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三浦春馬さんが亡くなってこの7月で1年。死を悼む女性たちの動きはいま…

篠田博之月刊『創』編集長
三浦春馬さん「Two Weeks」のイメージ(c:海扉アラジン)

 最初に投稿をひとつ紹介しよう。6月7日発売の月刊『創』(つくる)7月号の読者欄に掲載したものだ。この記事に添付した切り絵は、その7月号の表紙を飾った海扉(カイト)アラジンさんの三浦春馬さん「Two Weeks」のイメージを表現したものだ。

■春馬君の生地を訪ねて

 先日、春馬君のサーフィンをした海、テトラポッド、お食事処に行きました。同じ様に座り、海を眺め、春馬君のサーフィンをする姿を思い浮かべました。海辺に立ち、砂浜に大きく「三浦春馬」と書きました。涙がとめどなく流れ、春馬君の愛した茨城の海を両手いっぱいに感じ、「有り難う!!」の言葉。本当に貴男は素晴らしい人…日本一の表現者です。

 その後鉾田市から土浦市へ移動。春馬君の産まれた地…土浦。卒業した小学校・中学校…友達と遊び、学び、色々な思い出の詰まった校舎の前に立ち、胸がいっぱいに。7歳から芸能界でお仕事をしてたのですよネ。子供としてスクスク育ちながらも、周りの大人たちに囲まれプロの演技を求められ頑張ってきた。今、春馬君の残した子供時代の作品を見ても自然な姿に惹きつけられる日々です。

 八坂神社に立ち寄り絵馬の奉納、土浦セントラルシネマさんに寄り、春馬君への想いのメッセージでいっぱいの桜の木を見ました。私が出した分も貼ってあり、嬉しかったです。全国の人の想いは溢れてます。「死を越えて生きる人 三浦春馬」日本人の心を取り戻すお手本の人です。会いたい、会いたいです!!

『創』に毎月のように投稿してくれている菅恵子さん(67歳)が書いたものだ。7月号も常設の読者のページのほかに特集ページも使って、こうした女性たちの声を紹介している。

 大切な人の死に衝撃を受け、その喪失感からの回復を求める動きをグリーフワークというが、「春友さん」と呼ばれる女性たちはただ泣いているだけでなく、この1年近く、様々な社会的行動を続け、しかもそれらが互いに連携する社会的動きになりつつある。

 春友さんたちのコミュニティがSNSを媒介にしてあちこちに生まれ、それらがまた交流し連携を強めているように見える。

クロスワードパズルにファンたちが反応

次に4月に刊行された『三浦春馬 死を超えて生きる人』(創出版)に「『天外者』と三浦春馬さんのクロスワードパズル」を載せた脇屋恵子さんからのメールを一部紹介する。

《本日はご報告があり、ペンを執りました。私が葵麻呂のハンドルネームでチャンネル登録し、視聴している「堀内圭三音楽事務所」というYouTube番組があるのですが、5月9日、その番組のlive配信中に、私のクロスワードパズルが紹介されました。その番組の視聴者(私含む)のみなさまはほぼ、三浦春馬さんのファンなので、『創』を毎月購入している方、そして『三浦春馬 死を超えて生きる人』もお手持ちの方が多かったようです。 チャンネル配信者の堀内圭三さんが『三浦春馬 死を超えて生きる人』に手を添えて「ここに載っているクロスワードパズルは葵麻呂(さん)が作りました」と紹介すると、チャットのコメント欄は一時、えっ、葵麻呂(さん)が!?とびっくりされた方々のコメントが続きました。

 チャットのコメント欄には

・既にパズルを解いていて大泣きした

・最後の答えに涙腺崩壊した

・本に書き込むのは勿体ないのでコピーして解いた

・別冊は持っているがまだ解いていないのでこれから挑戦する

・読むと泣いてしまうのでなかなかページが進まない

・別冊をまだ買っていなかった(別冊のことを知らなかった)のですぐに注文する

・ネットで注文しようとしたが売り切れだった

・明日書店に買いに行く

・すごいすごいetc.

