戦場ジャーナリストが問う「武器輸出三原則」撤廃の行方-「死の商人」化する安倍政権

イスラエルによるガザ侵攻の犠牲者。武器輸出三原則撤廃は戦争被害を拡大させる恐れも

「本当に愚かなことです。日本は近代史の中で、最も犯罪的な兵器の被害(=原爆)から何も学ばなかったのでしょうか。日本こそ全ての国々に対し、兵器を売り拡散していくことを止めるよう、求めていく立場ではなかったのでしょうか?」

パレスチナ人ジャーナリスト マジッド・アブサラマ
パレスチナ人ジャーナリスト マジッド・アブサラマ

パレスチナ・ガザ地区在住のジャーナリストで、筆者の友人でもある、マジッド・アブサラマは、安倍政権が「武器輸出三原則」を撤廃すると聞き、驚きと憤りを隠せない様子だった。日本が他国へ武器・兵器及び関連技術の輸出することを原則禁止してきた「武器輸出三原則」。安倍政権は、この「武器輸出三原則」を廃し、新たに「防衛装備移転三原則」案を、早ければ本日1日にも閣議決定する見通しだ。それは、これまでの武器・兵器及び関連技術の輸出を「原則全面禁止」としてきた従来の立場と、全く真逆の方向に舵を切り、米国やイスラエルへの武器・兵器の輸出や技術協力を解禁し、これらの国々が今後も行うだろう戦争犯罪に、日本も積極的に加担するということを意味する。

マスコミ各紙の報道によれば、自民・公明のプロジェクトチームでまとめられた「防衛装備移転三原則」最終案には「紛争当事国や国連決議に違反する場合は輸出しない」「目的外使用や第三国への移転は適正管理が確保される場合に限る」などの条件も追加されたというが、全くあてにならないだろう。

日本企業も開発に参加するという米国の最新鋭戦闘機F-35
日本企業も開発に参加するという米国の最新鋭戦闘機F-35

もし、この文言通りに解釈するならば、安倍政権は、F-35戦闘機の製造・共同開発に日本企業を参加させるべきではない。F-35問題については別途詳しく書いた*ので、そちらもご参照いただきたいが、端的に言えば、米国が一元管理するF35戦闘機の共同開発に日本企業が参加することにより、「メイド・イン・ジャパン40%」の戦闘機が、米国からイスラエルへと売却されるかもしれないということだ。

*関連http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20130723-00026687/

○日本が兵器を売るということ、現地で起こりうること

この間、中東の戦争を取材してきた私から言わせれば、イスラエルは世界でも最も国連や国際人道法を軽視した紛争当事国の一つだろう。現代において、戦争だからと言って何をしても良い訳ではなく、守るべき「ルール」がある。例えば、非戦闘員である民間人を攻撃してはならない、とジュネーブ諸条約等には定められているのだ。だが、こうした「ルール」などないかのように振る舞うのがイスラエルだ。動画を観てもらえればわかるように、私の取材中にもレバノン首都ベイルートで停戦発効間際に高層住宅8棟が爆撃され、帰還してきた人々が死傷するなど、民間人の被害は相次いだ。

国連の避難所で攻撃を受け、片足を失った女性
国連の避難所で攻撃を受け、片足を失った女性

2008年末から2009年のガザ侵攻「鋳られた鉛」作戦も酷かった。ガザ中心部のシファ病院でインタビューした女性は「国連の避難所にいたところにイスラエル軍に空爆され、気がついたら自分の足がなくなっていた」という。国連事務所の倉庫も攻撃された。中には医薬品が保管されていたのだが、全部焼けてしまっていた。ガザ侵攻の時だけでなく、レバノン侵攻時にも国連施設は攻撃されているなど、イスラエル軍にとっては国連施設への攻撃すらタブーではないようだ。「鋳られた鉛」作戦では、ジュネーブ条約で禁止されている医療関係者への攻撃も行われた。救急車も爆撃され、破壊された。

イスラエルは2012年11月にも、ガザへ激しい空爆を行った。この時は、地元テレビ局「アル・クドゥス」の事務所が空爆され、7人が負傷、中には片足を失う大怪我をした者もいる。攻撃を受けたのは「アル・クドゥス」だけではない。やはり地元テレビ局である「アル・アクサ」の事務所も攻撃され、3人が負傷した。さらに、FOXやMBCなど国際メディアにも、イスラエル軍は退去を要求していた。「イスラエルは、自分たちがガザで何をやっているのか報じられるのを嫌い、ジャーナリストを攻撃したのでしょう」。負傷した現地カメラマンの一人、ムハンマド・ムーサさんはそう断言していた。

つまり、武器輸出三原則を廃し、米国と兵器の共同開発を行い、その兵器がイスラエルに渡るということは、これまでに述べてきた戦争犯罪を肯定し、加担するということに他ならない。前出のパレスチナ人ジャーナリストのマジッドは「それは私達パレスチナ人をとても混乱させるものです」と語る。「2ヶ月前、ガザとイスラエルの緩衝地帯でオリーブの木を植えるという平和的な抵抗運動をしていた若者達に対し、イスラエル軍が発砲し、私も脚を負傷しましたが、その時に使われた弾丸は、米国で製造されたものでした。それと同じことを、日本もするのでしょうか?イスラエルによるパレスチナ占領のため、日本産の兵器が使われるとしたら、日本のイメージは“人権と民主主義を重んじる国”として尊敬されるものではなくなるでしょう」(マジッド)。

○「死の商人」「独裁主義」ー問われているのは日本のあり方

「人間性よりお金を優先するのでしょうか?」というマジッドの問いは正しい。兵器の国際共同開発に参加し、軍事ビジネスで儲けたい経団連の意向が、武器輸出三原則の撤廃の背景にある。そもそも、米国は第二次世界大戦以後、常に紛争当事国であり続けたのであり、米国との兵器共同開発ということ自体、平和国家として、ナンセンスなのである。マジッドは「平和と正義のためにたたかって下さい。真実を述べて下さい」とも言う。武器輸出三原則は、1981年、「わが国は、日本国憲法の理念である平和国家としての立場をふまえ、武器輸出三原則並びに昭和五十一年政府統一方針に基づいて、武器輸出について慎重に対処してきた」と衆参両議院で国会の総意として決議されたものだ。安倍首相の一存で覆されるものではない。

武器輸出三原則をめぐる問題は、それ自体だけではなく、今の日本のあり方を根本から問うている。人々の命よりも、一部の企業や自らの利権を優先する「死の商人」ぶり。そして、憲法や国会を軽視し、まるで独裁国家のように安倍首相そのものが「法」だと言わんばかりの傲慢さ。今回の武器輸出三原則撤廃のみならず、集団的自衛権の行使や、原発再稼働・輸出などにおいても、安倍政権の異常さは際立っている。単に、安全保障政策やエネルギー政策の問題にとどまらず、日本の民主主義そのものを破壊しかねない。首相といえど憲法に従い、尊重する義務があるという大原則を理解しない安倍首相に、為政者たる資格はない。