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ナイキCMに「感動した」「日本人を差別主義者の悪者にしてる」賛否両論。実体験ストーリーの説明伝わらず

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
騒ぎになっているナイキのCM。筆者キャプチャ

 ナイキが11月28日に公開した動画について、インターネット(SNS)上で激しい論争が起きています。何が起きているのかを解説します。

3人のサッカー少女について取り上げたナイキCM

 論争の的となっているのは、ナイキのCM「動かしつづける。自分を。未来を。 The Future Isn’t Waiting. | Nike」です。

 3人のサッカー少女がスポーツを通じて学校や社会でのいじめ(差別)、自分のアイデンティティについての悩みから解放される様子が2分間の動画で表現されています。

CM内では黒人ハーフの少女が大坂なおみ選手のBLM支持の動画を見る場面も。筆者キャプチャ
CM内では黒人ハーフの少女が大坂なおみ選手のBLM支持の動画を見る場面も。筆者キャプチャ

 このCMに対して「いいCMだった」、「朝から泣かすなよ」、「次はナイキにするか」と評価する声が挙がる一方で、「不愉快」、「日本人の多くが差別をしてるかのような印象操作」、「NIKEは2度と買いません」と批判する声も挙がっています。

批判的なインフルエンサーに意見を引っ張られたか

 論争が起きる原因となっているのは、公式サイトやYouTubeには表記されている「アスリートのリアルな実体験に基づいたストーリー」という説明文が、Twitterで共有された投稿では説明されていない点がひとつ。

 もうひとつは、Twitterで動画が共有されてきた際に、引用リツイートにどのような内容が書き込まれていたかも大きそうです。

 というのも公開から11月29日までは称賛コメントが多かったものの、11月30日からは批判コメントの方が多くなっているからです。CMに批判的なインフルエンサーに意見が引っ張られた可能性が高いと筆者は見ています。

公開当初はポジティブコメントが多かったものの、11月29日20時ごろを境にネガティブコメントが多くなった。Yahooリアルタイム検索より筆者作成
公開当初はポジティブコメントが多かったものの、11月29日20時ごろを境にネガティブコメントが多くなった。Yahooリアルタイム検索より筆者作成

過去の人種差別批判広告で大成功のナイキ

 ちなみにナイキがこのような人種差別を批判する広告を打ち出すのは日本が初めてではありません。

 ナイキは2018年9月の「Just Do It」30周年を祝うキャンペーンで、NFL(アメリカンフットボールリーグ)で人種差別への抗議のために国歌斉唱時の起立を拒否したコリン・キャパニック選手を広告「Dream Crazy」に起用しました。

 キャパニック選手は2016年の人種差別抗議の結果、NFLから事実上追放されていましたが、そのNFLが始まる直前にナイキが同選手を起用した広告をぶつけてきたことからトランプ大統領などアメリカの保守層を中心に大炎上。

トランプ氏は「テレビ視聴率が下がったNFLと同じように、ナイキは間違いなく、怒りと購買拒否によって殺される。ナイキはそうなると思ってやっているのか」と訴えた。

出典:トランプ氏「ナイキは殺される」元NFL選手広告に怒り:朝日新聞デジタル

 しかし、ナイキは結果として広告を支持するユーザーによりオンラインで驚異的な売り上げを記録したとのことです。

結果として同広告は、24時間で4300万ドル(約47億5000万円)相当のメディア露出価値という驚くべきエンゲージメントを生み出し、直後のオンラインで驚異的な売り上げを記録。そして、同社史上最高値の株価となる86.06ドル(約9638円)を更新するなど、18年6〜8月期決算で売上高が前年同期比10%増の99億5000万ドル(約1兆1144億円)という成長を支える要因となっていた

出典:ナイキのコリン・キャパニックを起用した“炎上”広告が、広告誌の最優秀賞を受賞 | WWDJAPAN.com

しかし、NIKEを支持するユーザーが次々と現れ、商品はオンラインで驚異的な売り上げを記録し、株価は反転上昇し、同社史上最高値の80・06ドルを更新したのである。

出典:NIKEの「パーパス」から”今”を観る | カンヌライオンズ日本公式サイト

批判の前に事実は事実として受け止めるべき

 今回のナイキのCMがただの炎上でおわるのか、それとも成功した炎上広告でおわるのかは後日にならないとわかりません。

 ただ、このCMで描かれているストーリーが「リアルな実体験に基づいたストーリー」であることは受け止めなければいけません。

 「自分の知る範囲は起きていない」とナイキを批判したところで、いまも日本のどこかで起きている人種差別、国籍差別はなくならないからです。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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