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小出恵介スキャンダルの「いやはや何とも」な経緯と投げかけた問題点

篠田博之月刊『創』編集長

人気俳優・小出恵介のスキャンダルはいろいろな問題を投げかけた。一連の経緯を見ると疑問が尽きないのだが、ここで整理しておこう。

スキャンダルの第一報は6月9日発売の『フライデー』6月23日号だった。小出がNHKのドラマ撮影のために訪れていた大阪で5月上旬、飲み会に呼び出して一緒に飲んだ女性を口説き、ホテルに行った。女性はその情報を週刊誌にタレ込み、彼女が17歳であったため、小出の行為が青少年条例違反の「淫行」にあたると問題になった。騒動を受けて警察も後に、任意の事情聴取を行うことを決めた。

『フライデー』の「小出圭祐『17歳女子高生と飲酒&SEX』」という記事は、人気俳優と17歳女性とのホテルでの一部始終を、当の女性の告白によって暴いたものだ。

発売前日の6月8日に、小出の所属事務所アミューズは、彼の無期限活動停止を発表。その結果、小出出演のドラマやCMが一斉に放送中止となった。10日から放送予定だったNHK連続ドラマ『神様からひと言~なにわ お客様相談室物語~』も放送中止となった。また7月から放送予定の日テレ系のドラマ『愛してたって、秘密はある。』も降板となった。

そして騒動はそれにとどまらなかった。10日付スポーツニッポンが、小出は女性から500万円を要求されていたと報道。同時にネットでは女性のプライバシーが次々とさらされた。17歳の女子高生と書かれていたが、実は子どももいるシングルマザーで、掲載時は高校を辞めていたことも明らかになった。そういうプライバシーについては、翌週の『週刊文春』に登場した本人も認め、こう語っていた。

「あの頃、私は子供が施設に取られたことで生活が荒れ、夜の繁華街で遊び歩いていました。そんな時に事件が起きました」

17歳女子高生というイメージからは離れていると感じさせる女性だが、小出と関係を持った当初、そのことをやや自慢げにSNSで吹聴していたとされ、ネットでは、小出がはめられたのではないかと女性への非難が吹き荒れた。

そして彼女はそれを否定するため、6月15日発売の『週刊文春』6月22日号で経緯を告白した。なぜ同誌かというと、実は6月初め、最初に彼女がタレコミをしたのは『週刊文春』だったのだ。

情報提供を受けた同誌は「彼女が金銭目的で証言していることを隠さなかったため」「記事化を慎重に検討」。そこで女性は『フライデー』に話を持ち込んだ。5日に同誌の取材に応じた彼女は、同日、それを小出に伝え、翌6日に小出本人と会った。

小出は『フライデー』が彼女に提示した謝礼の額を聞いて(20万円と言われる)、それ以上の金を払うので記事を止めたいと要望した。結局200万円で話がついたという。女性の話によると、彼女からお金を要求したのでなく、あくまでも小出側から提示されたという。しかもスポニチの報じた500万円という額は、女性によると一度も話に出ていないという。

ただこのあたりは微妙で、女性は『週刊文春』のインタビューで、そもそも週刊誌にタレこむ時に「小遣い稼ぎになるとも思った」と金銭目的もあったことを認めている。小出とのお金をめぐるやりとりについてはこう説明している。

《A子さんがフライデーからの謝礼の金額を答えると、小出は吐き捨てるようにこう言ったという。

「んじゃ、五十」

「私はお金を貰うつもりも無かったけど、売り言葉に買い言葉で、『そんなんで収まるわけないやん!』」と言い返した。そうしたら小出君が『いくら? 百? 百五十? 二百?』とどんどん金額を吊り上げていった。正直、生活にも困っていたし、私もそこで『もうそれでいいよ』って言いました。》

200万円で話がついた女性はすぐに『フライデー』に電話して掲載を止めてほしいと伝えた。だが、同誌は「止められない」と答えたという。結果的に『フライデー』が報道し騒動になった。

結局、女性はお金を得られなかったのかと思いきや、そうでもない。6月15日、アミューズは、女性との間に10日付で示談が成立したと発表した。何がしかのお金が渡ることになったと考えてよいだろう。

その金額について、その後、『FLASH』7月4日号や『女性セブン』6月29日・7月6日合併号など複数の媒体が、何と示談金は1000万円だったと報じている。女性の友人経由の情報らしいが、真相はわからない。もし事務所側がそれほど多額のお金を払ったとしたら、当時、警察も条例違反、つまり「淫行」容疑で任意の事情聴取を行っていたから、それを事件にならないよう収めるためのお金ということなのだろう。その意味ではかなり高額なお金が払われた可能性はある。

一連の経緯を見ると、いろいろな疑問を感じざるをえない。まずは17歳の女性との間で何百万とか1千万といったお金のやりとりがなされていることだ。スキャンダルを週刊誌に売り込んで話題にすれば金になるという認識が既にできあがっているわけで、しかも市民感覚からはずれた金額が行き来する現実。今まで不祥事やスキャンダルをそんなふうにして解決してきたツケが回っていると言わざるをえない。

事務所としては、そのくらいのお金は、刑事事件になるといった最悪の事態を回避することと比べれば問題はないという判断なのだろう。なぜそうなってしまうかというと、スキャンダルが発覚したとたんに、CM、ドラマ、映画などが一斉に中止になってしまうという現実があって、それは金額に換算すれば億単位に関わることだからだ。それを考えれば被害を最小限に食い止めればある程度のお金はやむをえないという発想なのだろう。

しかし、CMはともかく、ドラマや映画まで、キャストのうちの一人の不祥事で封印してしまうという近年の芸能界やテレビ界の慣習の方が考えてみれば問題で、そろそろ考え直すべきではないだろうか。少なくとも完成した作品はひとつの独立した存在であって、もし不祥事に対する弁明や謝罪をする必要があるなら、テロップでその旨明記すればよいのではないか。今のやり方は、成人したタレントの不祥事に対して、その親の責任まで問題にするという風潮とよく似ている。

この事件の前に橋爪功の息子の薬物逮捕事件があったが、息子の出演していた映画「たたら侍」が一時公開中止になっただけでなく(その後再編集して再上映が決まったらしい)、親の主演映画「家族はつらいよ2」にまで影響しかねない雰囲気で、さすがにそれはなかったが、最近はそんなばかげたことまであって不思議ないくらい、番組や映画がすぐに中止になる。

そもそも出演作品を丸ごと封印してしまうといった大仰な対応をするのであれば、日ごろからそういう事態に伴う社会的責任をタレントに自覚させることが先決だろう。飲んでいる場に女性を呼び出し、その女性をホテルに連れ出して、17歳であることを知りながら今回のような事態に至る小出の一連の対応を見ると、そういう自覚がなさすぎることに驚かざるをえない。

お金の交渉も含めて細部が公に流出したのが今回のスキャンダルの特徴で、その意味では興味深い話でもあったのだが、市民社会の常識とのずれに呆れざるをえない。もう少し何とかしないといけないように思うのだが。 (文中敬称略)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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