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住宅地に直近・大気汚染懸念、神戸製鋼の石炭火力発電に異論続出―全国で43の新設計画、温暖化防止に逆行

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
神戸製鋼所。「神戸の石炭火力発電を考える会」提供

 大手電力各社や一部の新電力が積極的に導入、安倍政権も成長戦略の一つとしている石炭火力発電。現在国内で40基を超える新設計画があるが、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、PM2.5や水銀などの有毒物質も放出するなどの問題から、国内外から厳しい視線にさらされている。とりわけ、神戸製鋼が神戸市灘区に新設する予定の神戸製鉄所火力発電所(仮称)は、住宅地に非常に近くに建てられることになるため、周辺住民からは不安の声があがっている。

〇神戸製鋼の石炭火力発電に異論続出、PM2.5や水銀による汚染も

 兵庫県神戸市では、神戸製鋼が65万キロワット規模を2基、新設するとしている。だが、建設地は最寄りの住宅地からわずか400メートルという距離にあるため、今月20日に行われた神戸市主催の公聴会でも、住民から懸念の声が相次いだ。この公聴会で発言した、子どもが喘息を患っているという女性は「喘息は命にもかかわります。大気汚染の悪化が心配です。せめて、天然ガスを使った火力発電にしてくれたら、排出される汚染物質も大幅に減るのに…」と訴える。

 神戸製鋼側は「国内最高レベルの対策をする」と主張するが、環境NGOや公害被害者団体など8団体からなる「神戸の石炭火力発電を考える会」の見方は厳しい。「PM2.5について環境影響評価が行われず、環境保全措置も講じてられていない」「重金属物質の排出、とりわけ、水銀排出に関し、その排出総量を明らかにせず、その予測結果を過小に評価し、十分な環境保全措置を講じようとしていない」等の問題を指摘、神戸製鉄所火力発電所(仮称)に対する兵庫県や神戸市の厳正なる審査を求める要請書を提出している。水銀については、神戸製鋼のまとめた環境影響評価準備書によると、石炭を燃やして生じる水銀の約26.1%が大気中に放出されるという。年間では、170キロの水銀が放出されることになり、神戸製鉄所火力発電所(仮称)だけで、日本の水銀排出総量を1%増加させることになりそうだ。

神戸製鋼と住宅地は目と鼻の先。「神戸の石炭火力発電を考える会」提供
神戸製鋼と住宅地は目と鼻の先。「神戸の石炭火力発電を考える会」提供

 地球温暖化対策という点でも大きな問題がある。神戸市は、2030年の目標として、2013年比で34%の温室効果ガスの排出削減を掲げているが、神戸製鉄所火力発電所(仮称)が稼働し始めた場合、二酸化炭素(CO2)の年間排出量は700万トン。神戸市の年間総排出量は1200万トンだから、神戸製鋼の石炭火力発電所が稼働すると、それだけで、約58.3%も、CO2排出量が増加するということだ。

*神戸製鋼側は、売電先である関西電力がCO2排出削減の責任を負うとしているが、兵庫県知事は、神戸製鋼に対し、排出削減策を求めている。

石炭火力は他の火力発電に比べても、CO2を多く排出する。
石炭火力は他の火力発電に比べても、CO2を多く排出する。

 

 この、神戸製鉄所火力発電所(仮称)については、今月24日(当日消印有効)まで、神戸製鋼が市民からの意見書を募集しており、気候ネットワークなどの環境NGOが、意見書を送るよう、呼びかけている。

*意見書の用紙 http://www.kobelco.co.jp/assessment/kobe/files/opinion.pdf

〇脱石炭の国内外の流れ

米国の環境NGOによる石炭火力発電の問題を伝える動画

 現在、兵庫県神戸市以外でも、福島や秋田、千葉や広島など日本全国で43基の石炭火力発電所の建設が計画されている。欧州などに比べ日本では環境基準が緩く石炭が「割安」となっていることや、アジア向けの輸出のためプラントメーカーが新型の石炭火力の研究開発をすすめてきた等の経緯もあるのだが、日本の石炭火力発電への傾倒ぶりは、海外の環境NGOからは「クレイジー」と評されている(関連記事)。地球温暖化防止の国際的合意「パリ協定」以来、完全に潮目は変わった。新型の石炭火力発電でも、天然ガスによる火力発電に比べ、約2倍ものCO2を排出するため、完全に温暖化促進の悪役と見なされている。

 環境NGOによるネットワーク「グローバル石炭発電所トラッカー」のまとめた報告書(2017年版)によれば、これまで石炭火力発電に依存してきた中国やインドですら脱石炭に舵を切り、2010~2016年の間に中止された石炭火力発電の建設計画は中国で全体の55%、インドでは74%にも上る。他方、同報告書では「OECD諸国の中で唯一、脱石炭路線への方針転換をせず、多数の石炭火力発電所が計画されている」として日本は、韓国やインドネシアなど共に、中国やインド以上に要注意な国ととされているのだ。

 国内においても、環境省は石炭火力には否定的で、中川雅治・環境大臣は今月7日、毎日新聞などに「経済性の観点のみで(石炭火力の)新増設は認められない」と明言している。電力各社は、石炭火力への依存から比較的環境負荷の低い天然ガス火力や、太陽光や風力などの自然エネルギーにシフトしていくべきだろう。一般の消費者も、電力小売り自由化によって、選択の幅が広がった。石炭火力以外の電気を選び、使っていくという姿勢が大切なのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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