等保護委員会」は、現状の日本独自で理不尽な難民認定審査の基準から、UNHCRの見解を踏まえ、難民等認定基準を策定するとしている。例えば、「個別把握説」の見直しだ。これは、その個人を現地独裁政権など迫害する側が、明確に特定し、攻撃対象として絞り込んでいることを、難民申請者が具体的に証明することを求めるというものだが、実際には、個人として迫害する側に特定されているか否かに関係なく、民族や宗教、支持政党、LGBTであること等で迫害されることの方が、むしろ多い。着の身着のまま命からがら避難してきた難民が、個別把握を証明する証拠(逮捕令状など)を持っているか否かを判断基準とすることは酷であるし、そもそも、そうした書類等自体も特にないままに迫害が行われるケースは非常に多い。こうした「個別把握説」にこだわる、これまでの日本独自の審査基準から、UNHCRの難民認定基準ハンドブックに基づく、難民の側に立った審査基準へと改めていこうというのである。

 本来、法秩序や人権の守護者であるはずの法務省が、国際人権規約違反を指摘されたり、国際法の原則に反した法案をつくるなど、本当に恥ずべきことであるし、日本自体の信用をも危うくするものだ。難民認定のあり方、野党の対案についての国民的議論が必要であろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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