約3億回再生のMVでトランプ政権に抵抗、20歳の米人気歌手カミラ・カベロ―音楽と政治は無関係ではない

米国の人気若手歌手カミラ・カベロ(写真:Shutterstock/アフロ)

 政治を語ることがタブー視されがちな日本の風潮を反映してか、日本の芸能人、特にメジャーなアイドルが政治的な発言をすることは、ほとんどない。他方、米国では、若手も含め人気アーティストらは自らの考えを表明することに積極的だ。移民や難民、イスラム教徒を排斥しようとするドナルド・トランプ大統領に対し、多くの米国のアーティストらが懸念を表明している。その中でも、象徴的な存在と言えるのが、若手人気シンガーソングライター、カミラ・カベロだ。主張がなく無難なものばかりな日本の音楽業界を「当たり前のこと」としている人々にも、カミラの立ち振る舞いに是非、注目してほしい。

〇トランプ政権に“抵抗”、カミラの明確な意思表示

 ガールズユニット「フィフス・ハーモニー」のメンバーであったカミラは、今年に入りソロ活動を開始。同8月にリリースしたシングル「ハバナ」は、イギリスなど世界各国でヒットチャート1位を総なめ、全米でも2位につけ1位獲得も目前であると、大ヒット中。先月末、米国で最も権威のある音楽チャート「ビルボード」が主催、女性アーティストを奨励する「ウィメン・イン・ミュージック2017」では、「Billboard’s breakthrough artist(最も活躍したアーティスト賞)」を受賞した。

 可憐なルックスも注目されるカミラだが「かわいいだけのアイドル」では決してなく、自身の信念を臆することなく発信している。中米キューバの出身であり、6歳の時に母親に連れられてメキシコから米国に渡ってきた移民であるカミラは、自身の出自を隠さず、むしろ誇りに思っていることを度々表明している。トランプ政権の移民や難民、イスラム教徒への弾圧を繰り返し批判し、デモにも参加。さらには、人気DJのゼッドが呼びかけた人権団体「アメリカ自由人権協会(ACLU)」への支援コンサートでも、その歌声を披露した

 ACLUとは、米国最大の人権団体で、今年1月にトランプ政権がイラクやシリアなどイスラム圏7ヵ国からの米国への入国を、ビザや永住権を持ち、米国内に家庭や職場のある人々まで禁止する大統領令を発令した際に、ACLUはこの大統領令の違法性を連邦裁判所に申し立て。強制送還を一時中止させる裁判所命令を勝ち取るなど、一貫してトランプ政権による人権侵害に抵抗、ノーベル平和賞の有力候補として推薦された団体なのだ。そのACLUを支援するコンサートで、カミラは「RESIST(抵抗)」と大きく書かれたTシャツを着て熱唱。その姿はデイリーメール紙などの各メディアで報じられた。

〇約3億回再生のMVに込められたメッセージ

 今年10月24日に公開され、現在までにYoutubeで3億回以上再生されている「ハバナ」のミュージックビデオにも、カミラのメッセージが込められている。その内容は、短編ドラマのような構成で、家でテレビばかり観ている引きこもりの女の子が、家族に促され外出、映画を観に行き、その帰りでイケメンに出会うというものだが、最後に「この動画をドリーマー達に捧げます」との、字幕メッセージが表示される。

 「ドリーマー」とは、オバマ政権での移民救済制度「DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)」に登録した若者達のこと。不法入国した親に連れられて子どもの頃に米国に来た若者達は、強制送還に怯え外出すらままならず、教育や就労の機会も限られていた。こうした若者達に対し、バラク・オバマ前米国大統領は、子どもの頃のことに罪はなく、米国しか知らない若者達を国外追放することは非人道的だという判断から、2012年にDACAによる保護を開始。米国に入国時に16歳未満であったことや制度導入時点で31歳未満であったこと、米国内で在学中か高校卒業資格を持っていること、重大な犯罪歴がないこと等を条件に、若者達はドリーマーとしてDACAに登録できる。ドリーマー達は、更新可能な在留許可と就労許可を与えられ、米国籍の若者達と同じように教育費の支援を受けることができるようになった。

 だが、トランプ大統領は今年9月、このDACAを撤廃する方針を発表。最悪の場合、全米に約80万人いるとされるドリーマー達が、強制送還される恐れも出てきた。トランプ大統領は今年10月、ドリーマー達の保護と引き換えに、メキシコ国境に壁を建設する予算を認めるよう要求。ドリーマー達に同情的な米民主党の反発を招き、今月8日を期限とする米国の国家予算(暫定)の編成にも大きな混乱をきたしている。

 「ハバナ」のミュージックビデオでのメッセージは、トランプ政権から、ドリーマー達を守ろうというカミラの明確な意思表示だろう。実際、米テレビネットワーク大手CNNは、そうした文脈で報じている(関連情報)。ミュージックビデオで訴えるだけではなく、カミラはシングル「ハバナ」の売り上げの全てを、ドリーマー達の権利を守る活動へ寄付すると出演したラジオ番組の中で表明した。

〇「音楽に政治を持ち込むな」という日本の風潮

 ひるがえって日本の音楽業界の状況を見ると、言論の自由がない独裁国家に近いのではとすら思える。2014年末の紅白歌合戦で、サザンオールスターズのボーカル・桑田佳祐はヒトラーを連想させるチョビ髭をつけて歌い、安倍晋三首相の強引な政治手法を皮肉ったが、その後、謝罪に追い込まれた。日本最大級の野外フェス「フジロックフェスティバル」の2016年の開催時に、安保法制に反対した学生グループ「SEALDs」のメンバーがゲストスピーカーとして参加した際も「音楽に政治を持ち込むな」という批判が殺到した。

 ブルースやロック、ポップス、ヒップホップ等の近現代の音楽において、社会問題や政治をテーマとし、表現者が自身の信念を語ることは当たり前のことなのだが、日本の音楽業界から主張が排除され、無難なものが一般化している中で、特に日本の若年層の音楽関係者達やリスナー達にとっては、上記のような「音楽を通じて信念を語ること」は、当たり前ではないのかもしれない。だからこそ、現在20歳のカミラのような、確固とした自身の信念を持ち、勇気をもって発信し続ける海外の若手アーティストに是非、注目していただければ、と願う。

(了)