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南北共同宣言にも明記。ソン・フンミンも出場濃厚なアジア大会で南北合同チームが結成か

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

世界中の注目を集めた韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による南北首脳会談。「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」という共同宣言も発表されが、今後はスポーツでも南北の交流がさらに盛んになる。

宣言の中には、「2018年アジア競技大会をはじめとする国際競技に共同で進出し、民族の誇りと才能、団結した姿を全世界に誇示することにした」という内容も含まれたのだ。

これはすなわち、今年8月18日からインドネシアのジャカルタで開かれる第18回アジア大会で、南北合同チーム(韓国では南北単一チームという)を実現させることで合意したと、見ていいだろう。

ジャカルタ・アジア大会でも南北合同チームが結成しようという動きは以前からあった。

4月2日に韓国アーティストたちが平壌公演のために北朝鮮を訪問した際、その引率代表を務めた文化観光体育部(日本の文部科学省にあたる)のト・ジョンファン長官が、現地で北朝鮮のキム・イルクク体育相と面談し、アジア大会について意見交換したと伝わったことで、ジャカルタでも南北合同チームを結成することが現実味を帯び始めたのだ。

(参考記事:ソン・フンミンと北朝鮮のハン・グァンソンが競演!? 「サッカー南北合同チーム結成」説が急浮上)

韓国メディアによると、すでに文化観光体育部は韓国のスポーツ団体を統括する大韓体育会を通じて、各競技団体に合同チームの結成の意向を調査しており、バスケットボール、柔道、テニス、漕艇競技、体操、カヌー、卓球など7つの競技団体が前向きな意志を示したという。まだ、どんな競技で合同チームを結成するか決まってはいないが、事前にその意思を確認したのは、平昌五輪での反省があったからだろう。

平昌五輪で結成された女子アイスホッケーの南北合同チームは、現場の意見を事前に訊くことなく政治主導で大会直前に決まり、反発の声もあった。

そうした失敗を繰り返さずに、水面下でその可能性を打診しているだけに、アジア大会での南北合同チーム結成は国内のスポーツファンたちからも好意的に受け止められるだろう。

ただ、一筋縄ではいきそうにない部分もある。というのも、特に男子選手の場合、アジア大会では兵役問題が関係してくるからだ。

韓国では成人男子に約2年の兵役が義務付けられているが、アジア大会で金メダルを獲得すれば、兵役免除を受けられる。そのため、野球などはアジア大会を重視する。

(参考記事:大リーガーがアジア大会に“死に物狂い”になる理由とは? 兵役問題で早まった韓国プロ野球の開幕)

男子サッカーも前回2014年仁川(インチョン)アジア大会で金メダルを獲得し、チャン・ヒョンス(FC東京)やキム・シヌク(全北現代)らが兵役免除になっているが、現在、プレミアリーグのトッテナムで活躍するソン・フンミンはまだ兵役問題を解決できていない。

そのためジャカルタ・アジア大会への参加が濃厚視されており、そういった韓国側の事情が絡んでくることを考えると、男子サッカーでは統一チームの結成は簡単ではないかもしれない。

(参考記事:アジア大会、ソン・フンミンがOA枠でU-23代表に招集確定。元“バルサデュオ”も可能性あり)

いずれにしても、これまで南北は、1991年4月の卓球・世界選手権、同年6月のサッカー・ワールドユース選手権(現在のU-20ワールドカップ)、そして今年2月の平昌五輪・女子アイスホッケーと過去3回の南北統一チームを実現させてきたが、アジア大会に南北合同チームが結成されれば史上初めてのことだ。

幸いにしてアジア大会開幕まであと4か月近い準備期間がある。スポーツのルールに則って引き続き交流と協議を重ね、誰もが納得し誰からも支持される合同チームの誕生を期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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