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キム・ヨナの番記者に直撃!! 羽生結弦が韓国で評価が高い本当のワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソチ五輪のエキシビジョン練習中に談笑するキム・ヨナと羽生結弦(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

「キム・ヨナなしで3年目、韓国フィギュアの自尊心を再生せよ」。これは3月31日から始まる世界フィギュアスケート選手権を前に、韓国の大手通信社『聯合ニュース』が報じた記事の見出しだ。記事はこう報じている。

「韓国は歴代世界選手権で金メダル2つ、銅メダル2つを勝ち取り、歴代メダル順位で世界ランク20位になった。そのすべてがキム・ヨナによるもので彼女のおかげで韓国は“フィギュア強国”として認められたが、キム・ヨナが銀盤を離れたあとの世界選手権ではメダル圏内にも接近できていない」

確かに韓国フィギュアはキム・ヨナ引退後、スター不在に悩まされている。最近は天才小学生ユ・ヨンなど新鋭も頭角を現れているが、年齢のために今回の世界選手権はもちろん、2年後に迫った平昌(ピョンチャン)五輪にも出場できない。

(参考記事:「韓国に待望の“キム・ヨナ2世”出現も平昌はお預けのワケ」

そんな現状だけに一世を風靡したキム・ヨナ時代を懐かしむ声は多い。韓国のスポーツ新聞『スポーツ朝鮮』フィギュアスケート担当として、長らくキム・ヨナ番を務め現在はフリージャーナリストとして活躍するイ・ゴン氏も言う。

「韓国のスンニャンイ(ヨナ・ファンの総称)たちは、今でもヨナの引退を惜しみ恋しがる者たちが多い。彼女は引退しても韓国フィギュアの象徴なんですよ」

引退してもなお熱狂的な人気を集めるキム・ヨナ。現在は平昌五輪広報大使を務める傍ら、フィギュアスケートの普及にも努めており、チビッ子たちに教えるその姿や表情は意外だったとして、好感度もさらにアップした。彼女の一挙一動は今でもニュースになるほどだ。

(参考記事:「韓国のフィギュア女王キム・ヨナは今、何をやっているのか」

(参考記事:「あっ!と驚いた表情がかわいい、童心に帰ったキム・ヨナ」

興味深いのは、そんなヨナ・ファンたちの間で日本の羽生結弦の評価が高いことだ。もともと韓国では羽生の評価が高く、韓国では「男版キム・ヨナ」と言われてきた。“ウセンキョルヒョン”という別名もあるほどだが、イ・ゴン氏によればヨナ・ファンたちの間で羽生の評価が高いのはそれなりの理由があるしらい。

(参考記事:「韓国でも有名な羽生結弦、別名「ウセンキョルヒョン」とはどんな意味?」

「スンニャンイたちが羽生を好むのは、日本人選手ながらどこか中性的で日本人らしくない雰囲気など、彼の“スタイル”にあります。また、ヨナと同じコーチに師事していることも大きい。スンニャンイの一部にはブライアン・オーサーにまだわだかまりを持つ者もいますが、彼の指導者としての実績は認めているし、羽生の振付師がデヴィット・ウィルソンだった(現在はシェイ=リーン・ボーン)という点にも好感を持っている。ヨナと共通点が多いことが、羽生人気の理由でもあると思います」

実際、キム・ヨナと羽生には共通点が多い。前出の師事したコーチだけではなく、五輪で金メダルを獲得したときの年齢や、ともに“辛い過去”を乗り越えてきたことなどが共通点として挙げられているそうだ。

(参考記事:「羽生結弦とキム・ヨナの3つの共通点」

ただ、イ・ゴン氏はそうした共通点だけがヨナ・ファンたちの羽生支持につながっているのではないと見ている。

「韓国フィギュアの現状に対するもどかしさが、スンニャンイたちの関心を羽生に向けさせている点もあると思います。というのもスンニャンイたちはプライドが高い。ヨナが今でも最高だと思っているし、それゆえに排他的でもあるんです。しかも、韓国にはスンニャンイたちを満足させる選手がいないどころか、世界レベルから遠のくばかり。ヨナを機にフィギュアに目覚め関心があるスンニャンイたちは、ヨナに代るアイドルを探さなければならなかった。そんな中で登場したのが、羽生だったのです。外見もよく実力も素晴らしい羽生に、かつてのヨナの姿を重ねているのではないでしょうか」

キム・ヨナに熱狂した頃の郷愁とスター不在の韓国フィギュアの現状への不満が、韓国における羽生人気にもつながっているというのはいささか歪な感もあるが、韓国ファンの間で厳しい評価もある宇野昌磨とは対照的に、ヨナ・ファンたちの間で羽生が高い評価と関心を集めているのは間違いなさそうだ。

(参考記事:「“不毛地帯”とされる韓国男子フィギュアの知られざる現状」

(参考記事:「韓国ファンが宇野昌磨に厳しい理由」

イ・ゴン氏は続ける。

「それに羽生はまだまだこれから先がある選手。今回の世界選手権をはじめ、今後も多くの快挙を成し遂げていく選手でしょう。今後2年間は全盛期で、おそらく羽生自身も最高目標として平昌五輪での金メダルを意識しているはず。スンニャンイたちも羽生にはその可能性が十分にあると予想していようです」

つまり、ヨナも成し遂げられなかった五輪連覇も夢ではないということだが、羽生がその快挙を成し遂げたとき、果たしてプライドの高い韓国のヨナ・ファンたちはそれをどう受け止めるのだろうか。きっと複雑な表情を浮かべるに違いない気がするが…。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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