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豪雨、巨大台風、土砂崩れ―今年の災害が多すぎる原因は?今後さらに多発・深刻化する恐れも

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
台風21号による強風で横転した車。大阪府咲洲庁舎近くの駐車場(写真:アフロ)

 西日本豪雨災害、台風21号、そして先日の北海道での大地震とそれに伴う大規模な土砂災害…ここ数ヶ月、日本では立て続けに大きな災害が起きている。筆者としても、被災者の皆様には、心よりお見舞い申し上げたい。そして、災害被害を痛ましく思うからこそ、あえて言わなくてはならない。日本が直面する状況は、明らかに変わりつつある。今年夏の災害を分析すると、大雨や巨大台風、土砂災害といった災害は、今後さらに頻度を増し、その被害規模もより深刻なものとなっていく、ということが見えてくる。

○西日本豪雨災害と地球温暖化

 西日本豪雨災害、台風21号、北海道での土砂災害、これらの災害の要因、或いは被害を大きくしているものとして、共通するのが、「地球温暖化の影響」だ。まず西日本豪雨災害から見ていこう。「50年に1度の大雨」を基準に発表される大雨特別警報が、11府県に発令されるという、前例のない異常事態はなぜ起きたのか。気象庁に聞くと「直接的な原因は、高気圧に挟まれ、西日本上空で停滞した梅雨前線に、東シナ海や太平洋から膨大な水蒸気が供給され続けたため」とのこと。そして、このような現象の背景として、「地球温暖化に伴う気温の上昇と水蒸気量の増加」を気象庁は指摘している。

「気温が1℃上昇すると、水蒸気量が7%程度増加することが知られている。今回の豪雨にも地球温暖化の寄与があったと考えられる」

出典:気象庁 「平成30年7月豪雨」及び7月中旬以降の記録的な高温の特徴と要因について

 さらに、大雨を降らせ続けた西日本上空での梅雨前線の停滞も、温暖化による影響である疑いがある。当時、日本上空では、太平洋高気圧と、オホーツク海高気圧がそれぞれ、大きく張り出し、梅雨前線を挟み込むかたちで停滞させていた。これらの高気圧が張り出す要因となったのが、上空の寒帯ジェット気流と、亜熱帯ジェット気流の大きな蛇行である。このジェット気流の蛇行も、地球の赤道側と極側の温度差が小さくなることや、北極の海氷の減少による大気と海水の温度差によるなど、温暖化の影響で起きている現象として専門家達が論議しているものなのだ。

ジェット気流の蛇行による高気圧の張り出しが、梅雨前線を挟み停滞させた。気象庁の解説より。
ジェット気流の蛇行による高気圧の張り出しが、梅雨前線を挟み停滞させた。気象庁の解説より。

○海水温の上昇がより強大な台風をもたらす!

 関西を中心に日本各地に暴風や高潮による凄まじい被害をもたらした台風21号。ツイッターなどのSNSでは、「家が飛ぶ」「ビルの壁が崩壊する」など、各地の住民が撮影した生々しい映像が次々に投稿され、国内のみならず、海外のメディアも日本の台風被害を報じた。被害を大きくした原因は、台風21号が近年稀に見る勢力の強さであったこと、そしてその勢力の強さを維持したまま、日本に上陸したことがあげられる。そして、台風の強大化も温暖化が影響しているのである。

 気象庁気象研究所によると、「海面水温が高いほど大気中に含まれる水蒸気の量は多くなり、より多くの水蒸気が上空へ運ばれるため、台風の勢力はより強くなる」という。気象庁の観測データで見ると、今年8月下旬の平均海面水温は、太平洋の赤道付近の台風の発生場所となる海域で約30度と例年より1度高かった。専門家の間では、温暖化が進むと台風の発生数自体は減る一方、強い台風は増えると予測されてきたが、そうした予測通りになってきていると言える。

 恐ろしいのは、名古屋大学と気象研究所の研究では「このまま温暖化対策が取られずに海水温が2℃上昇した場合、今世紀中に地表付近での風速が67メートルを超えるスーパー台風が日本を直撃するようになる」と予測されていることだ。今回の台風21号は、日本上陸時で最大平均風速が45メートル、最大瞬間風速は60メートルだった。名古屋大と気象研究所の予測を先取りするようなものと言えよう。

○土砂災害が深刻化

 今月6日に北海道で発生した大地震では、特に厚真町で山自体が崩壊するような、大規模な土砂災害が起き、地震被害者の大多数がこの土砂災害によるものだ。こうした被害の直接の原因は地震であるが、今年6月と今年7月の大雨、同8月の台風20号、今月の21号と、継続的に例年の雨量を大きく上回る雨が降ったことが、被害をさらに大きくした。山自体が崩れるような、大規模な土砂崩れは、長期間の雨が続き、山が水分を大量に含む状態だと、起きやすくなるからだ。つまり、この間の異常気象と大きな地震のダブルパンチで被害がより深刻なものとなった、と見るべきだろう。

○温暖化対策が急務

 台風や地震などの災害自体を人間がなくすことは、言うまでもなく不可能だ。だが、災害の規模、被害を大きくしている要因である地球温暖化は人間の温室効果ガス排出によるもの、つまり、私達の努力で食い止めることができるものである。いよいよ、温暖化による気象災害が牙を剥き出しにしてきた中、人々の安全や生活を守るため、温暖化対策は、最優先で行われるものであろう。その上で、重要となってくるのが、日本のエネルギー政策だ。

 地球温暖化対策は、日本一国でできるものではなく、温室効果ガスの大量排出国である中国や米国、インドなどの協力が欠かせない。日本としてもこれらの国々に強く働きかけていくことが必要だ。だが、その日本自体が安倍政権の成長戦略の下、最大の温室効果ガスの排出源とされている石炭火力発電を国内外で推進している。石炭産出国で石炭火力に依存してきた中国も、脱石炭へと舵をきっている今、日本も脱石炭、自然エネルギー推進へと政策の変更が必要なのだ。

(了)

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平成30年7月豪雨緊急災害支援募金(Yahoo!基金)

https://donation.yahoo.co.jp/detail/1630036/

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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