 さまざまな嬉しい反響がありました。

 パズルで号泣しました、とのコメントを見て、私も思わず涙がこぼれました。

 YouTube番組「堀内圭三音楽事務所」を配信している堀内圭三さんは京都在住のシンガーソングライターです。番組自体は以前からあったようですが、『天外者』を観て三浦春馬さんの魅力に心を奪われた堀内さんがご自身の歌や近況の他に、『天外者』の話題を中心とした三浦春馬さんのことを配信するようになりました。

 堀内さんは春馬さんの演技、人柄を知れば知るほどに感銘を受け、誕生日に捧げる『4月5日』を作詞作曲なさいました。語り口調も、強い意志が感じられながらも癒し系で、ファンに寄り添う堀内さんの周りには心優しい春馬さんファンが集まるようになりました。》

「春馬ロス」女性たちのグリーフワーク

 春友さんたちは主にSNSで発信しており、ツイッターで三浦春馬と検索するとたくさんのツイートがヒットする。そうした人たちは少しずつ交流を拡大しており、いろいろなコミュニティが生まれつつある。『創』本誌に連載している空羽ファティマさんのインスタグラムにもいまや多くの春友さんが集まっており、ある種のコミュニティができている。

 そうした人たちは情報を共有しながら、様々な取り組みを行い、例えば20年前の三浦春馬さん出演の映画『森の学校』を各地で再上映させるなど、その行動は社会性を持ちつつある。

 今年の7月18日を前にして、そうした「春友さん」たちの動きも活発になっている。三浦春馬さんを偲ぶ取り組みを様々なところに働きかける人たちもいる。

 7月18日をめざして各地で様々なイベントを企画している人もいるようだ。以前から熱望されている三浦さんの事務所アミューズ主催の「偲ぶ会」もその前後に開催される可能性が指摘されている。

 ちょうど昨年、三浦春馬さんの死と相前後して、女性の自殺が増えた。コロナ禍で生活環境が変わったのをひとつのきっかけにして、自分の人生を振り返る中高年の女性が増えた。春馬さんの死がその背中を押したことは間違いない。

 『創』が毎号ページをさいていることを知って投稿してくる女性の多くが、春馬さんの死によって受けた衝撃とともに、自身の人生について思いを馳せている。死がひとつのキーワードとなっているゆえか、僧侶や医療関係者の投稿も少なくない。

現役の僧侶の方からのメール

 最近も現役の僧侶の方から長いメールを受け取った。「毎日、春馬クンを思い、彼が命をすり減らしながら残した作品を観ては、心を揺さぶられ続けています」という。そして長いメールの最後にこう書いていた。

 《僧侶なので、死について考えることは日常です。終活も始めています。生まれたら死ぬのは自然なこと、と常日頃語っているのに、今回はいつもと違うのです。とても多くのことを学ばせていただいたと感じています。自分の半分も生きていない彼から、こんなにも多くのことを教えてもらったことに感謝しています。彼の失われた未来を残念に思う気持ちも薄れてきました。できることは、残された作品を観続けること。そして「ありがとう」と感謝し続けることです》

 様々な立場の様々な方からの投稿を毎月読んでいると、昨年の三浦春馬さんの死が社会の何かを引き出し、それが「共振」現象となって広がっていることを感じる。

 『創』7月号に掲載したたくさんのメールから2つを紹介しよう。

もうすぐ1周忌がやってくる

●春馬くんへ

 もうすぐ1周忌がやってきます。あの日から気持ちの整理がつかないまま、1年が経とうとしています。新しいものが増えたのに、終わることが怖くて、まだ最後まで見届けられずにいる作品もあります。

 毎日飲みながら泣いたり、初めて生理が2カ月近く遅れたり、仕事前に号泣したあとトイレにこもったり、無意識に歯を食いしばっていることに気付いたり、仕事中にRihwaの春風がラジオから聴こえてきて幻聴かと思って挙動がおかしかったり、誰にも会いたくないと思ったり、同じ苦しみを知ろうとタオルで首を絞めてみたり。

 この1年は、普段ドライな私ですら、おかしな1年でした。なぜ、完璧な人がいなくなってこんな私が生きているのかと。自己肯定感の低い私は、なぜいなくなってしまったのかよりも、なぜ私が生きてるのかをずっと考えていました。生きる意味を考えると苦しくなりました。

 だけど、考えれば考えるほど知れば知るほど、遠くにいたはずの貴方がとても身近に感じるのです。超越した存在のはずの貴方も、私と同じ人間であったと今さら気付くのです。

 貴方がいなくなったから知ったことがありました。自分の心に少しでも引っかかったなら、それに触れ、好きな人にいっぱい会うこと、先延ばしにすると後悔すること。

 超現実的な私は、他の方と同じように空を見上げて貴方を想うことは少ないし、天国に行ったかどうかも疑問に思っています。人はあの世に行けば「無」になると思っているし、三途の川もないと。私の母や祖母が他界するまえの意識が混濁していたときのことです。母は時々、フフっと笑っていたし、祖母は「ご馳走が…コロッケがある」と言いました。祖母のお父さんは、「花が綺麗じゃー」と言ったそうです。それさえも、人がこの世を去るときは、怖くないように幸福ホルモンが出ると知り、三途の川ではないと思っています。

