Yahoo!ニュース

【WBC】ダルビッシュ有が韓国で愛されるワケ。対戦選手の回想、アイドルやネット神対応も高評価

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ダルビッシュ有(写真:CTK Photo/アフロ)

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の舞台で数多くの名勝負を演じてきた日本と韓国。2006年の第1回大会では3度対戦して韓国が2勝1敗、2009年の第2回大会では5度も対戦して日本が3勝2敗と、ほぼ互角にあるが、最後の大一番で勝利を挙げたのはいつも日本だった。

2009年WBC決勝。その最後のマウンドに立っていたのが当時22歳のダルビッシュ有だが、あれから14年の歳月が過ぎても当時のことを鮮明に覚えている者が韓国にいる。

チョン・グンウ。2009年WBCに韓国代表として活躍した内野手だ。

今年2月、インタビューする機会があったのだが(その内容は『スポーツグラフィック・ナンバー』WBC特集号に寄稿)、彼が最初に切り出してきたのも2009年WBC決勝のことだった。

「あのときは僕が最後のバッターでしたからね。10回裏、二死でしたが一塁。一打同点のチャンスでしたが、ダルビッシュ投手を前にして手も足も出せなかった。空振りした瞬間、城島捕手が怒号のような叫び声をあげながらマウンドに走っていきましたよ。それがまた悔しさを倍増させてね(苦笑)。ただ、あのときの悔しさが養分となって僕を成長させてくれました」

2009年WBC決勝の最後のバッターとなった
2009年WBC決勝の最後のバッターとなった写真:ロイター/アフロ

2008年北京五輪から韓国代表に定着したチョン・グンウは2009年WBC後、その年のKBOリーグのゴールデングラブ賞も受賞するなど、走攻守に優れた二塁手として野球韓国代表に欠かせぬ存在となる。

2013年WBCにも出場し、2015年のWBSCプレミア12では韓国代表のキャプテンも務めた。WBSC準々決勝では大谷翔平からもヒットを打っているが、ダルビッシュのボールが彼の野球人生で見た最高のボールだったと語っていたのが印象的だった。

「スピードでは大谷選手ですが、ダルビッシュ投手のスライダーのムーブメントというか切れ味が良い。私が見た最高のスライダーでした」

このチョン・グンウだけではなく、韓国ではダルビッシュを高く評価する声が多い。

今回のWBCでは大会前から韓国でも大谷が大きく取り上げられ、一部選手の発言が問題となり事態がエスカレートすることもあった。

(参考記事:大谷翔平に「わざとぶつける」発言の韓国投手、手のひら返しの謝罪&絶賛【WBC2023】)

だが、ダルビッシュに関してはどこも高評価だ。多くの韓国メディアが「メジャーリーグ最高のスライダーを持つ選手」、「現役最強最高のアジア人先発選手」と評してきたし、同じ野球選手たちもダルビッシュの名を語ることを躊躇わない。

例えば2013年WBCにも出場したノ・ギョンウンは「ダルビッシュの投球映像を本当にたくさん見ている」とコメント。「ロールモデルはダルビッシュ」と語ってプロ入りした投手もいた。

また、かつてテキサス・レンジャースで活躍した韓国人打者のチュ・シンスはレンジャース時代に韓国メディアに寄稿していた連載コラムでこんな賛辞を送ったこともある。

「(クレイトン・)カーショーがどんなときでもカーショーであるように、ダルビッシュもやはりどんなときもダルビッシュなのだ」

ダルビッシュとチュ・シンス
ダルビッシュとチュ・シンス写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

さらに言うと、韓国ではダルビッシュの人柄にまつわる、さまざまなエピソードが知れ渡っている。

例えば2011年9月、当時人気だった韓国のアイドルグループ超新星のグァンスが自身のツイッターで「野球ならイチローとダルビッシュ」とつぶやいたことがあった。

それを受けて、ダルビッシュもツイッターで「ありがとう」と返答。グァンスは「入場曲に僕たち超新星の曲をどうぞ」と返して和ませた。

2012年5月には、ツイッターで通訳やトレーナーと韓国料理を食べたことを伝えるダルビッシュに、とある日本人フォロワーがかみついたことがあった。

「汚い韓国料理なんか食べているから成績が上がらないのだろう、反省しろ」。プロフィール欄に35歳で韓国への露骨な嫌悪感を示していたネトウヨじみたフォロワーだった。

そう絡んできたフォロワーに対し、ダルビッシュは「あなたも35歳にもなるんだから、いい加減大人になりましー」と返したのだ。

この一連の出来事は韓国でも報じられて話題になった。「痛快な対応だった」「野球だけでではない。人格的にも概念があって骨のある男だ。カッコいい」。そんな書き込みも寄せられていた。実力だけではなく、人間ダルビッシュを好む韓国人は多いのだ。

そんなダルビッシュが14年の月日を経てふたたび韓国の前に立ちはだかる。ダルビッシュの韓国戦登板は以前から韓国でも予想されいたが、改めてそれが現実となるとメディアも緊張感を隠さない。

まして韓国は昨日のオーストラリア戦に敗れて後がない状況なだけに「崖っぷりの韓日戦、ス―パースター、ダルビッシュを捉えろ」(テレビ局『SBS』)と報じるメディアある。

韓国メディアがダルビッシュ攻略の急先鋒として期待するのは、2009年WBCにも出場したキム・ヒョンスや対ダルビッシュの打率が3割7分5厘(16打数6安打)のトミー・エドマンなど対戦経験のある打者たちだ。

また、サンディエゴ・パドレスでダルビッシュとチームメイトであるキム・ハソンにも期待が集まる。

「ダルビッシュが投げる時、僕はいつも後ろで守ってきたが、今回のWBCで対決することは僕にとって光栄なこと」と以前からダルビッシュとの対戦を楽しみにしていたキム・ハソンは『スポーツソウル』との単独取材でこんなことも言っていた。

キム・ハソン
キム・ハソン写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

「ダルビッシュについて自分が知っていることをできるだけ多く共有するつもりだ。ダルビッシュも良い選手だが、韓国代表の仲間たちもしっかり準備すれば、どの選手が出ても上手く打てると思う。とにかくダルビッシュとは“お互いのことはよく知っているぞ”と笑いあいながら、対戦を約束した。最善を尽くしてダルビッシュを苦しめたい」

はたして韓国はメジャーリーグ最高のアジア人投手を攻略できるか。WBCの舞台では14年ぶりとなるライバル対決は、その立ち上がりから一瞬たりとも見逃せない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事