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海峡を渡った長身右腕・門倉健氏が語る「韓国プロ野球の真実」その3

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
インタビューに応じてくれた門倉氏(著者撮影)

現役時代は中日ドラゴンズ、大阪近鉄バファローズ、横浜ベイスターズ、読売ジャイアンツなどで活躍し、2005年にはセ・リーグの最多奪三振のタイトルを獲得した門倉健氏。2009年から2011年まで韓国のプロ野球で活躍した門倉氏は、コーチとしても韓国プロ野球に携わっている。

かつて所属したサムスン・ライオンズで2013年には投手インストラクターを務め、2015年には1軍ブルペンコーチを務めていているのだ。「韓国プロ野球で活躍した日本人コーチ」は意外と多いが、選手としてプレーし、コーチとしても韓国プロ野球に携わったのは門倉氏だけだ。

そんな門倉氏が語ってくれた「韓国プロ野球の真実」。最終回は韓国プロ野球の課題ついても語ってくれた。

―韓国プロ野球で選手としてプレーし、コーチも務めたのは門倉さんだけだと聞いています。やりがいがあったんじゃないですか?

「ありましたね。現役時代から韓国の選手たちからアドバイスを求められましたが、コーチになったことで僕なりに自分のノウハウを伝えようと頑張りました。韓国人コーチとは違うアプローチも意識しましたし」

―というと?

「韓国は上下関係というか、年功序列というか、縦の人間関係に厳しいじゃないですか。そのせいか、選手がコーチに遠慮しているというか、例えばコーチに何か聞きたいことがあっても、なかなか選手のほうから言い出せないような雰囲気があったんです。僕は選手たちのそういう遠慮というか気後れを、させたくなかった。幸いなことに、選手たちも僕のスタンスを感じ取ってくれて、よく聞きに来てくれました。“こういうときはどうすればいいですか?”、“フォームをチェックしてくれますか”、“どこを直すべきでしょうか”と。とても素直というか積極的なので、選手たちが可愛くてしょうがなかったですね。この子らに、自分の持っている経験を全部教えてあげようという気持ちになりました」

―以前、サッカー韓国代表でフィジカルコーチを務めた池田誠剛さんにも聞いたのですが、池田さんや門倉さんは、日本のライバルである韓国を強くしているわけじゃないですか。池田さんは「“韓国を強くしたい”がモチベーションではなく、“アジアサッカーの発展が日本サッカーの強化につながる”という気持ちだった」とおっしゃっていましたが、門倉さんはどうですか?

「僕も同じですね。韓国のレベルが上がれば日本も刺激を受け、結果的には日本や韓国はもちろん、アジアのレベルが上がっていく。そういう気持ちでした。まして韓国の選手たちは、日本野球に対するリスペクトがあったので、余計に日本野球の素晴らしさや技術面など、いろんなものを彼らに教えたくなりました。今季から元日ハムのヒルマンさんがSKワイバーンズの監督になりましたが、彼もきっとそういう感覚だと思いますよ。国とか民族とか国籍とか関係なく、その国の野球のレベルを高めることに貢献したいという…」

(参考記事:北海道で愛された元日ハムのヒルマン監督は韓国球界でも成功できるだろうか)

―韓国では、リック・バンデンハーク投手の才能を開花させたのも門倉さんだと言われています。今や福岡ソフトバンク・ホークスのエース級ですよね。

「そうですね。バンデンハークはメジャーを経験していたとはいえこれといった結果を残せず、韓国でも1年目は7勝9敗と適応に苦労していましたが、2年目に大きく飛躍した。彼は韓国プロ野球を経験できたことが、今の日本での成功にも繋がっていると言っていますが、そういった彼のキャリア作りにコーチとして少なからず貢献できたことを、僕も嬉しく思います」

―バンデンハーク投手だけではなく、韓国プロ野球を経験して日本に来る外国人選手も多いですよね。なぜ韓国で活躍した外国人選手は、日本で活躍できるんですか?

「これは僕の私見ですが、まずはアメリカから直接日本に行くと、野球の違いに戸惑うんですよ。アメリカの野球は大雑把な感じがあるとすれば、日本の野球は緻密。そのギャップに戸惑い時間がかかるのですが、アメリカと日本の間のちょうど中間にあるのが韓国野球という感じなんですね。例えばストライクゾーンも、アメリカよりも韓国のほうが密で、日本はその韓国よりももっと密になっている。そういう違いがあるわけで、その違いをまずは韓国で経験し、その上で日本に来るという段階を踏んでいることも大きいと思いますね。最近は日本球界を経験した外国人選手が韓国に行くという流れもあるようですし」

(参考記事:伸び悩む韓国社会を象徴している!? 韓国プロ野球の開幕投手が全員外国人になった理由)

―外国人選手が日本と韓国を行き来している一方で、韓国と日本の選手の行き来は最近少ないような…。韓国最高左腕とされるヤン・ヒョンジョンもDeNAからの誘いに乗りませんでした。韓国では近年、投手難が深刻になっているとも言われますが、門倉さんから見て韓国人投手たちに足りないことは何だと思いますか?

「ピッチングフォームはもちろん、メンタル面や配球の組み立てなど、もうすべてですね。韓国の選手たちはプロになっても高校生レベル程度の知識と技術しかないんですね。素質はあるので、子供の頃からもっと細かく教えてあげるべきだと思います。誤解を恐れずに言えば、選手たちの素質や能力は高いのですが、その才能を伸ばすコーチや指導者たちの指導能力がまだまだちょっと足りないなぁというのが、韓国野球を経験した率直な感想ですね。韓国の高校野球でどのような指導が行われているかはわかりませんが、もっと工夫に富んだ指導であったり、理論や根拠に基づいた指導で選手たちを育てていくべきではないかと思います」

(参考記事:大谷翔平の高校時代を知る韓国の“大谷世代”たちは今、何をしているのか)

―なるほど。韓国球界は指導者のレベルアップも課題というわけですね。門倉さんオフィシャルブログを拝見すると、最近は野球解説者などを務める傍ら、野球教室などにも積極的に参加されていますよね。教えることは楽しいですか?

「楽しいですねぇ…。小学生を教えることがこんなにも楽しいとは思いせんでした(笑)。僕が子供の頃は、プロ野球選手に教えてもらうなんて夢にも考えられなかったのですが、自分が経験できなかったことを今こうして子供たちにできて、とても嬉しく思います」

―まさに第二の野球人生を謳歌されているわけですね。そういった子供たちの指導も含めて、最後に今後の目標などを聞かせてください。

「やはり将来的にはプロで指導者になることですよね」

―韓国ではすでに経験しましたから、次は日本ですか?

「それはもうどちらでも(笑)。韓国であれ、日本であれ、野球は一緒ですから」

―今回はありがとうございました。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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