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「ジャニーズ性加害問題当事者の会」メンバーらが性暴力時効撤廃めざした「フォーラム」結成へ

篠田博之月刊『創』編集長
9月29日に集まった「当事者の会」、この他二本樹さんがオンライン参加(筆撮影)

性暴力時効撤廃めざす新たな運動を提案

 2023年9月29日夜、都内の弁護士事務所で「ジャニーズ性加害問題当事者の会」メンバーらが性暴力時効撤廃めざして、これまで性暴力やジェンダーなどに関わってきた人たちを集め、新たな運動を起こすことを提案し話し合った。会の名称は「性暴力時効撤廃フォーラム」とする予定だ。

 これまで「当事者の会」は、ジャニーズ性加害問題でいろいろな提案を行い、記者会見を開いてきたが、今後は、基本的に会見は行わないという。最大の理由はセキュリティの問題で、このところ同会メンバーなど性加害告発を行った被害者への攻撃がエスカレートしているためだという。

 ただいろいろな提言や活動は行っていく予定で、29日の会合もそのひとつだ。会合と言っても、「当事者の会」代表の平本淳也さんが知り合いに呼び掛けたゆるい集まりで、いわば準備会のような会合だ。報道関係者が何人か入っていたので報道される前提ではあるが、はっきりとした形が決まったわけではないし、いずれ対外的なイベントを開く方向なので、その時点で記事にすればよいかと思ったが、その日の夜遅く、TBSの「NEWS23」が報道したので、ここでも書いておこう。

 TBSがなぜそんなにすぐに報道したかといえば、29日夜の放送で元「Kis-My-Ft2」(キスマイ)の飯田恭平さんのインタビューを特集していたからではないだろうか。平本さんに聞いたら、飯田さんが当日参加することは事前に誰にも言ってなかったそうだが、TBSの「NEWS23」では飯田さんのインタビュー特集の流れでその会での発言シーンを使おうと考えたのではないだろうか。終了後、メンバーはいくつかのメディアの取材に応じ、東スポWEBなどでも報じられている。

#MeTooの動きの中で新たな展開

 ジャニーズ事務所は10月2日に会見を開いて、社名変更や組織上の変更など今後の対応について発表する予定だから、当然、「当事者の会」としてもそれに対応した提言は行っていくのだろうが、それと同時に「時効撤廃」運動を始めるというのは、あらたな展開といってよい。

 大きなきっかけは、同会にこの間、寄せられたメッセージのうち半数以上が女性から性被害を訴えたものだったことのようだ。今回のジャニーズ性加害問題でも指摘されているように小さな頃に受けた性被害について訴えようとしても時効の壁に阻まれる。今回についてはジャニーズ事務所は時効を超えて補償を行うと言明しているが、性暴力全体を考えると、この時効の壁は大きな問題だと平本さんは感じたらしい。

29日の会合。TBSのカメラとオンライン参加者の映像も(筆者撮影)
29日の会合。TBSのカメラとオンライン参加者の映像も(筆者撮影)

 確かに今回のジャニーズ性加害告発の動き自体、世界的な#MeTooの動きの中でBBCが取り上げたもので、その後、『週刊文春』のキャンペーンもあって、被害者が次々と声をあげて大きくなった。男性・女性の違いはあっても、以前から日本でも広がっていた#MeTooの動きそのものだといえよう。

 当然その反響は女性の性被害者にも広がっており、ジャニーズ事務所の性加害に限定せず、この問題を考えていこうという動きはいろいろなところで広がっている。私の所属する日本ペンクラブでも、この間、性暴力の問題で連続シンポを開催してきた女性作家を中心に、ジャニーズ性加害問題についても議論していこうという提案がなされている。

 いわばジャニーズ性加害問題は、もうひとつ次のステップへ移ろうとしているのかもしれない。

 その意味で、29日の会合は大きな意味を持っているのだが、たぶんそのあたりは「当事者の会」メンバーの間でも受け止め方は様々だろう。もともと「当事者の会」は被害者個人の集まりで、会見などでも一人ひとり発言をすると違った意見もかなりあった。いわば、被害者が声をあげる場を提供しているのが「当事者の会」というのが実態に近いのかもしれない。

ジャニーズ性加害問題は次のステップに!?

 それとその29日の会合でもいろいろな意見が出ていたが、もともと性暴力をめぐる法改正については、多くのフェミニズムグループの長年の努力によって刑法改正などが一歩一歩進められてきた歴史がある。それに関わってきた人たちとどういう協力関係をとっていくかもまだこれからだ。たまたま今はジャニーズ問題が大きな社会問題となり、「当事者の会」の発信力が拡大しているゆえに、それを活用してという考えが生じたのだろうが、その意味では10月2日の事務所会見で発表される方針など今後のジャニーズ問題の推移にかかっている面も少なくない。

 とりあえず、29日の会合には、オンラインも含めて「当事者の会」からは主だったメンバー6人が参加(そのうち二本樹理さんは海外からオンライン参加)。その中に最近話題の元「キスマイ」飯田さんも入っていたため、メディアの取材も入ったということのようだ。

 前述したように「当事者の会」も会見をしばらく開かないという方針のようだし、例えば平本代表と二人三脚だった副代表の石丸志門さんも、かなりストレスを蓄積してその日の会合は欠席だった。春以降、大車輪の活躍で性加害問題を大きな社会問題化したこの会も、攻撃のエスカレートという事情なども含めて新たなステップに移る時期なのかもしれない。

 ジャニーズ性加害問題は、おそらく10月2日の事務所側の会見を受けて全体として新たなステージに移ろうとしているといえよう。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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