Yahoo!ニュース

障害者殺傷・植松死刑囚に「私の子も殺すのですか?」と迫ったドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』

篠田博之月刊『創』編集長
『リリアンの揺りかご』神戸さん(右)と息子 C:RKB毎日(以下同)

 RKB毎日放送の神戸金史さんはジャーナリストであるとともに、障害を持つ息子の父親でもある。相模原障害者殺傷事件については、様々な集会で講師も務めてきた。

 その神戸さんの作ったドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』が、TBSドキュメンタリー映画祭で上映される。その中では相模原事件だけでなく、ヘイトスピーチや、昨年9月1日の関東大震災100年をめぐる混乱など、「不寛容」をキーワードに現代社会の問題が神戸さんの視点で描かれていく。神戸さんの息子も冒頭に登場する。

 映画化に際して昨年東京に取材に訪れた際には月刊『創』(つくる)編集部も訪れて同誌掲載の植松聖死刑囚のマンガも撮影し、映画の最後の方に私がそれについて説明している映像も登場する。

 TBSドキュメンタリー映画祭は3月15日(金)から全国6都市で開催されているが、『リリアンの揺りかご』は3月29日(金)~4月11日(木)に福岡のキノシネマ天神で開催される福岡会場のみでの上映だ(ネットでの有料配信も検討中)。

 神戸さんとは、相模原事件後、福祉関係者などの集会で一緒にパネリストを務めたり、いろいろな場で顔をあわせてきた。福岡での上映には東京などからもわざわざ観に行くという人も少なくない。今回、神戸さんにこの映画をめぐる経緯についてインタビューした。またTBSドキュメンタリー映画祭については、プロデューサーである大久保竜さんにも話を聞いた。

『リリアンの揺りかご』発端はSNSだった

――映画『リリアンの揺りかご』制作をめぐる経緯を教えてもらえますか。

神戸 やまゆり園の事件が2016年7月26日に起きて、3日後に私は障害を持つ息子のことをフェイスブックに書きました。その個人的な投稿が波紋を広げて、新聞やテレビが取り上げ、10月に『障害を持つ息子へ』という本を出版しました。その投稿をミュージシャンのパギやん(趙博さん)が歌にしてくれたんですね。それを地上波で流せないかなと思い、当時私は東京に単身赴任していたのでTBSラジオの鳥山穣くんに話しました。そしたら鳥山くんから「1時間のドキュメンタリーにしませんか」と言われたんです。そこで、そうするなら植松聖に会わざるを得ないと思って急遽会うことになり、それを含めてラジオ番組が作られたのです。2017年12月に放送した『SCRATCH 線を引く人たち』でした。

 障害を持つ子どもの父親である私が、やまゆり園の事件についてどう考えたかというセルフドキュメンタリーでしたが、そこにヘイトスピーチの問題は入れようと思ったので、その取材にも行き、番組にも使っています。また杉田水脈の「生産性がない」という発言や、はすみとしこの『そうだ難民しよう!』というイラストの問題も取り上げています。

 やっぱり植松本人に会わなきゃいけないんじゃないかと思ったのは、番組を作っている途中でした。2017年10月に、TBS社会部の西村匡史記者が植松に面会して『報道特集』で放送したのを観て、彼に相談しながら植松に手紙を書いたら、会うという返事が来たのです。

 手紙の内容を見て、最初は会っても意味がないんじゃないかとも思ったんですが、結局、12月12日に面会しました。放送予定が12月末だったので、12月16日には番組ができてないといけないというタイトなスケジュールだったんですが、覚悟を決めて面会に行き、それを含めて4日間で仕上げました。大変な作業でした。

植松死刑囚との接見(映画『リリアンの揺りかご』より)
植松死刑囚との接見(映画『リリアンの揺りかご』より)

 植松と1回会っただけでは、なんでそんなことまでしたんだろうというのはよくわからなくて、「これからも会いに来ていいですか」という話をして、その後も取材を続けました。そして結局6回会って、2019年に『SCRATCH 差別と平成』というリメイク番組を作りました。

 鳥山くんは音声メディアのプロですから、最高の技術を使って編集してくれて、この番組はたくさんの賞を受賞しました。放送文化基金賞の最優秀賞、日本民間放送連盟賞と文化庁芸術祭賞の優秀賞、早稲田ジャーナリズム大賞の奨励賞、それからABU(アジア・太平洋放送連合)賞の審査員特別賞です。特に放送文化基金賞の最優秀賞はTBSラジオとしても初の受賞となり感謝されました。

 そういう評価をいただいたこともあって、映像化したいという提案もRKB毎日放送で受け入れられ、ドキュメンタリー番組を作ることになりました。ただラジオ番組をもとにテレビの番組を作るとなると、全く違う構成を考えなければいけないと思いました。それで1916年公開の映画『イントレランス』の手法を使って、映像化してみようかなと思って作ったのが、2020年放送の『イントレランスの時代』です。

TBSドキュメンタリー映画祭の話が昨年夏に

神戸 「イントレランス」は不寛容という意味ですが、元々の映画『イントレランス』は、揺りかごのシーンを挟んで4つの時代を行ったり来たりするという、映画草創期の画期的な作品でした。不寛容という同一テーマだけれど、時代が全く違う物語が同時並行していく。時代が飛ぶときに揺りかごが出てくるという映画でした。

