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マンガの売り上げが2020年、過去最高になったことはもっと取り上げるべきニュースだ

篠田博之月刊『創』編集長
2020年「鬼滅の刃」が大ヒット(写真:西村尚己/アフロ)

 月刊『創』(つくる)最新号の5月号は特集「マンガ・アニメ市場の変貌」。毎年この時期に掲載しているマンガ特集だが、この何年か、デジタル化の影響でマンガ界に大きな変化が現れつつある。

 というより、マンガはいま大きな歴史的局面を迎えているのだが、どうも新聞などの大手メディアではあまりそのことが大きなニュースになっていない。ここで『創』5月号特集の総論をもとに、そのことの意味を考えてみたい。ちなみにマンガだけでなくアニメもまた、今大きな変革期を迎えている。日本テレビやテレビ朝日などテレビ局が次々とアニメ事業部といったものを社内に設けるようになっているのもその現れだ。

 2020年はまさにマンガの歴史においてエポックメイクな年と言えるだろう。

マンガ黄金時代の総販売額を上回ったという驚き

 出版科学研究所の調査データによると、電子を含めたマンガ全体の推定販売金額が、これまでピークとされてきた1995年を上回ったという。

 周知のように1995年、『週刊少年ジャンプ』は653万部という空前絶後の発行部数を記録し、マンガ市場全体がピークを極めた。人気連載が次々と終了したことを機に、翌年、同誌の部数は下降に転じ、マンガ雑誌市場全体も急速に縮小していった。

 『創』はもう30年、この時期にマンガ特集を掲載しており、その推移をつぶさに見てきたのだが、一時期は「マンガ市場にかげり」といった特集見出しが多かった。今もよく覚えているが、当時の講談社のマンガ部門編集責任者は「下りのエスカレーターを必死になって上っている感じだ」と語っていた。必死になってのぼっているのだが、それでも落ち込みを防ぐことはできない。落ち込みをどう食い止めるかに各社とも必死だった。

月刊『創』2021年5月号「マンガ・アニメ市場の変貌」より
月刊『創』2021年5月号「マンガ・アニメ市場の変貌」より

 マンガ雑誌だけをとると、その後現在までその流れは変わっていない。ただ一方で、雑誌連載をまとめた単行本は好調で、2005年に雑誌と単行本の売り上げが逆転する。その後、雑誌で作品を作り、単行本で収益を上げるという構造が定着した。つまり、マンガの読まれ方が、この20年ほどで構造的な変化を遂げたのだ。アニメやドラマで作品を知り、そこから原作に入ってくる読者は、その母体である雑誌までは行きつかない。作品がどんなに大ヒットしようと、雑誌自体の部数は落ちていく一方なのだ。

2019年に紙と電子の売り上げが逆転

 さてそうした歴史的流れに、何年か前からデジタルが大きな影を落とすようになった。ここに掲げたのは、出版科学研究所『出版月報』に基づく紙と電子のマンガの売り上げの関係を示すグラフだが、2019年に両者は逆転している。

出版科学研究所『出版月報』のグラフをもとに作成
出版科学研究所『出版月報』のグラフをもとに作成

 2020年はコロナ禍での巣ごもり需要でデジタルコミックの売り上げは大きく伸びた。出版科学研究所によると、紙の書籍(コミックス)が前年比24・9%増の2079億円、雑誌が13・2%減の627億円。それに対して電子は31・9%増の3420億円だ。

 こうした変化はマンガについての概念そのものを変えつつある。かつて青年マンガが大きく市場を拡大した1980年代に、マンガ市場はセグメンテーションといって、性別・年齢別に細分化された。少年誌、青年誌、女性誌といった区分で、大手出版社のマンガ部門の組織は今でも基本的にそれに即しているのだが、これは紙の雑誌をベースにした考え方だ。書店店頭でのコミックスの棚もそういう作り方をしているのだが、一方でそういう分類にあてはまらない事例が増えている。

『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』はその分類だと少年コミックになるのだが、実際には女性読者もかなり多い。さらにデジタルとなると、そういう区別はさらに意味を失う。例えば小学館のアプリ「マンガワン」は、男性女性といったジャンル分けをしていないという。本誌のマンガ特集もジャンルごとに市場を分析するという構成になっていたのだが、今後はそういう概念自体を変えなければならないかもしれない。

 もうひとつ、この1~2年顕著なのは、アニメ市場の活性化だ。今や日本の人気アニメは日本での放送と同時に全世界に配信される。大きな市場になりつつあるために、テレビ局や配信業者が本格的に取り組み始めているのだ。

日本のマンガの歴史を3つの期に分ける

 『創』は日本のマンガの歴史を3つに分類してきた。第1期は週刊少年マンガ誌が創刊された1959年以降、第2期はその10年後から大人向けのマンガ誌が次々と創刊されていった時代。それまで子供向けと見られていたマンガ市場に大人向けのジャンルが生まれ、市場が一気に拡大した時代だ。そして第3期は、アニメやデジタルといった紙以外の新たなメディアが拡大していく時代だ。それによって市場はさらに拡大した。

 一時期、紙のマンガ雑誌が落ち込むことによって危機が叫ばれた時期もあったが、長い歴史を振り返ると、昨年、マンガ市場がピークだった1995年を上回る規模になったというのは、象徴的と言えるかもしれない。

 今回も『創』特集では、大手3社を中心に、それぞれのジャンルを取材した。マンガ市場は寡占化が進んでいるのが特徴で、コミックスのベストセラーはこの3社によってほぼ占められる。さらに秋田書店や白泉社を加えると市場の大半が数社に押さえられているのが実態だ。最近は新潮社の取り組みも見逃せない。

文藝春秋、光文社などがマンガ編集部を新設

 ただデジタル化によって、新たな動きも見え始めていることも指摘しておこう。ひとつはIT系の会社が参入していることだ。そしてもうひとつは、紙のマンガ雑誌に参入するのは無理だがデジタルならということで、文藝春秋や光文社などがマンガ部門を新設している動きだ。

 文藝春秋は昨年7月からコミック編集局を新設した。コミック編集部ができたのは一昨年で、今のところ局といっても実態はコミック編集部だけなのだが、編集局の新設は、会社としての意思を示したものといえよう。

 マンガ・アニメ市場はこれからどうなっていくのだろうか。

※『創』5月号マンガ・アニメ特集号の内容は下記をご覧いただきたい。

http://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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