「地球温暖化のウソ」に日本人はいつまで騙され続けるのか?

パリで開催されていたCOP21の一幕。温暖化の影響はいよいよ顕在化している。(写真:ロイター/アフロ)

過去最多、196の国と地域が、今月13日までパリで行われていたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)に参加していたように、地球温暖化は全世界が一丸となって取り組むべき課題…のはずだが、日本ではCOP21会期中も、温暖化対策を求める政治的、社会的な動きは、お世辞にも盛り上がったとは言えない状況だった。そうした背景に「温暖化はウソ」という懐疑論が幅をきかせていることも少なからず影響しているのだろう。一部の学識経験者らも懐疑論を唱えているため、ネット検索では懐疑論の方が多く出る程だ。だが、懐疑論にはあからさまな間違いや科学的な知見の積み重ねを無視したものも少なくない。それにもかかわらず、何故、未だに日本では温暖化懐疑論がはびこっているのか。

◯懐疑論ブームをメディアが煽る

懐疑論が日本で流行するようになったのは、’07年頃、温暖化懐疑論を唱える本がバカ売れしたことが大きいだろう。売れる、となると出版社は一斉にそちらへ傾き、書店の環境本コーナーはアンチ環境本コーナーに変わってしまった。メディアの責任も重い。大手新聞やテレビ等も、温暖化懐疑論を紹介し、アンチ環境本がさらに売れるという悪循環をもたらした。だが、こうした「温暖化のウソ」という主張には、あからさまな間違いや、強引な解釈が少なくない。その最たるものが「コップの中の氷水」論だろう。懐疑論が流行るきっかけとなったアンチ環境本には、次のような主張が書かれている。

「北極の氷が溶けているから、海面上昇して大変だとか言われているけども、北極は大陸がなく、海水が凍っているだけ。コップに氷水をいれて氷が溶けても、コップから水があふれないように、温暖化で海水面が上昇しているというのは間違い」

さんさん吹聴されたこの主張は、決定的に間違っている。極地の氷、というのは、北極の氷だけを指すのではない。日本の5.7倍もの面積がある世界最大の島国グリーンランドを1000m以上の厚さで覆う氷床が溶け出していることが問題なのだ。氷水が入ったコップの氷が溶けても水はあふれないが、そのコップにさらに水をそそげば、当然、あふれる。つまり、そういうことだ。こうした非常に初歩的な知識もリテラシーもなく、学者の言うことだからと酷い間違いを取り上げた日本のメディア関係者には猛省するべきだろう。

◯「寒冷化している」「太陽活動の変化」「CO2ではなく水蒸気が原因」…よくある主張の問題

ほかにも懐疑論でよく言われる主張には、「温暖化は止まった。むしろ寒冷化している」「太陽活動の変化」「CO2ではなく水蒸気が原因」等がある。まず「温暖化の停止」「寒冷化」についてだが、1998年にエルニーニョ現象の影響で世界の年平均気温で最高値を記録して以来、その後数年間、それを大きく超える気温上昇が観測されなかったために、「温暖化は止まった」という主張がある。さらに、近年、北米各地が「スノーマゲドン(雪の最終戦争)」と呼ばれるほどの猛烈な寒波に襲われることが度々あったためか、「むしろ寒冷化している」という主張もよく見かける。しかし、最新の観測データを見ると、今年8月の世界平均気温の速報値は、1891年の統計開始以降、最も高い値となっているなど、明らかに気温上昇の傾向があり、年平均でも上昇傾向がある(関連図表)。こうしたトレンドについて国立環境研究所の江守正多・気候変動リスク評価研究室長は、「世界平均気温の上昇が著しい」「再び顕著な気温上昇期に突入」と評している(関連記事)。では、何故、大寒波が北米を襲っているのか。温暖化が進行すると、北極とそれより南側の地域との温度差が小さくなり、偏西風が弱まる。偏西風は北極の冷たい空気を遮断するカーテンのような役割を果たしているのだが、その勢いが弱くなると、グニャリと大きく蛇行することになる。その際、北極周辺の寒気が、より南側に進出してくるため、大寒波が起きる、と観られている。温暖化が進行すると、単に気温が上昇するだけではなく、極端な気象災害が頻発するのだ。

「太陽活動の変化によるもの」「CO2ではなく水蒸気が原因」という温暖化は人間の活動によるものではない、とする主張もよく聞かれる。曰く、太陽活動は一定の周期で強弱があり、20世紀後半から現在の気温上昇は、自然のサイクルだというものだ。だが、産業革命以降、地球の平均気温は0.85度上昇しているとされ(注)、そのうち太陽活動によるものは0.1度くらいだと観られている。つまり太陽活動の変化だけでは、現在の気温上昇を説明できないのだ。「(人間活動の出す)CO2の影響を過大評価し、もっとも多い温室効果ガスである水蒸気を無視したIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の温暖化モデルはおかしい」という主張も事実誤認。IPCCの分析には、水蒸気の影響も加味されている。

