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ダルビッシュに対する人種差別行為に、韓国が敏感に反応してしまうワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ダルビッシュ投手に謝意を示すグリエル選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

米プロ野球ワールドシリーズをヒューストン・アストロズが制した。3勝3敗で迎えた第7戦、ロサンゼルス・ドジャースは先発したダルビッシュ有投手が1回2/3を投げて、まさかの5失点でKOされた。『日刊スポーツ』によれば、ダルビッシュは試合後「失望というか、自分の引き出しが足りなかったのがすべて」と話したという。

ダルビッシュへの人種差別行為

試合結果は世界中で注目を集めたわけだが、このワールドシリーズ第7戦では、もうひとつ印象的なシーンがあった。アストロズのユリエスキ・グリエル選手が、先発したダルビッシュに対して、第1打席でヘルメットを取って謝意を示したのだ。

というのも、グリエルは第3戦でダルビッシュからホームランを放つと、ベンチで両目尻を吊り上げるようなポーズを取った。これがアジア人を差別する仕草として、大問題となっていたわけだ。

グリエルのダルビッシュに対する人種差別行為については、韓国でも注目が集まっていた。「東洋人侮辱の騒動に立たされたグリエル」「ダルビッシュvsグリエル…食い違うスポーツ精神に“非難爆発”」など、韓国メディアもその見出しで不快感をあらわにしていた。

韓国でダルビッシュが「日本のネトウヨを一喝する骨のある男」として好感度が高いこともあるだろうが、理由はそれ以外にもあると考えられる。

同じ人種差別行為が韓国人にも…

というのも、同じく両目尻を吊り上げる差別行為は、さまざまな国で韓国人に対しても幾度となく行われてきたからだ。

例えば、今年7月には韓国アイドルグループ「KARD」がブラジルで同じような行為を受けている。

KARDがブラジルのテレビ番組に出演した際、番組司会者が観客に「あなたたちはKARDのメンバーと結婚する気か? 君たちも目が細くなってしまうぞ」と発言しながら、両手で目尻を引っ張る仕草を見せたのだ。

(参考記事:「目が細くなるぞ!!」発言に激怒。独、米国に続き、ブラジルでも“嫌韓トラブル”発生のなぜ?

当時は韓国ネット民だけでなく、韓国メディアも事態を重大にとらえて「デビューしたばかりのKARD、海外の放送で人種差別される」(『朝鮮日報』)、「新人グループKARD、ブラジルで“人種差別”騒動」(『MBCニュース』)と怒りをあらわにしていた。

ドイツでも「目が細い」

また、同じような意味合いの事件はドイツでも何度か起こっている。

昨年1月、ドイツのスターバックスで韓国人女性が注文したドリンクのプラスチック製カップに、目の細い人を描いて提供したという話が話題になったことがあった。

ドイツでは以前にも、韓国人女性がドイツ人に「目が細い」などといわれて暴行される事件も起こっている。

(参考記事:韓国否定派が65%!! なぜドイツは世界一の“嫌韓国家”なのか

そういった行為が度々起きていただけに、今回の人種差別騒動を報じる韓国メディアの見出しにも強い嫌悪感が表れるのも当然だろう。

イギリスでは韓国人留学生が暴力事件に

さらに最近は、イギリス・ブライトンに留学中の韓国人留学生が人種差別による暴力を受けたことも影響しているかもしれない。

帰宅中だった韓国人留学生が白人男性から因縁をつけられ、暴力を振るわれた事件なのだが、その理由は「お前がアジア人だから」だったという。

(参考記事:「お前がアジア人だから」韓国人青年に瓶を叩きつけ…イギリスで急増する人種差別

イギリス『BBC』によると、同国では2015年に4万9419件だった人種差別事件が、2016年に6万2685件と27%増加しているそうだが、「アジア人だから」という理由だけで暴力を振るうのはあまりに悪質だ。

今回のダルビッシュに対する人種差別行為は、アストロズが謝意を示したこと、また何よりもダルビッシュ本人が「グリエルを責めるより学べる機会に」と発言したことで、事態は深刻な問題にまでは発展しなかった。

それでも、近年多発しているアジア人に対する侮辱行為は絶対に看過してはならないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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