 僕は学生時代にその映画を観てとても印象に残っていたので、時代を現代日本にして、いろいろな場所やテーマへ揺りかごを挟んで飛んでいくというやり方ができるんじゃないかと、10年ぐらい前に考えたんです。2014年に福岡の中心部、天神でヘイトスピーチが行われたので、それを撮影し、『イントレランス』の手法を使った番組の企画書を作りました。

『イントレランスの時代』は、RKB毎日放送から福岡ローカルで、少しずつリメイクしたりしながら3回ほど放送しました。そしてJNNネットワーク協議会賞のネットワーク大賞をいただいたんです。年間のドキュメンタリーの最高賞で、これを取ると、TBSも含めて系列の全局が放送してくれます。だから日本中で流れたんですね。1時間枠のうち正味57分のドキュメンタリーでした。

――それが次に映画になるわけですね。

神戸 コロナ禍の中で僕は福岡に戻ることになって、もうこの後はないなと思ってたんです。植松自身も死刑判決が確定して会えなくなりましたしね。ただ、そのドキュメンタリーで問題にしたヘイトスピーチとか不寛容な状況はその後もひどい形で続いてるなとも思っていました。

 そうするうちに、昨年8月、2024年3月開催のTBSドキュメンタリー映画祭に、RKB毎日放送から何か出品できないかという話になったのです。2023年は関東大震災100年だし、前の『イントレランスの時代』では震災96年の様子を取り上げていたものですから、きっちりそこまでやった方がいいかなと思いました。それで去年、関東大震災のあった9月1日前後に東京に2回行って取材をし、今回の80分の映画を作ったのです。9月1日に関東大震災追悼碑前で起きた混乱の映像はその時に撮影したものです。テレビの時は57分でしたが、そのうち50分ぶんぐらいは生かし、あと30分追加して映画を仕上げました。

編集部で植松死刑囚の漫画について説明する筆者(映画『リリアンの揺りかご』より)
編集部で植松死刑囚の漫画について説明する筆者(映画『リリアンの揺りかご』より)

植松聖死刑囚が『創』に寄稿したマンガ(『リリアンの揺りかご』より)
植松聖死刑囚が『創』に寄稿したマンガ(『リリアンの揺りかご』より)

最初のきっかけになった『うちの子』

――最初はラジオ番組だったにもかかわらずカメラを回していたというのは、神戸さんのテレビマンたるゆえんですね。

神戸 最初のラジオ番組はTBSラジオとRKB毎日放送の共同制作なんですが、共同制作といっても動いているのは私と鳥山くんの2人だけでした。植松には、私と鳥山くんが面会に行って、面会室で録音はできませんけれども、終わった後に、拘置所前で鳥山くんが私にインタビューをするんです。そして、その様子を、外で待機していたテレビのカメラが撮っていました。系列局・RCC中国放送の東京支社にいた記者に撮っておいてもらったのです。

 面会についても、その後は毎回、ゲストを連れて行って、最後の5分間はゲストの方に質問してもらうという形にしました。障害者福祉の専門家、ホームレス支援で知られる奥田知志牧師など、いろんな人に会ってもらって、終わった後にどう感じたかをカメラを回しながらインタビューしたんです。ラジオ番組でも映像素材の音が結構使われています。もしかしたらテレビ化がありうるかもしれないということで映像も撮っておいたのです。

――今後、映画として全国公開の可能性もあるわけですね。

神戸 そのあたりは事業を担当する部署の判断なので何とも言えないのですが、RKB毎日放送としては、昨年のTBSドキュメンタリー映画祭に出品した鮎川誠さんの『シーナ&ロケッツ』を、TBSと一緒になって、全国で劇場公開しました。今回のTBSドキュメンタリー映画祭では、私の作品ともう1本、大村由紀子ディレクターが作った『魚鱗癬と生きる』という作品も上映されます。

――最初のラジオ番組からこれまで何年も経て、その間、息子さんも成長しているわけですよね。

神戸 そうですね。今回の映画では25歳の最新の長男の姿を出してますけど、やまゆり園事件当時は17歳でした。

 私はもともと毎日新聞記者で、RKB毎日放送に転職した2005年に最初に作ったのが、「うちの子」という毎日新聞の連載を映像化したものでした。同じ『うちの子』というタイトルで1時間のドキュメンタリーを作って、これがネットワーク大賞を受賞したんです。その事実上の続編になるのが、テレビの『イントレランスの時代』。こちらもネットワーク大賞だったので、障害のある長男とともに歩むという形で作った2本ともTBS系の日本一だったということで、感慨深いですね。今回の映画『リリアンの揺りかご』は、『うちの子』からの総まとめという感じです。(一部敬称略)

2月に開催された「TBSドキュメンタリー映画祭2024」の会見イベント(主催者提供8)
2月に開催された「TBSドキュメンタリー映画祭2024」の会見イベント(主催者提供8)