筆者がネット上で温暖化のことを書くと、すぐに「温暖化はウソ」等、コメントする人々がいるが、温暖化懐疑論については、東京大学や東北大学、国立環境研究所などで『地球温暖化懐疑論批判』がまとめられ、ネット上で無料公開されている(関連情報)。よくある懐疑論の主張に対し、科学的データに基づき、丁寧に反論しているので、まずは、この『地球温暖化懐疑論批判』をよく読んでもらいたい。

(注)直近の英気象庁の観測だと、2015年で「1度上昇」と推計される。

〇原発推進が温暖化懐疑論を助長

2011年の福島第一原発事故以降、特にネット上で流布された懐疑論が、「温暖化はウソ。原発推進派の陰謀」というものだ。これは、日本政府や電力会社が「CO2を排出しない原発を地球温暖化対策に」というキャンペーンを国内外で行ってきたことが関係している。こうしたキャンペーンに反発した、脱原発派の学者やジャーナリストの中からも温暖化懐疑論を唱える人々が出てきたということも大きい。だが、福島での原発事故後、多くの国々が脱原発へと舵を切っている。そもそも、建設から稼働まで莫大なコスト、長い年月がかかる原発では、温暖化対策として間に合わない。一方、自然エネルギーは、爆発的にその成長を続け、昨年だけでも世界全体で風力発電の発電容量は、5000万キロワットも増加、累積で原発の発電容量に並んだ。昨年は太陽光も4000万キロワット増加している関連情報)。省エネと自然エネルギーの推進という温暖化対策は、同時に脱原発のための道でもある。温暖化対策を訴える人々と脱原発を求める人々が争いあっても不毛なだけなのだ。

〇懐疑論こそ石油産業の陰謀

陰謀という観点からは、むしろ温暖化懐疑論の方が石油・石炭産業が自らの利益を守るために行った、一大キャンペーンだと言える。有名な事例で言えば、石油メジャーのエクソン・モービル社は、ブッシュ政権にロビイング攻勢をかけ、京都議定書に米国が加わらないよう働きかけた上、温暖化懐疑論の研究にも資金を提供してきた。これらの石油・石炭業界と温暖化懐疑論との関係を指摘しているのが、国際的な環境NGOのグリーンピースだ。同団体の調べで、著名な温暖化懐疑論者であり、米国の共和党にも色濃く影響を及ぼしたウィリー・スーン博士が、2000年以降の10年間以上にわたって、120万ドル以上の献金を石油・石炭業界から受け取っていたことが発覚。米ニューヨークタイムズや英ガーディアンなどのメディアが大きく報じている。スーン博士に献金していたのは、米国石油協会や世界的な石油関連ビジネスの大富豪であるコーク兄弟、石炭発電事業大手のサザンなど。これらの業界団体や大富豪、企業などは、「温暖化は太陽活動の変化によるもの。人間の石油・石炭の消費は関係ない」というスーン博士の研究報告を買い取っていたのだ。

〇「一人ひとりができること」ではダメ!

間違いなく、温暖化による急激な気候の擾乱は人類、いや地球の生物全体にとって、恐るべき脅威だ。このまま対策を怠れば、今世紀末には、地球の平均気温が4.8度上昇すると観られている。そうなると、地球生物の大半が絶滅の危機に脅かされたり、世界的な食糧危機が起きるたりするとIPCCは警告している。頻発する熱波や寒波、大洪水や干ばつ、スーパー台風など、大規模な気象災害が人類を襲うことになるのだ。さらに、温暖化による農業のダメージから、世界各地で人々が困窮、戦争や内乱の原因となる可能性も指摘されている。現在、混乱を極めているシリア内戦も2006年末から2010年の大干ばつで、農民が生活できなくなり、都市に流入、貧困化したということが、遠因ではないかという研究報告があるのだ関連情報)。

温暖化が中東動乱の一因に。エジプトにて筆者撮影。
温暖化が中東動乱の一因に。エジプトにて筆者撮影。

筆者が、エジプトで「中東の春」を取材した際も、デモに参加している人々が手にパンを持っていた。世界の穀物庫であるロシアやウクライナの干ばつで穀物の国際価格が高騰、貧困層が食べるにも困る状態になった、というわけである。こうしたリスクはカロリーベースの食物自給率が4割を切る日本にとっても他人事ではないのだが、日本での温暖化防止の取り組みは、一番根本的な部分で間違っている。よく政府広報などで啓蒙されるような「ひとりひとりの努力」だけでは、温室効果ガスを劇的に減らすことは難しい。今、最もやるべきことは、火力発電の見直し、とりわけ、石炭火力発電の規制だ。日本のCO2総排出量のうち、発電等のエネルギー転換部門は4割を超える関連図表)。また、石炭火力は、火力発電の中でも最もCO2排出係数が高く、天然ガス発電の約2倍のCO2を排出する。各個人の節電・節水なども大事だが、それ以上に、石炭火力を規制するよう、政府や電力会社に対し声をあげることが重要なのである。

温暖化対策はライフスタイルや産業の在り方の見直しが必要なだけに、「温暖化していない」という主張は一定の層には魅力的に映るのかもしれないが、最悪の結末を避けるため、現実を直視して対応すべきなのだろう。

(了)