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4月6日映画公開!「新しい地図」も健闘しているが、すごいのは元SMAPファンたちだ

篠田博之月刊『創』編集長
3月20日、会見に応じる「新しい地図」の3氏(筆者撮影)

 このところ、昨年9月にジャニーズ事務所から独立した稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾3氏が立ち上げた「新しい地図」について継続的に取材している(注:草なぎさんの「なぎ」は本来は漢字だが、それは表示できないらしいので平仮名にした。以下も同じ)。発売中の月刊『創』4月号には「『新しい地図』とAbemaTVがメディア界に投げた波紋」という記事を書いた。そして4月7日発売の次号5・6月合併号には「『新しい地図』の映画『クソ野郎と美しき世界』」という記事を書いている。

 冒頭に掲げた写真は3月20日に映画『クソ野郎と美しき世界』のPOP UP SHOPで行われた囲み会見の時のものだ。映画公開に先駆けて、映画で使った衣装やピアノなどを展示し、記念グッズなどを販売するSHOPが、その20日にオープンしたのだった。

 会見の中で香取さんが「平昌から帰ってからまた一部映画の撮り直しの場面があったのだけれど公開に間に合うのかな」などと語ったのだが、東京スポーツはさっそく21日付1面トップでそれを「元SMAP映画異常事態」と仰々しく報じていた。

 

会見中の3氏(筆者撮影)
会見中の3氏(筆者撮影)

 確かに通常の映画なら公開までに1カ月を切った時点でまだ撮り直しをしているというのは信じがたいことだろう。でもそもそも映画の撮影に入ったのが今年になってからだし、この進行に不安を感じていたのは関係者ほぼ全員だったと思う。でもそんなふうに普通はありえない進行で、この半年間を駆け抜けてきたのが「新しい地図」だったのだと思う。

 3月初めに、都内の大きなダンスホールを貸し切って行われていた撮影現場を訪れた。この映画はオムニバス形式なのだが、3本の話が別々の監督によって撮られ、その3つの話がバラバラだと思っていたら、実は4本目でひとつにつながるという作りになっている。その時に撮影していたEPISODE4はミュージカルで、まさにフィナーレにふさわしい華麗な大団円が繰り広げられていた。

 香取慎吾さんが朗々と歌を歌いあげるのだが、周りを大勢の出演者が囲む。「はい、カット」という監督の声で何テイクも撮り直しがなされ、香取さんの近くに宙返り(バク転)をする役の人がいて、撮り直しのたびにそれをやっていた。見ていて思わず、あの人大変だなあ、と余計な心配をした。

 その日は、現場で多田琢、山崎隆明、権八成裕3人のクリエイターにインタビューするのが目的だった。「新しい地図」のブレーンともいうべきその3人は、昨年「新しい地図」が立ち上がった時のホームページの動画や画像に始まり、いろいろな企画に関わっていた。今回の映画も、最初に多田さんのプランをベースにして、山崎さん、権八さんを含めた3人で練り上げていったようだ。

映画のポスター
映画のポスター

 例えばこの映画では、園子温監督らのほかに「爆笑問題」の太田光さんが監督を務めている。太田さんは以前にも映画を作ったことはあるというのだが、この太田監督起用というのはサプライズでもある。多田さん自身、その案が出た時には最初はびっくりしたというが、でも「逆に面白かったというか、『新しい地図』っぽいなと思いました」と語っていた。意表をついた展開、前例のないことの積み重ねで、まさに新しく地図を描くように進んでいこうというのが、立ち上げ時からの思いだったのだろう。

 それはもちろん、ジャニーズ事務所という、芸能界やテレビ界に確固たる支配権を確立している巨大事務所から飛び出して新たな活動拠点を作るという、稲垣・草なぎ・香取3氏の思いでもあったのだと思う。

 実際、彼らのテレビのレギュラー番組が次々となくなっていくなど厳しい現実もあったが、11月初めのAbemaTVでの「72時間ホンネテレビ」や、今回の映画など、彼らは次々と新しい局面に挑戦し、それを切り開いていった。

 深夜のラジオで太田光さんが「テレビ局がなかなか宣伝してくれないっていうのはあるんだけど」と言って、「ジャニーズ事務所からの圧力なんてないんだから」とテレビ局が「忖度」(そんたく)しないように呼び掛け、話題になった。