 押し寄せる不安や孤独、絶望感でいっぱいになった貴方が、ほんの一瞬でも幸福ホルモンに包まれて逝くことができたのなら、と願ってやみません。

 それでも確かなものが欲しくて、人がこの世から去ったらどうなるのか、調べてみたことがありました。人の体は18%が炭素で、人は完全に燃えたら炭素が二酸化炭素になり、煙とともに大気中に放出される。それが光合成して草になり、動物が食べて肉になり人間が食べる。それこそ輪廻転生だと。

 貴方がいなくなって1年も経とうとしているのだから、こんなに遠い九州にも貴方の欠片が浮遊して届いていると信じて。

 あぁ、こんなことを書いておきながら、『創』6月号の加藤さんの最期の対面の様子を読んで、やっぱり現実だったと落ち込むのは何なんでしょうか。

 最後に、『創』5月号の空羽ファティマさんの春馬くんへの手紙が、今までで一番腑に落ちた感じがしました。丁寧に綴られた言葉が、語彙の少ない私の言葉を代弁しているかのように思いました。私は結婚も出産もしていないですが、孤独だったのかもしれません。

 そして、編集長の篠田さん。あの日から自分がどうしてこうなってしまったのか分からず、闇の中にいました。そんな人達が全国にいて、私も同じなんだと思えたこと、なかなか誌面に載せることが難しいなか、こうして取り上げてくださったこと。そのジャーナリズム精神に頭が下がる想いです。

 空羽ファティマさんと篠田さんに心から感謝を申し上げます。

 (宮崎県 みほ 40歳)

同じ思いの人がこんなにいたことに驚いた

●『創』を何号か拝読させて頂きました。もう、びっくりしました。なぜなら、私だけがこんな感じで毎日、過ごしていると思っていたからです。皆さんと同じ思いで、日々を過ごしていたこと、同じようにDVDを購入したり、映画を観に行っていたなんて…。

 思い返せば、三浦春馬という俳優さんのことは、以前から知っていたし、密かに応援もしていました。ですが、自分自身、子育てに追われている時期で、映画も舞台も何も観ることができないまま時だけが過ぎていってしまっていたのです。春馬君が亡くなったと速報で知った時、私の中の何かが壊れていくのを感じました。やっと自由な時間ができたのに、もう時すでに遅しです。

 それからというもの、憑りつかれたように、CDや書籍を購入し始めました。もう、止まらないのです。

 そんな時、『創』に出会い、本当に救われました。気持ちが楽になりました。私と同じように悲しんで、涙を流している人たちが、こんなにたくさんいたなんて…。驚きでしかありません。

 自分で首を絞めたこともあります。死ぬのが怖くもなくなっていました。でも、今は、春馬君を皆さんと同じように想いながら、生きていこうと思っています。

 本当に、『創』には感謝しかありません。有難うございました。

 (愛知県 竹田美佐子 57歳)

全国の春友さんが連携すればできることはたくさんある

〈 6月7日の追記〉 以上の記事は6月6日にアップしたものだが、すごい勢いで拡散し、その夜、堀内さんのYouTubeチャンネルでもヤフーニュースにこういう記事が載ったと取り上げられ、盛り上がったそうだ。

 で、それは良いのだが、この記事との関連でちょっと考えていることがあるので追記しておこう。『創』7月号に掲載した投稿で、兵庫県のみかさんが、徳島の藍染が何とかしてほしいと書いている。『日本製』で紹介されたものだが、そこでは販売はしておらず、かつ「春友さん」の間でも、春馬さん関連の品を売買することに激しい賛否両論が交わされているという。確かに春馬さんの関連グッズを買い占めて高値で転売する人がいて、ファンたちの怒りを買っている現実がある(『創』も品切れの号が1万円以上で転売されたりして嫌な思いを何度も経験した)。大切なことだからこそ、そういう営利目的の人たちに汚されたくないというファンの気持ちは当然だ。

 ただファンの間では。営利でなく純粋に春馬さんを偲ぶものがほしいと願っている人も多いと思う。

 そこで何とかならないものかと考えた。前述したように、春友さんたちは今、日本全国にいて、いろいろなつながりを深めている。実は『創』にも徳島在住の春友さんから藍染を送ってくれたりしていた。営利行為でない形で徳島の人と他県の人が便宜をはかりあうことはできるのではないかと思う。

 そこでさきほど徳島の人に電話して、何かやりようはないものかと相談した。ファンたちが様々な形で連携している現状を考えると、日本全国の同じ思いの人たちを結んで、何かができる可能性があるからだ。

 まだ思いついたばかりだが、近々考えて提案しようと思う。

 なおその兵庫のみかさんの投稿を含め、「創」7月号の内容については、下記を参照いただきたいと思う。

http://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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