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「指殺人」を許すな。韓国のヤフーNAVERが芸能記事コメント欄を廃止する理由

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

「韓国のYahoo!!」と言っても遜色ない最大手ポータルサイトであるNAVERが、本日3月5日から芸能記事のコメント欄サービスを暫定的だが閉鎖すると発表し話題になっている。

昨年10月、韓国のみならず日本でも衝撃が走ったK-POPガールズグループf(x)の元メンバー、ソルリ(享年25歳)の訃報をきっかけに、韓国ではネット上に蔓延する芸能人への悪質コメントを撲滅するための新たな動きが出ていた。

ソルリの訃報から約2週間後には、大手IT企業のkakaoが自社運営のコミュニケーションアプリ「カカオトーク」と、ポータルサイト「Daum」のサービスの改編計画を発表。

「芸能記事のコメント欄で発生する人格冒涜は公論の場における健康性を損ねるレベルに至った」とし、芸能記事のコメント欄を閉鎖。また、人物検索の際に関連キーワードの提供中止などを順次行っていた。

その一方で、市場シェア1位を誇るNAVERは、コメント作成において最も問題視されていた「悪プル(悪性リプライ)」の軽減を目指し、人工知能(AI)技術を用いたフィルタリング・サービスを拡大することでコメント欄を維持していた。

ところが今回、芸能記事限定ではあるものの、コメント欄閉鎖を決定したことによって、韓国のIT業界が新たな局面へ向かっている。

NAVERは今回の決定理由について「現在の技術的努力が、芸能人たちの苦痛を解消するには力不足であることを認める。いくら良いコメントが多くても、芸能人にとっては少数の悪質コメントによるネガティブな影響力のほうが、あまりにも大きい状況」と説明した。

インターネットの長所と言えば“相互コミュニケーション”だが、差別や人権侵害など一方的な誹謗中傷による弊害が深刻化しているのは言うまでもない。

韓国にはネット上の書き込みで人を死に追い込む「指殺人」という言葉まで存在するほどだ。芸能人のプライベートが興味本位のゴシップとなり、個人情報が漏洩するのも日常茶飯事となっている。

(参考記事:韓国芸能人を苦しめる“指殺人”…なぜ「悪質コメント」はなくならないのか)

このような現状を改善するため、NAVERはコメント欄の閉鎖とともに人物検索の関連キーワードサービスも全面的に廃止することも決めた。

「確認されない噂や、人権侵害の恐れがあるキーワードが露出されるケースが発生している。人権を尊重し、プライバシー侵害の被害を最小化するためにサービス終了に至った」というのがその理由だ。

K-POPガールズグループ少女時代のスヨンは、このニュースを受けて自身のInstagramに「素敵な波のように生きて、防波堤になってくれた子」と、故ソルリを改めて追悼した。

国会ではネットの準実名制を導入する通称「ソルリ法」が発議され、大手ポータルサイトがコメント欄を閉鎖するなど、故ソルリは死してなお芸能界に善良な影響力を与えている。

ちなみにNAVERは、芸能記事のコメント欄閉鎖とともに、来る4月15日に行われる第21代総選挙期間中には「急上昇ワード」サービスも中断するという。

昨年8月、日本でも連日話題を集めたチョ・グク元法務部長官の任命をめぐって急上昇ワードの人為的操作が行われた悪例を繰り返さないためだろう。

韓国有数のIT企業による新たな取り組みがネット上の自浄作用を働かせるか、注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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