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「良い子達は皆、地獄行き」グラミー賞制覇の18歳、ビリー・アイリッシュとグレタ・トゥーンベリの共通点

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ビリー・アイリッシュさん アメリカンミュージックアワード2019でのライブ(写真:ロイター/アフロ)

 米国における最大の音楽賞「グラミー賞」の第62回授賞式が現地時間26日に行われ、現在18歳の女性シンガー・ソングライター、ビリー・アイリッシュさんが「年間最優秀アルバム賞」など主要4部門を制覇するという歴史的快挙を成し遂げた。米国はじめ各国で支持される若者のカリスマであり、今年9月に来日公演を行う予定であるなど、日本でも注目を浴びつつあるアイリッシュさん。その彼女は、昨年9月の国連気候行動サミットでの演説や米誌『タイム』が選ぶ「今年の人」となったことで知られる環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(17)とある共通点がある。それは、地球温暖化への強い危機感を持ち、行動を起こすことを訴えているという点だ。

◯衝撃的なMVが持つ意味

 背中に翼を生やしたアイリッシュさんが、上空から石油の池に落下。真っ黒なオイルにまみれ翼を炎に焼かれながら、掠れた声でささやくように歌う―強烈なインパクトを持つMV「All the good girls go to hell(良い子にしていても、皆、地獄行き)」は昨年9月、国連気候行動サミットに向けてYoutubeで公開された。「カリフォルニアの丘が燃えている」「水位が上がって天国が見えなくなったら、悪魔と手を組みたくなるかも知れない」*といった歌詞からも明らかなように、地球温暖化をテーマにした曲だ。「良い子にしていても、皆、地獄行き」という挑発的な曲名及び歌詞も「既存の社会・経済の在り方のままでは未来はない」というメッセージが込められており、それはトゥーンベリさんの主張とも重なる*。

*「All the good girls go to hell」の歌詞及びMVは、キリスト教において人間を偏愛する神に対し反旗を翻した最高位の天使で、その後、悪魔とされるルシファーがモチーフとなっている。温暖化対策に否定的なトランプ大統領の主な支持層がキリスト教右派であることを考えると、なかなかパンチのある表現だ。

*他にも、アイリッシュさんもトゥーンベリさんも共にヴィーガン(動物性食品を一切食べない厳格な菜食主義者)であるという共通点がある。

 同年11月の「アメリカンミュージックアワード2019」でのライブで、アイリッシュさんは、「NO MUSIC ON A DEAD PLANET(死んだ惑星に音楽などない)」と書かれたTシャツを着て、「All the good girls go to hell」を歌った。この「NO MUSIC ON A DEAD PLANET」とは、温暖化対策を求めるミュージシャンや音楽業界団体によるグループ「ミュージック・デクレア・エマージェンシー」のスローガン。同グループにはアイリッシュさんの他、レディオヘッドやマッシブ・アタックなど1300以上のバンドやアーティストが支持表明している。日本では、とりわけ環境問題について、芸能人が自分の意見を表明すると、不当なバッシングに遭うことが少なくないが、欧米の音楽シーンでは、自らの主張を全面に出すことは、むしろ当然のことなのだ。

◯デモにも参加、SNSで呼びかけ

 アイリッシュさんは歌だけでなく、自身のSNSでも温暖化の脅威を訴えている。昨年9月、国連気候行動サミット直前のツイートでは「私達には時間がない」「気候危機(=温暖化)は、本当に深刻。リーダー達が行動を起こすよう、私達は声を上げる必要がある」と、グレタ・トゥーンベリさん達、温暖化防止を訴える若者達や環境NGOへの連帯を表明した。

 昨年11月に米国西部の大都市ロサンゼルスで行われた温暖化防止を訴えるデモにも、アイリッシュさんは参加。このデモには、トゥーンベリさんも参加、演説を行った。

◯地元カリフォルニアでの大規模森林火災

 「世界が終わる映画を観ているような、奇妙な気分です。私達は危機を防ぐことが出来るはずなのに、誰も彼も皆、怠惰で行動を起こさない。私達が変わらなければ、私達は皆死にます」―アイリッシュさんが米紙「ロサンゼルス・タイムズ」のインタビューに対して語ったように、彼女が温暖化への強い懸念を持っている背景には、実際にその脅威を目の当たりにしているから、ということがあるのだろう。

 アイリッシュさんは米国西部カリフォルニア州の出身であり、同州では近年、毎年のように異常な高温と乾燥による大規模な森林火災が発生し続けている。これらの森林火災の増加は、温暖化の進行によるものであることは、米国海洋大気庁の諮問委員会が2017年11月にまとめた「全米気候評価報告書」で結論づけており、科学者団体「憂慮する科学者同盟」も、「1980年代半ばから2000年代にかけて、ほぼ4倍の頻度で発生し、6倍以上の面積を焼失させている」と、森林火災がより深刻なものとなっていると指摘。アイリッシュさんの「All the good girls go to hell」のMVにも、近隣の住宅地ごと焼き尽くす森林火災のイメージが色濃く反映されている。

◯単なる「著名人」ではなく中身のある報道を

 史上最年少でのグラミー賞でのノミネートと同賞主要4部門の制覇、今年9月の来日など、今後、日本のメディアでもアイリッシュさんについての話題が増えるだろうが、その際は、単に著名な海外アーティストというだけではなく、是非とも彼女の温暖化についての危機感も取り上げるべきだ。それは、アイリッシュさんだけではなく、彼女を支持する各国の若者達が切実に感じているもの。台風や豪雨などの自然災害に襲われている日本の人々にとっても他人事ではないのだから。

(了)

*本記事は志葉玲公式ブログに投稿した記事に一部加筆、動画などを追加したもの https://www.reishiva.net/entry/2020/01/28/073755

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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