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自民党議員やマスコミは山本太郎議員に説教できるのか?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

先月末31日に、山本太郎議員が、園遊会に出席した天皇へ、手紙を渡した件の余波が続いている。自民党の脇雅史参院幹事長が、自発的に辞職しない場合、議員辞職勧告決議案の提出もありうるとの考えを示すなど、一時は、山本議員に議員辞職を求める動きにまで発展しかけた(流石に大げさと悟ったか、その後、「皇室行事への参加禁止」で落ち着いたようだ)。山本議員が今月に予定していた静岡県での講演会も会場が使えず、中止となったらしい。マスメディアもそろって山本議員批判を連日繰り返しているが、いい加減しつこいのではないか、そこまで批判されないといけないことか、とも感じる。そもそも、天皇の政治利用と言えば、もっと批判されるべきことは、政府与党がやっているのである。

◯法的に問題がないのに「不敬」で騒ぐ異様な風潮

さて、騒動のおさらいもかねて整理してみると、山本議員の行動は、単に手続き上の問題、マナーの問題というところがせいぜいだ。山本議員は「天皇陛下に原発作業員の劣悪な労働環境を知ってもらいたかった」等と語っているが、これを「請願」と見なした場合、 請願法の第3条「天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない」に反するものだとも解釈できる。しかし、請願法は違反に罰則を設けておらず、山本議員の行動は、単に手続き上の問題であり、「違法行為」として刑事罰の対象になるものではない。それにもかかわらず、山本批判で騒ぎ続けている議員達、さらにはマスコミには、21世紀の現在、日本国憲法下の日本においても、天皇に対する「不敬罪」が存在するとでも勘違いしているのではないか、と呆れたくなる。日本国憲法において、国家の主権は国民にあり、天皇は「国民の象徴」にすぎない。「国民は天皇を敬え」などとは、どこにも書いてないのである。だが、マスコミは「陛下」「お言葉」など天皇や皇族に対しいちいち尊敬語を使っている。こうしたマスコミの姿勢が、あたかも現在も「不敬罪」が存在するかのような政治的・社会的風潮を招いているのだろう。マスコミ関係者の皆さんは、山本批判をする以前に、「法の下の平等」を明記している日本国憲法を読み直すべきではないだろうか。

◯「天皇の政治利用」「憲法違反」はどちらなのか?

山本議員の行動に対しては、特に自民党の議員から、「天皇を政治利用した」「憲法違反だ」という批判があった。だが、そうした批判はむしろ安倍政権に向けるべきだろう。とりわけ、今年4月28日、いわゆる「主権回復の日」式典に、天皇皇后を出席させたことは、極めて悪質な政治利用だ。「主権回復の日」とは、1952年4月28日にサンフランシスコ講和条約発効で「日本が主権を回復した」として、記念式典を政府主導で行う、とするもので、今年3月に安倍政権によって閣議決定された。しかし、サンフランシスコ講和条約発効後も沖縄や奄美大諸島などは、米国の占領下にあり、1952年4月28日を持って「主権回復」とするのは、沖縄などを日本から切り離すものだとして、現地では大規模な抗議集会が行われた。沖縄と天皇をめぐっては、かねてより「日本本土の国体護持のために沖縄を切り捨てた」とする議論がある。実際、米国国立公文書館からは、1947年9月、米国による沖縄の軍事占領に関して、シーボルト連合国最高司令官政治顧問に伝えられた昭和天皇の見解をまとめたメモが発見されているが、その内容は、正に「沖縄切り捨て」と言うべきもの。このメモによると、昭和天皇は「米国による琉球諸島の軍事占領の継続を望む」「米国による沖縄占領は日米双方に利し、共産主義勢力の影響を懸念する日本国民の賛同も得られる」との見解を示したとのこと。こうした歴史的経緯から観ても、安倍政権が「主権回復の日」を定めたこと、そこへ天皇皇后を出席させたことこそ、著しく悪質な「天皇の政治利用」だと批判されるべきものなのだ。

自民党の脇雅史参院幹事長は「憲法違反は明確だ。二度とこういう事が起こらないように本人が責任をとるべきだ」と発言したが、そもそも、自民党のセンセイ達は、どの口で「憲法違反」などとのたまうのだろうか。安倍政権のもと、強引に推し進められている集団的自衛権行使容認や、基本的人権の概念を否定する自民党の改憲草案、国民の知る権利を根こそぎ奪いかねない秘密保護法案など、自民党の政策こそが憲法違反だ。それは、天皇に手紙を渡すなんかよりも、比較にならない程、重大な国民への背信行為だろう。

◯失敗したパフォーマンス

ただ、志葉としても、山本議員の「原発作業員の劣悪な労働環境を何とかしたい」という気持ちには大いに賛同するものの、天皇に手紙を渡すという行為自体には、あまり意味のあることではなく、「失敗したパフォーマンス」だと評している。そもそも、日本は国民主権の代議制民主主義の国。憲法には『天皇は国政に関する権能を有しない』と定められている。政治に直接関わることができない上、その政治的・社会的な言動も慎重さが求められる天皇に訴えても、実際に効果が期待できるとは言えない。原発作業員の状況を知らせるためのパフォーマンスとしても、政界やマスコミでの議論は、「天皇に手紙を渡した」という点に集中しており、パフォーマンスとしては不発だった、と言わざるを得ないのではないか(今回の「直訴」で原発作業員の境遇に関心を持ったという人々がいないとは言わないし、そもそも「不敬」だと騒ぐ方が憲法や民主主義を理解していないのではあるが)。また、脱原発・脱被曝についても、別に山本議員以外に志のある議員が国会にいないというわけでは決してないのだが、あまりスタンドプレーが過ぎると、他の議員達から「あの人は何やらかすかわからない」と敬遠され協力を得られ難くなる、というリスクもある。やはり、協力できうる議員達と党派を越えて連携して法案を提出する、国会等で追及するなどの国会議員としての正統派な活動が求められているのではないだろうか。

◯原発作業員の状況に目を

「天皇への不敬か否か」的なものが、山本議員の行動をめぐる議論の中心になっているが、原発作業員の置かれている状況が酷いものであるし、また報われないものでもあることは、事実だ。凄まじい放射線量の中、下手すれば一ヶ月もしないうちに被曝限度量に達するのが福島第一原発の事故収束現場。限度量に達したら用済みと会社からも捨てられ、将来の健康影響も恐らくはケアされず、原発事故・子ども被災者支援法の支援対象にすらもならない。やはり原発作業員達の境遇、改善されるべきだとは、あらためて強調しておく。今回の騒動を機会に、福島第一原発の収束作業現場へ、もっと世間の目が向くことを、志葉としても切に願う。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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