4年目を迎え定着しつつあるTBSドキュメンタリー映画祭

 この3月、TBSドキュメンタリー映画祭が全国で開催され、約15本の映画が上映される。映画祭のプロデューサーを務めるTBSテレビの大久保竜報道局局次長・報道コンテンツ戦略室長に話を聞いた。

――TBSドキュメンタリー映画祭が開催されるようになった経緯をお話いただけますか。

大久保 2020年にTBS製作の『三島由紀夫vs東大全共闘』というドキュメンタリー映画を劇場公開したのですが、興行収入2億円と、ドキュメンタリーとしては異例のヒットになったのですね。それを機に4年前に報道局の中に部署を作って、手探りで始めました。最初はアーカイブの番組を観てもらおうというイメージだったのですが、報道現場から、以前取材したものに追加取材をやれば新しいものができるのじゃないかという声があがって、今の形になりました。

 映画祭も最初は東京だけで開催したのですが、今は名古屋、京都、大阪、福岡、札幌と6都市になって、TBSグループだけで10本、それから各地方限定上映ですけれども、系列局制作のものを5本ぐらいということで、トータルで約15本のドキュメンタリーを上映するという形になっています。

 TBSは、日曜深夜に『ドキュメンタリー「解放区」』という60分の番組枠があるのですが、そこで45分サイズのドキュメンタリーを放送して、反響のあったものを、年度末の3月に、ドキュメンタリー映画祭で今度は70分ぐらいのサイズにして上映するわけです。映画会社の人が観に来てくれてますので、そこから何本かを今度は単独興行という形で、90分とか100分サイズの拡大版として劇場公開するという、そういう流れになっています。単独興行は、TBSが製作幹事となって系列局との共同製作という形ですが、劇場のほかに配信プラットホームも含めて公開されます。

 去年の映画祭ですと、HBC北海道放送の『ヤジと民主主義』、RKB毎日放送の『シーナ&ロケッツ』、またこの4月から『94歳のゲイ』という作品も劇場公開されます。去年の映画祭からは3本が単独興行作品になったわけですね。『シーナ&ロケッツ』は公開直前に映画の主人公であるギタリストの鮎川誠さんがお亡くなりになって、楽しく明るく盛り上げるつもりだったのが、追悼上映のような形になってしまいました。

 映画祭で評判が良いとすぐに全国で上映できるかというとそうではありません。地方の系列局で話題になったからといって東京でもそうなるとは限らないのですね。例えば今年の映画祭でいうと、『映画 情熱大陸 土井善晴』などは映画館側の期待値も高いので、これはMBS毎日放送の製作ですが、東京と京都と大阪の3都市で上映されます。去年のRKB毎日放送の『シーナ&ロケッツ』は鮎川さんが九州出身なので福岡限定上映のつもりだったんですけど、映画館側の反応が良くて、東京でも上映しました。映画館、ミニシアターの方々も昨年あたりから認知してくれるようになり、今回は4回目なので、かなり浸透はしてきていますね。

――地方の系列局にしてみれば、自分たちの作った番組が全国公開されるかもしれないというので励みになりますよね。

大久保 そうですね。自分たちが取材したものがそういう形で発信できるということや、記録映画として作品として残せるのは大きな励みだと思います。

――『三島由紀夫vs東大全共闘』が興収2億円のヒットという話がありましたが、今ドキュメンタリー映画はどのくらい興収が見込める状況なのでしょうか。

大久保 当たったと言われる作品でも大体1億円前後ではないでしょうか。コロナ禍を経てその金額は2~3割下がった印象があります。今70代の、学生運動を経験した団塊の世代が一時期、ミニシアターでドキュメンタリー映画をよく観ると言われましたが、その世代が高齢化して映画館に足を運ぶ回数が減りました。配信で観る人も増えているので、劇場での興収は全体としてコロナ後下がった気がします。ただ映画の製作本数は明らかに増えています。劇場で1日に上映される作品数が多くなっているし、ドキュメンタリー作品もかつてのような社会派的なものだけでなくアイドルものとかアーティストものとか、幅が広がっています。

――東海テレビのようにドキュメンタリー映画で知られている局もありますが、TBSグループの場合は、系列全体として取り組んでいるのが特徴ですね。

大久保 ドキュメンタリー自体が日本ではまだそれほどメジャーではないので、コラボできることがあったらコラボしていこうということです。TBSの場合も映画部というのは別にあって、そこでは『TOKYO MER』とか『ラーゲリより愛を込めて』といった作品を作っているわけですが、私たちは報道局です。以前は一緒にやっていたこともありましたが、今は全く別の部署です。

 私たちは「ブランド興行」と言っているのですが、ドキュメンタリー映画でものすごく儲けようと考える人はおらず、収支を取れるサイズ感でやろうと考えています。ブランドとして取り組み、作品を記録映画として残していくということでブランド興行をしていこうという考え方ですね。

https://www.tbs.co.jp/tv/20240317_3A94.html

TBS『ドキュメンタリー「解放区」』『リリアンの揺りかご』

https://note.com/tbs_docs/n/nd416e85adc38

『TBSドキュメンタリー映画祭2024』上映作品

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

篠田博之の最近の記事