 テレビ局に、何かにつけてジャニーズ事務所への忖度が働いているのは事実だろう。ジャニーズ事務所の機嫌をそこねてはテレビドラマやバラエティは成立しなくなると言われる現実があるからだ。

 それを考えると、「新しい地図」はこれまでのところ、よく健闘していると思う。そしてそれを支えたのは、元SMAPファンたちの熱い思いだと思う。「新しい地図」は元々、稲垣さんら3人のファンサイトなのだが、昨年9月22日に朝日新聞と東京新聞に大きな広告を打ってスタートして以降、予想を超える有料会員が集まっているという。なぜその2紙だったかといえば、約1年前のSMAP解散の時に、ファンたちが声を表明するのに一役買った経緯があったからだ。これについて、以前、朝日新聞の取り組みについて下記のような記事を書いた。

https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201803210000325.html

昨年末の朝日新聞のSMAP応援広告がすごい試みだったと改めて思う理由

 2016年末の意見広告は、ファンがクラウドファンディングを通じて資金を集め、SMAPを応援する広告を出そうという試みだったのだが、朝日新聞の担当者はこう言っていた。「12月20日から1週間かけて目標1000万円を集め、朝日新聞紙面に広告を打とうということになりました」「果たして1週間で1000万円が集まるのか、正直、不安もありました。

 でも実際にやってみると2日で目標額を突破し、1週間で1万3000人もの人から4000万円弱の金額が集まったのです。国内の購入型クラウドファンディングでは史上最多支援者数とされています」

 つまり1000万円目標で呼びかけたら4000万円が集まったというわけだ。SMAPファンの熱い思いを物語るエピソードだ。

 昨年9月に「新しい地図」に思いを寄せた人たちもその流れを継いだものだろう。SMAPはふたつに分裂してしまったのだが、ファンたちの多くは今でも5人による再結成を夢見ているようだ。このファンの熱い思いやエネルギーが「新しい地図」のこれまでの健闘を支えているのは間違いないと思う。

 テレビ局がジャニーズ事務所に「忖度」する現実はあるが、一方でインターネットというもうひとつのメディアもあった。11月初めのAbemaTVでの「72時間ホンネテレビ」の成功は、メディア環境が激変しているタイミングであったことが「新しい地図」に新たな可能性をもたらしたとも言えよう。

 メディア界の現実を多少知る者なら、ジャニーズ事務所という巨大組織から分かれて独自の活動を続けようとしている彼らを見れば、応援しようという気持ちにはなると思う。前述したクリエイターたちを始め、多くの人たちが「新しい地図」に協力を惜しまないのもそういう事情が背景にあると言えよう。

 そういえば私はSMAP解散騒動の時期に、ヤフーニュースにこんな記事を書いていた。

SMAP解散騒動とは結局何だったのか。芸能マスコミの報道への疑問

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20160123-00053721/

 文末で、可能なら飯島元マネージャーの話を『創』で取り上げたいと思うが、無理だろうな、と書いた。でも、3月初めに、映画『クソ野郎と美しき世界』の撮影現場に行った時、飯島さんに挨拶する機会を得た。どのマスコミのインタビューにも応じない方針らしいので、じっくり話を聞く機会は得られていない。でも私としては飯島さんと面識を得たことだけでもそれなりに大きな出来事だった。

 この映画『クソ野郎と美しき世界』が成功するかどうかは興味深い。心強いのは元SMAPファンたちの熱い思いで、4月6日の公開初日には、キャストや監督らが総出で舞台挨拶をし、それを全国各地の公開劇場に流すという。またその後8日にかけて、稲垣・草なぎ・香取3氏は各地の劇場を回るという。私も初日舞台挨拶への取材依頼をさきほど送ったところだ。

 彼らがどんなふうに今後、活動していくのか、その軌跡や結果は、何となく今のメディア界のありようと関わっているように見える。それゆえに注目したいと思っている。

 映画をめぐるいろいろな予定については「新しい地図」の公式ホームページに載っている。

https://atarashiichizu.com/

〔追記〕映画公開初日の取材レポートは下記に書いたのでぜひご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180408-00083703/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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