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岡田利規×藤倉大による新作音楽劇が「ウィーン芸術週間」に向けて準備スタート

新川貴詩美術/舞台芸術ジャーナリスト
1973年横浜生まれ photo Shinkawa Takashishi

 目下、岡田利規が新作音楽劇に取り組んでいる。

 藤倉大が音楽を手がけ、その演奏はKlangforum Wien(クラングフォラム・ウィーン)らが担当、2023年春に「ウィーン芸術週間」で初演を迎える。

 なお、この芸術祭では毎回、音楽劇の新作が目玉プログラムのひとつとして上演される。ではなぜ、岡田に白羽の矢が立ったのか? 岡田に経緯を尋ねた。

岡田 「ウィーン芸術週間」の総芸術監督を務めるクリストフ・スラフマイルダーさんから依頼があり、音楽劇を上演することになりました。『藤倉さんがいいのでは?』という提案も彼からです。彼とは長いつきあいで、2007年にチェルフィッチュが初めての海外公演を行った時以来です。

 岡田率いるチェルフィッチュは、ヨーロッパの舞台芸術界でもっとも重要視されるフェスティバルのひとつ『クンステン・フェスティバル・デザール2007』(ベルギー・ブリュッセル)にて、『三月の5日間』を上演。この芸術祭のディレクターがスラフマイルダーだった。また、13年には『地面と床』がブリュッセルで世界初演され、これを手がけたのも彼である。そして彼は「ウィーン芸術週間」の総芸術監督に就任した。

チェルフィッチュ×藤倉大 with Klangforum Wien ワークインプログレス公演の様子。演奏はアンサンブル・ノマドと吉田誠(右端) 撮影 加藤和也
チェルフィッチュ×藤倉大 with Klangforum Wien ワークインプログレス公演の様子。演奏はアンサンブル・ノマドと吉田誠(右端) 撮影 加藤和也

 前述のとおり、新作の音楽劇が発表されるのは、再来年の23年春だが、準備はすでに着々と進む。21年11月には、東京でワークインプログレス公演を実施。俳優たちはプリントアウトを片手に台詞を読み、体を動かした。また、Klangforum Wienが演奏するさまが映像で流され、アンサンブル・ノマドと吉田誠は舞台で楽器を奏でた。そして、ロンドンにいる藤倉大と岡田および出演者たちが意見を交換した。

オペラに代表されるような音楽劇と違うアプローチができないか

 なお、その公演は公開されたが、先立つ7月にはクリエーションワークショップを実施。藤倉がオンラインで立ち会うもと、10日間にわたってリハーサルを行った。このように、念入りに練習を重ねてきた新作音楽劇について、岡田に聞いてみた。

(以下のインタビューは11月のワークインプログレス公演の前日に行われた)

ロンドンにいる藤倉大(写真中央)は俳優や演奏家たちとオンラインでミーティングを行った 撮影 加藤和也
ロンドンにいる藤倉大(写真中央)は俳優や演奏家たちとオンラインでミーティングを行った 撮影 加藤和也

──約2年も前からリハーサルを始めた理由は?

岡田 新しくて、どんな形で完成するのか予測が難しい作品を準備する場合、プロセスを踏んだほうがいいという経験があって。藤倉さんと音楽劇をつくることがどんなことなのか、われわれも見つけ出していく必要がある。そして、ちょっとずつ見つけられてきている。

──「新しい音楽劇をつくってみたいのです」とコメントしてますが、「新しい音楽劇」とはどのようなものを念頭に置いてますか?

岡田 音楽劇って山ほどあって、たとえば能だって音楽劇です。ウィーン含めヨーロッパでいうと、いわゆる西洋クラシック音楽をもとにしたオペラに代表されるような音楽劇がありますよね。そうしたものとは違うアプローチができないかと考えています。

音楽劇なのに、出演者は歌わないし、歌もない

──出演者は歌うんですか?

岡田 歌いません。

──歌はあるんですか?

岡田 ありません。

──つまり、歌劇ではまったくない?

岡田 そうですね。

──それは最初から決まっていたんですか? それとも打ち合わせを続けるうちに決まっていったんですか?

岡田 出演者は最初から決めていたが、歌に長けている俳優ではない。それを求めるつもりもなかった。

──ダイアローグ(会話)はあるんですか?

岡田 あります。ぼくとしてはダイアローグのつもりですが、見た人がどう思うかはわかりません。

──音楽はもうできてるんですか? それとも、いま進みつつある感じですか?

岡田 はい、進みつつあります。まだテキストも完成してませんし。もちろん音楽とテキストは結びつくので。

舞台ではKlangforum Wienの演奏も映像で公開された 撮影 加藤和也
舞台ではKlangforum Wienの演奏も映像で公開された 撮影 加藤和也

俳優の想像と音楽が組み合わさることに取り組んでみたい

──本作の音楽と演劇は、どちらかが主でどちらかが従という関係ではないというわけですか?

岡田 もちろんです。音楽とテキストをベースに演技をする俳優たちによる演劇といっていいのかもしれない。音楽だけが流れている時間以上に、俳優の演技と一緒に演奏される音楽がよりいっそう聞こえてくるような上演であれば、それは音楽劇といっていいと思う。こういう考え方は、オペラを経験して思えるようになりました。

 先日、オペラを仕事で初めて手がけました(『夕鶴』)。しかし、「ウィーン芸術週間」での新作上演が決まったのは、オペラを手がける前の段階。だから、オペラを手がけた後の今では、音楽劇に関する認識が違います。

 音楽というものは、そもそも抽象的でありえる。でも、たとえばオペラのように物語と併せて演奏することで、音楽の抽象性が何かを意味するものや、何かを物語るものに化しかねない。

 音楽と演劇がどう結びつくのかと考えると、オペラの場合、そのシーン全体だけじゃなくて、登場人物の心情とか感情に結びついたりしていると思います。でも、そうではなくて、舞台上の俳優がその時思い描いている想像と音楽が結びつくようなことをやってみたい。つまり、感情と音楽の組み合わせではなく、想像と音楽が組み合わさることに取り組んでみたくて。

──美術や衣装は進んでいますか?

岡田 ぜんぜん進んでいません。まだまだこれからです。でも、美術はないかもしれません。なぜなら藤倉さんの音楽があるからです。

 現在進行中の音楽劇がどのように発展していくのか、期待大である。

美術/舞台芸術ジャーナリスト

出版社に勤務した後、執筆活動を開始。国内外の現代アートをはじめ演劇やダンスなど舞台芸術に関して、雑誌や新聞、ウェブメディアなどに執筆。主な著書に『残像にインストール 舞台美術という表現』(光琳社出版)、主な編書に『蓬莱山 蔡國強と大地の芸術祭の15年』(現代企画室)などがある。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院情報通信専攻修了。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。プロフィール画像撮影:松蔭浩之

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