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“韓国のメッシ”は過激な風雲児か、希望の星となるのか。イ・スンウ、真価問われるとき

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
大会開幕直前に撮影に応じるイ・スンウ(写真:FA photos)

グループリーグ初戦でスウェーデンに敗れ、窮地に立たされている韓国。

23日に行われるメキシコ戦が正念場となるが、そんな韓国代表の救世主として期待されているのが20歳にして背番号10を背負うイ・スンウだ。

韓国で話題の“応援美女”も推しメンに

FCバルセロナの下部組織出身で、現在はイタリアのヴェローナでプレー。スピードのあるドリブル突破が持ち味であることから、“韓国のメッシ”とも呼ばれている。

韓国で今、何かと話題を呼んでいるという“ワールドカップ応援美女”も、注目選手として真っ先にイ・スンウを挙げたそうだが、今やチーム最年少にして大きな期待を背負っている。

実際、スウェーデン戦では後半途中から交代出場してワールドカップ・デビューを果たした。後半36分には右サイドから切り込んでミドルシュートを放つなど、積極的なプレーは現地で取材する記者たちの間でも高く評価されている。

メキシコ戦を控えた今、「イ・スンウをスタメン出場させるべきだ」と話す記者も少なくない。

「久保建英は僕の競争相手ではない」

そもそもイ・スンウは、早い時期から韓国で注目を集めてきた。

小学校1年生からサッカーを始め、ソウル大東(テドン)小学校の6年生だった2010年には、ソウル地区の週末リーグや全国大会で活躍し、年に1度行われるKFAアワードで最優秀小学生プレーヤーに選出。韓国サッカー界の英雄チャ・ボングンが設立し、過去にはパク・チソン(第5回)やキ・ソンヨン(第13回)なども受賞した「第23回チャ・ボングンサッカー大賞」も受賞している。

そんな天才少年への関心が高まった決定的なきっかけは、2011年夏だろう。とある大会に出場したことを機にスカウトの目に留まり、バルサのU-13に相当するインファンティルBに入団することになったのだ。

(参考記事:日本の久保建英だけじゃない!! 韓国のイ・スンウとペク・スンホはなぜ、バルサの一員になれたのか

その後、イ・スンウはカデッテB、Aと段階を経て2014年1月から16~18歳を対象としたフベニールAに所属。バルサBでプレーしたこともあったが、バルサが18未満の選手の海外移籍規定に違反していたため、公式戦にはなかなか出場できなかった。

そこで昨年夏にはヴェローナへ移籍。2000年からペルージャでプレーし、現在は解説者やバラエティ番組のMCとして活躍するアン・ジョンファン以来、韓国サッカー史上2人目のセリエA進出選手となり、今年5月6日のACミラン戦では初ゴールを決めている。

個性強烈で発言も刺激的な“韓国のメッシ”

まさに早熟の天才児であるわけだが、その自由奔放なキャラクターも話題になってきた。

例えば、2014年のAFC U-16選手権では、「日本には軽く勝てるよ」と発言。

現代表で指揮官を務めるシン・テヨン監督のもとで臨んだ昨年のU-20ワールドカップでも、「久保建英は僕の競争相手ではない」などと話し、物議を醸していた。

(参考記事:「久保建英は僕の競争相手ではない」“韓国のメッシ”イ・スンウの意外な素顔

当時は髪をピンクや金に染めていたことも影響してか、一部のサッカーファンから「生意気だ」と批判を浴びることも少なくなかった。

イ・スンウに重なる元Jリーガー

そんなイ・スンウを見て筆者が真っ先に思い浮かんだのは、イ・チョンスだ。

19歳で2000年シドニー五輪・韓国代表の背番号10番を付け、2002年日韓ワールドカップにも出場。イ・スンウと同じく20歳でワールドカップ・デビューを果たした、かつてのスピードスターだ。

大宮アルディージャでもプレーした元コリアンJリーガーで、現在はサッカー解説者として活動している。

(参考記事:Jリーグ25周年の今だからこそ知りたい!! 韓国人Jリーガー、あの人は“いま”)

イ・チョンスもまた、イ・スンウと同じように“早熟の天才”とされ、現役時代は破天荒なキャラクターが関心を集めた選手だった。

チーム内での衝突や審判への暴言など、物議を醸した騒動も多く、付けられたあだ名も“風雲児”。

イ・チョンスには日韓ワールドカップ当時から何度も話を聞く機会があったが、強気で挑発的なビッグマウスに驚かされることも少なくなかった。

イ・チョンスほどではないが、昨日の公式会見でも「韓国が過去に(グループリーグで)3勝を挙げたことがありました? まだ1敗しただけ。2試合が残っている」と語るなど、イ・スンウにはかつての“風雲児”の姿がダブる。

イ・ドングッのようなインパクトを示せるか

その一方で、現地で取材する記者たちの間では、全北現代でプレーするイ・ドングッが若き日に示した“インパクト”の再来を期待する声も多い。

というのも、イ・スンウは20歳と163日でワールドカップ・デビューを果たしたが、これは韓国史上4番目の記録。

最年少出場記録を保持しているのが、1998年フランス・ワールドカップに19歳52日で出場したイ・ドングッだった。

フランス・ワールドカップのグループリーグ第2戦のオランダ戦に途中出場したイ・ドングッは、大舞台にも委縮することなくむしろ大胆なミドルシュートを放つなど、積極的にゴールを狙っていた。

グループリーグ最終戦となったベルギー戦を終えたあと、韓国代表の宿舎を訪ねてワールドカップ初出場の感想を聞いたが、「誰も僕のことを知らないはずだと思うと、かえって開き直ることができて思いっきりプレーできました」とおおからに語るなど、スケールの大きさを感じさせた。

イ・ドングッとはこのフランス大会での出会いを機に懇意の間柄となり、彼の要請で小野伸二、小笠原満男、中田浩二ら日本の“黄金世代”と韓国の若い選手たちが本音を語り合った“チェンマイの夜”では通訳を務めたが、とにかくスケールの大きな選手である。

そんなイ・ドングッがフランス・ワールドカップでブレイクしたように、イ・スンウにも同じようなインパクトの再現が期待されていると言えるだろう。

そして、そのポテンシャルが試されるのが、明日のメキシコ戦でもある。

初戦のスウェーデン戦では、韓国メディアがGKチョ・ヒョヌの好セーブを「唯一の希望」と報じるなど不甲斐ない試合を見せただけに、メキシコ戦も厳しい戦いになることは間違いないが、イ・スンウがこの正念場で存在感を示すことができるか。

“韓国のメッシ”は、個性強烈な“風雲児”なのか、無限の可能性を持った“希望の星”なのか。メキシコ戦でその真価が示される“ファースト・インパクト”になることを期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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